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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第三章 大剣使いの冒険者と不思議な侍女ライリ
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第48話 夢と現実は違うんだぜ

「旦那様、お帰りなさいませ。 ご飯とお風呂、どちらにになさいますか? それとも…… 私になさいますか?」


おいおい、どこの新婚家庭だよ!

二人っきりならまだしも、俺達は朱雀館のファミリールームに泊まってるんだぞ。

一緒に帰って来たアンナが固まってんじゃねぇか!

ドアを開けたらライリの奴が待ち構えてやがったんだが…… それって裸エプロンじゃねぇか!


「まぁ…… やっぱり私ですか? もう…… 旦那様ったらアンナさんもいるのに恥ずかしいです。 仕方がない旦那様ですね……」


恥ずかしそうに俺に抱きついて来るライリ。

……待ってくれよ! 流石の俺もアンナの前でそれはキツイぞ。


「うわぁっ! ちょっと待ってくれ、ライリ! いくら何でも人前でそれはねぇだろうが……」


そんなライリからの熱烈な愛のアプローチを受けた瞬間に眼が覚ます俺。


「な、何だよ夢か……」


辺りを見渡して誰もいない事を確かめた俺は深い溜め息を吐く。

昨夜は久しぶりに一人で寝たんだが、どうも寝付けなかったのは我儘だよな。

ライリがいなきゃいないで落ち着かねぇんだから情けねぇ話だ。

ライリやアンナは隣の部屋で寝ているからな。

夜這いをかけられる事も無く、穏やかな朝を迎えられたんだが逆に心配になっちまうんだから変な話だ。

上半身を起こすと足をベッドから下ろして腰掛けるとドアをノックする音が聞こえた。


「旦那様、お目覚めですか? 何やら声を上げていたようですけど、どうかしたのでしょうか?」


ライリが心配して声を掛けてくれたみてぇだ。

どうやら隣の部屋にまで聞こえる声を上げていたらしい。


「ちょっと変な夢を見ちまってな。 気にしないでくれ。 じゃあ、そろそろ動き出すとするか」


ちょっとライリの様子がおかしいのが気にはなるが、やらなきゃならねぇ事はあるならな。

今日は因縁浅からぬ相手でもあるロイ・ガーランドに会う事になっている。

ユダ・パープルトン侯爵のために王都滞在時の屋敷を手配すると言う名目だ。


「ねぇ、本当にこの格好じゃなきゃいけないの? スカートが短過ぎると思うんだけど……」


前にも同じ事を言ってた気がするぜ。

短いスカートの後ろを気にしてるがパンツくらい見せても減るもんじゃねぇだろうが。

アンナにはパックリ開いた胸元が結構セクシーなメイド服を着て貰っている。


「ああ、奴は極度のメイド好きだからな。 そう言う刺激的なメイド服も好きな筈だ。 前の時もガッツリ食い付いて来たから間違いねぇよ」


何か言いたそうな顔はしていたが我慢してくれるみてぇだな。


「私は普通のメイド服で良いのですか? アンナさんのような刺激的な感じではありませんけど」


ライリは普段のメイド服のままだ。

やっぱりコイツには可愛らしい清楚な雰囲気が似合うからな。


「やっぱりライリに似合うのは清楚な感じだ。 奴が惚れ込んでいる理想のメイドはクレアだが、戦えないアイツを巻き込むのは危険が大き過ぎるからよ。 アンナは元より今ならライリも戦えるし、もしもの時は期待しているぜ」


まぁ、アンナの前じゃ言えねぇがライリの場合は俗な例えとかで聞く"昼は淑女のように、夜は娼婦のように"って言葉みてぇな感じだけどな。

俺が驚く程に二人っきりの夜には、かなり積極的だったりもするからよ。

男にはそのギャップが堪らねぇんだ。

小さな頃から見知った相手だから複雑な思いがしないでもねぇが、好きになっちまったもんは仕方ねぇよ。

そんなライリもランチタイムの仕事は終わったから後は自由に動ける。

その間に俺とアンナは例のメイド服を買いに行って来たと言う訳だ。


「少し恥ずかしいですが分かりました。 もしもの時はお任せ下さいませ。 旦那様の背中は私が守ってみせます」


ライリの奴、随分と嬉しそうじゃねぇか。

まぁ、今まで戦闘で頼りにした事は無かったからかも知れねぇな。

置いていかれて心配しながら待つだけってのも辛いだろうよ。

出会った頃からライリは我慢してたのかもな。

一緒に付いて行きたい気持ちを堪えてさ。


「ああ、頼りにしてるぜ。 じゃあ、そろそろ行くとするか!」


ロイ・ガーランドと戦った際には王都の外れにある別荘でメイドの死体を集めてやがったが、まだ屍体愛好家には目覚めてねぇらしい。

気になった俺は冒険者ギルドで調べてみたが、メイドの行方不明事件なんて発生して無かったからな。

取り敢えず今回はパープルトン侯爵家の王都での屋敷を探す目的を利用して、奴の現状の様子を把握しておきたいって言うのが一番の目的だ。

そんな俺達が目指したのは王都中心部にある奴の屋敷になる。






「これはこれはパープルトン侯爵家からの方ですね。 お話は侯爵様からの手紙で既に存じております。 ご希望に添えると思われる屋敷は数件見つけてありますので、ご安心下さい」


俺達を出迎えてくれたのはロイ・ガーランド本人だったのには驚いた。

まだ若いから俺が知ってるロイの奴とは雰囲気も違うが面影があるように思える。

気になって手を見たが、まだ死霊使いの指輪はしてねぇな。


「そりゃあ、楽しみだ。 用心棒の俺も自慢のメイド達と屋敷で暮らす事になってるからな」


俺が自慢のメイド達と口にするとロイの奴がニヤリと厭らしい笑みを浮かべやがった。

コイツのメイド好きは承知済みだからな。


「私も幼い頃は貧しい生活を送り、美しいメイド達に囲まれて過ごす生活に憧れたものです。 仕事で父に連れられて美しいメイド達を目にした時には将来彼女達を雇って自分のものにするのだと誓い、それを夢見て辛い思いにも耐えて王宮にまで出入りする商人になりました」


ロイが語る話は俺も奴自身に聞かされた事がある。

その夢がとんでもねぇ狂気に繋がるんだからな。


「彼女達とは会ったのか?」


会ったら彼女達の年老いた姿に絶望して皆殺しにしちまう筈だ。

奴が幼い頃に出会った女達だからな。

だけど奴の中じゃ昔の美しいままなんだろうぜ。


「色々と手を尽くして探させていましてね。 漸く探し当てて手紙を送り、今度皆さんと会う事になっています。 まるで夢のようです」


おいおい、それってヤバイだろ。

会ったら最後、老いたメイド達はロイに皆殺しにされちまうぞ。


「会ったのは幼い頃なんだろ? 彼女達も年老いている筈だ。 昔の幻想を抱いたままならやめておけ。 現実を知ってお前に我慢出来るのか?」


予め知っておけばショックは和らぐだろうが、コイツはまともじゃねぇからな。


「何を言ってるのですか? 彼女達の美しさは永遠に変わりませんよ。 そう…… 私の夢が変わる訳がないじゃないですか」


ダメだ…… やっぱりまともじゃねぇ。


「ロイさん、夢は夢です。 貴方だって歳をとりましたよね。 逆に彼女達の思い出の中では貴方は幼い頃の可愛らしい子供のままです。 それをどう思いますか?」


ライリがロイに語り掛ける。

なんかライリが言うと現実味があるんだよな。


「私が老けた分だけ彼女達も年老けている筈…… 夢は夢と言う事ですか…… 厳しい現実ですね」


どうやら気付いたらしいな。

そんな事にも気付かないくらい夢見てやがったのかよ。


「例え老いていようとも深く愛していれば、その思いは変わる事はありません。 再会して老いた姿を嘆くのなら貴方の思いが憧れだっただけで愛していたのでは無いと言う事です。 その覚悟が無いのなら夢は夢として美しいまま心の中にしまっておく事です」


俺とライリもいつかは爺さん婆さんだからな。

でも老いたってコイツに対する思いは変わらねぇだろうぜ。

それはきっとライリも同じ筈だ。

俺にしてみれば、ライリにはますます頭が上がらねぇかも知れねぇな。


「そうですね…… 私の心は弱い。 もしも現実を突き付けられたらどうなるか自分にも分かりません」


……狂うんだよ、お前は現実に負けてな。

俺は奴が死霊使いの指輪で操っていた筈のクレアに手足を折られ身動き出来ないまま焼け死んだ時のロイの断末魔を思い出す。


「お前に尽くしてくれるメイドを探すんだな。 コイツらみたいな可愛らしい奴をさ。 そして一緒に過ごせはメイド好きのお前は必ず愛しちまうから全てが愛おしくなっちまうぜ。 互いに爺さん婆さんになるまでな」


夢は夢だ…… 現実の愛を知れば奴も変わるだろうぜ。

それでも変われないのなら…… その時は俺の出番だ。

大剣で真っ二つにしてやるまでだからな。


「貴方は素敵なメイドを雇っていますね。 私も良いメイドに巡り合いたいものです。 もう一人の方は…… 夜専門の方ですか? 昼間からその格好はどうかと思いますが…… いえ、お気になさらずに…… そう言う趣味もありますからね」


ロイの言葉にアンナが俺を睨み付けて来やがったぞ。

完全に露出狂扱いだからな…… 前はそのアンナの姿に食い付いて来たんだが、それは奴がおかしくなってからだったか。


「ああ、そうすると良い。 メイド組合を訪れる事をお勧めするぜ。 そこで俺はライリと出会ったからな」


「メイド組合…… そうですか、貴方が勧めるのですから訪れてみようかと思います」


随分と素直だな…… まぁ、それでクレアみたいな不幸な女性がいなくなるなら文句はねぇか。

更に戦わずに済むんだからな。

ロイが真に愛する事の出来るメイド巡り合う事が出来るのを願うぜ。

変な趣味に走らなきゃいいんだが…… それだけは気掛かりで仕方ねぇ。

俺は話をまとめてくれたライリに笑みを送る。

コイツは相変わらず凄ぇなと改めて思うぜ。

役に立てたのが嬉しかったらしく人目も気にせず腕を絡ませて来たのを、この時の俺は気にもしなかったが昔のライリなら考えられなかった行為の筈だ。

苦笑いを浮かべながらアンナを見ると動揺した様子で目を背けたのは一体どうしたんだろうか?

何となく気にはなったが今はロイに屋敷へと案内して貰うのが先だな。

用意された馬車に乗り込んだ俺は満面の笑みを浮かべているライリを見下ろしながら、侯爵領にある懐かしい家での生活を思い出していた。



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