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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第三章 大剣使いの冒険者と不思議な侍女ライリ
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第47話 アンナはアンナ

「へ〜 様になってるじゃねぇか! 流石はアンナだな。 スピードもあるし、それなら申し分ねぇよ」


漆黒の双剣、ムニンとフギンを難無く扱うアンナの流れるような動きを見て俺は感嘆の言葉を贈る。

本来アンナはスピード型の剣士だからな。

アンナが使うには丁度良かったみてぇだ。

だが、それは人型の敵に対してだかな。

ドラゴンとかには通用しねぇが、アンナが戦う事もねぇわな。


「もう…… そんなにジロジロ見られたら恥ずかしいじゃないの。 またライリちゃんに嫉妬されるわよ」


アンナが言う通りライリの嫉妬は目に余るものに変わっていた。

五人で一緒にと言っていた筈なんだが…… こうなったのは俺が記憶を取り戻しちまってからだろうか?

王都に向かう宿場町で肌を重ねる度に俺への思いが強くなっていったような気もするが……

少しの時間でも離れようとしなかったからな。

トイレに行けば、その前で待ちながらしきりに話し掛けて来たが、アレには参ったぜ。


「ライリはランチタイムの最中で厨房に入って指導しているからな。 流石に今くらいは俺も自由にさせて貰うよ」


厨房にいて欲しいとは言われたんだが、俺は料理人じゃねぇからな。

衛生観念から言って居ていい存在じゃないからと理由をつけて出て来た次第だ。


「そう言えば…… マリンちゃんに聞いたんだけど私があなたのタイプの女性ってホント? 私はてっきりライリちゃんが言うように、あなたって幼女好きのロリコンだとばかり思ってたんだけど……」


マリンが冒険者になりたいと俺の真似をするから、真似するならせめてアンナにして欲しくて苦し紛れに言っただけだったんだがな。

口調まで俺の真似をしやがるのは驚いたが、あのまま育った日にはヨハンだけじゃなく、ランス国王からも恨まれちまう。

アンナに今更それは違うと言うのもな…… ただの言い訳だったが随分と嬉しそうにしてやがるからな。


「ああ、初めて出会った時に可愛らしい奴だと思ったのは確かだよ。 それは嘘じゃねぇが、あの時はアンナから誘って来たからな…… 随分と積極的な奴だなと驚いたのを今も覚えてるぜ」


今回は殺人鬼扱いだったが…… まぁ、あの場面に遭遇したら仕方ねぇだろうよ。

ヴィッチ達を襲おうとした暴漢を次々と斬り殺していたからな。


「ねぇ…… ずっと気になっていた事があるんだけど聞いてもいい?」


アンナが何やら言いにくそうに聞いて来た。

一体何が聞きたいのか検討もつかねぇよ。


「ああ、言ってみろよ。 俺が答えられる事ならな」


本当にロリコンなのかとかじゃねぇだろうな。


「私はあなたの傍に13年も一緒にいたのよね…… それなのにどうして私と結婚しなかったの?」


俺が良く知ってる方のアンナの方の話か…… こればっかりは言い難いが、どう話したもんかな。


「俺の判断ミスから大切な仲間を三人も死なせちまった事があってな。 その時に俺を助けて死んじまった内の一人が、お前も会った事のあるカイルさ。 アンナにも右腕の腱を切られる大怪我を負わせちまった」


「利き腕で二度と剣を握れねぇんだ。 冒険者としての道を俺が絶っちまったのさ。 俺はアンナが冒険者に戻りたいと言い出すのが怖かった。 だから冷たく突き放したのさ。 その内にアンナは冒険者ギルドの受付嬢として働きだしたんだが俺はお前から一緒に冒険に出たいと言われるのが怖くて極力避けるようになった。 どう思われようと、お前を死なせちまうのだけは嫌だったんだよ」


「そのまま何年も過ぎた頃、俺はライリと出会ったんだ。 ライリがアンナと友達になった関係で一緒に過ごす機会が増え始めて…… 最終的にはガキまで出来ちまった訳だ」


まぁ、大体はこんな感じだろうよ。

アンナの奴は黙って俺を話を聞いていた。


「そっか…… ちゃんと愛されてたのね。 安心したわ」


少しホッとした様子で軽く笑みを浮かべたアンナが俺の傍へとゆっくりと歩み寄り、胸に寄り掛かって来た。

結局、婚約したたけでアンナとは結婚は出来なかったからな。

目の前のアンナだって結果だけ聞いただけなら、出会って13年も何してたんだと心配にもなるか…… 本当に済まねぇ。


「大切に思っていたのは間違いねぇよ。 その結果として辛い思いばかりさせちまったけどな」


上目遣いで俺を見上げる若いアンナが、俺の良く知るアンナと重なって見えた。


(あなたって本当に馬鹿なんだから、私があなたの背中を守ってあげるって約束した筈よ。 怪我なんて覚悟の上に決まってるじゃない。 左腕一本だって十分に戦えるんだから!)


きっと突き放すような真似をしなければ、お前ならきっとそう言って笑ってくれたんだろうぜ。

ああ…… お前は俺には勿体無いくらい最高の相棒だったよ。


「ねぇ…… どうして泣いているの?」


アンナが心配そうに俺の頬に手を伸ばす。


「もうアンナに会えねぇのかと思っちまったら自然とな…… カッコ悪い所を見せて済まねぇ」


ライリとユナ以外は…… 俺との思い出がねぇからな。

ライリの不思議な力で婚約指輪を貰う場面だけは夢で見る事が出来たが…… それだけだ。


「ねぇ、私じゃダメなの? 私だってアンナなのに…… 私じゃ愛して貰えないの?」


記憶が戻った俺にしてみれば目の前にいるアンナは別人だからな。

同じように愛せるかなんてわからねぇよ。


「今のお前とは出会ったばかりだろ。 俺じゃなきゃならねぇ理由はねぇんじゃねぇか?」


まだ別の幸せだって見つけられる筈だ。

マリンだって、まだ3歳だからな。


「あなたに初めて出会った時に私から誘ったんでしょ? でもね、私はそんなに尻の軽い女じゃないわ。 だったら…… あなたに一目惚れしたに決まってるじゃない! それは私だって同じだわ、同じアンナなんだもの」


やっぱりコイツもアンナなんだよな…… 面影が重なって見えちまう。


「馬鹿だなお前は…… 絶対に苦労するぞ。 後で後悔したって知らねぇからな」


認めるしかねぇか、アンナはアンナだ。

コイツとは少しずつ思い出を作って行けばいいんだな。


「それ以上に私を幸せにしてくれるんでしょ?」


そう言って目を閉じるアンナ。

俺達は自然な流れで唇を重ねていた。

最初は優しいキスだったが、次第に頭を抱き抱える程の熱いものへと変わって行く。


そんな俺達を離れた場所からライリが見ていたなんて気付く筈も無かった。

その目を見たら俺はきっと驚いた筈だ。

今まで俺が見た事もない、ライリの嫉妬に狂った女の目だったんだから。



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