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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第三章 大剣使いの冒険者と不思議な侍女ライリ
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第43話 孫がそんなに可愛いのかよ

まさかユダ・パープルトン侯爵に見つかるとは思わなかったが、何やら様子がおかしい気がしてならねぇんだが俺の気のせいか?


「ユナと申したな。 其方は誠にヴィッチの娘なのか? その相貌からは嘘だとは思えんのだ…… 娘のヴィッチと言うよりも我が妻カテジナの面影があるのだからな」


ユナは婆さん似と言う訳か、コルツの血筋は何処へ消えちまったのかね…… 俺も人の事は言えねぇけどよ。

生まれた息子はどう見てもアンナ似としか言いようが無かったからな。


「お爺様、私が未来の世界から来たと言って信じて貰えますか? そこにいる我が旦那様に会うために時を超えてやって来たと……」


ユナが俺を見るとユダもコッチを見て何やら考えてやがる。


「何故、傭兵の妻になるのだ? 貴族としての誇りはどうしたのだ!」


チッ、やっぱり貴族主義者かよ。

まぁ、ユナも最初はそうだったからな…… 初めは蔑んだ目で俺を見てたんだから変われば変わるもんだよな。

チラッとユナを見れば俺と目が合い嬉しそうに笑みを返して来る。


「その方は将来アンノウン伯爵と呼ばれる事になりますわ。 国王陛下の孫とも結婚する輝かしい未来を持つ方です。 ですが私はそのような肩書きには一切興味はありませんの。 旦那様自身に惚れ込み未来から会いに来たのですから」


ユナが口にしたのはアンノウン伯爵の名か…… 夢幻みてぇな存在だぞ。

死んじまって全てがパーになっちまったが。

息子の代じゃ子爵になれそうだったが、色々あって結局は準男爵に落ち着いたんだよな。


「そのような事が起こると言うのか…… 信じられん。 何を証拠に与太話を信じろと言うのだ!」


ユダが怒りを露わにしてやがる。

それが普通の反応だろうよ。

さて…… どうやって信じさせればいいのか。


「旦那様、その野性味溢れるお姿も素敵なのですが、元の姿に戻られませんか? その不思議な力を示せば頭の固いお爺様でも信用して頂けると思うのです」


それって俺に本来の16歳の姿に戻れと言うのかよ…… 俺は別に構いやしねぇんだが、あのライリの喜びようを見ちまうとなぁ。

近くに立っているライリに目をやると思った通り寂しそうな表情をしてやがる。

……どうしたもんかな。


「ユナちゃん、私が元に戻りましょう。 この姿のまま家には帰れないのよ。 あの人が驚いてしまうわ。 それでいいわね、ライリちゃん」


お袋がライリにウインクしてみせる。

どうやらライリの心の内はお見通しらしいぜ。

アイツが一番に望むのは出会った頃の俺の姿だろうからな。


「ええ、それで構いませんわ。 では義母様(おかあさま)…… 前と同じように世界樹の露を一滴口にして元の年齢に戻れるように強く念じて下さいませ」


無言で頷いたお袋がユナに歩み寄ると口を開けて小瓶に入った世界樹の露を一滴口に含む。

そして淡い光に包まれたかと思うと俺が良く知る姿に変わっていた。

全く手の混んだ悪戯をしやがって…… 相変わらずだぜ、ウチのお袋って奴は。


「な、何と! この様な事が本当に…… ならば其方は本当に私の孫なのだな! 夢の様だ…… 孫に一目会いたいがために娘に散々と結婚話を持ちかけていたのだからな」


な、何だって! 何を馬鹿な事を言い出しやがるんだコイツは……


「父上…… そ、それは一体どう言う事なのですか……」


ヴィッチが震える声で父親に問い掛ける。

アレは絶対に怒ってるだろ…… 俺はただ呆れ返って何も言えなくなってるぜ。


「貴族達の会合で彼奴らめ、孫が可愛くて仕方ないと口々に自慢しおって。 私には妻に先立たれ一人娘のヴィッチしかおらんからな。 病の事もあるし一刻も早くお前に結婚して貰い、孫を我が手に抱かせて欲しかったのだ!」


だからと言って俺のような平民出身の冒険者風情の血は入れたく無かったと言う訳か。

ユナの父親のコルツは平民出身の乗り合い馬車の御者だから、どっちに転んでも父親は平民になるんだよな。


「貴方の娘がそんな理由で無理矢理結婚させられた挙句、結婚相手を次々と殺害して女郎蜘蛛とかの異名を持つ毒婦になる未来を知っても、まだそのような事が言えるのですか?」


それが俺の知ってるヴィッチだ。

まぁ、最初にその話を聞いたヴィッチも頭を抱えていたが、その理由が理由だからな。

政略結婚だとばかり思っていたが、聞いちまうと大した理由でも無かったな。

娘の話にユダが目を丸くして驚いてやがる。


「そ、そんな事になると言うのか? 私は大切な一人娘に何て事をしようとしていたのだ……」


どうやら念願の孫に会えたし文句はねぇだろ。

さて…… 残るはヴィッチの件だな。


「取り込み中に悪いんだが、ヴィッチの件だ。 ユナと言う孫に会えたとしても、まだ無理矢理結婚させるつもりか? そっちがその気なら俺達にも考えがあるぜ」


パープルトン侯爵家は取り潰しの憂き目を見て貰うしかねぇだろうよ。

ユダの奴をふん縛ってやれば話も早いからな。


「ヴィッチの結婚相手は好きにするがいい。 私にはユナがいるのだ。 そうか…… 私にも孫が出来たのだな。 ユナよ、今度この爺が連れて行くから社交界にデビューせぬか? こんなに可愛らしい孫が出来るなど私も鼻が高いと言うものだ」


もう完全に孫に夢中になってやがる。

娘より孫の方が可愛くて仕方ねぇってのか?


「あら、良かったではありませんか。 ユナは父上と二人で屋敷で暮らすといいですわ。 私が旦那様と一緒に暮らすのに貴女は邪魔でしかありませんから」


ヴィッチが随分と嬉しそうだぜ。

もう自由になったんだからな。

それに引き換えユナは爺さんの相手か……


「嫌ですわ! 私も愛する旦那様と一緒に暮らしますの。 これだけは譲れませんわ!」


ユナの言葉に泣きそうな顔をするユダ。

ダメだこりゃ…… 話にならねぇよ。

こんな時に頼りなるのはライリしかいねぇだろ! 俺は手を合わせながらライリを見る。

そんな俺を見てライリが軽く溜め息を吐く。


「パープルトン侯爵様、王都に長期滞在用の屋敷を構えては如何でしょう? 今の私達には王都で暮らさねばならぬ理由があり、この侯爵領で暮らす事は叶わないのです」


「長期滞在用の屋敷とな……」


確かにパープルトン侯爵家は王都に訪れた際には旅館に泊まると聞いた気がするな。

だが屋敷を構えてどうするんだ?


「ええ、侯爵様が自領におられる間の屋敷の管理は我々が行います。 我々は屋敷の離れにでも小さな家を建てて暮らせれば一石二鳥かと思うのです。 そうすれば急に王都を訪れた際にでも、最愛のユナさんと周囲に気兼ねなく過ごす事が出来るのではありませんか?」


「確かに旅館の手配は不要になるのだな…… だが私には残された時間は少ない。 今は少しでもユナと一緒に過ごしたいと切に願うのだ!」


そう言えば心臓の病気とか言ってたな。

ユナに会いたいからと何度も侯爵領から王都への長旅ってのも辛いかも知れねぇか。


「病に関しては御心配無用です。 世界樹の露を口に含んで病を治す事だけを願って貰えたら年齢は変わらずに病だけを癒せるかと思いますが…… お使いになられますか?」


おいおい、随分と便利だな。

病にかかる前に心臓だけを若返らせるって事なんだろうか?

原液を水で薄めちまって効果の程は分からねぇか、ライリが言うんだから多分大丈夫なんだろうよ。


「それは誠か! ならば使わせて貰おうではないか。 先程効果の程は見せて貰ったからな、それで長生き出来るなら何の不満があろうか……」


そう言いながらユダが見詰めているのは最愛の孫の姿だ。

ちょっとヴィッチが可哀想に思えて来たぜ。


「王都に屋敷か…… 私が贔屓にしている者がおるのだ。 まだお若いが実力のある商人だ、良い物件が無いか探させてみるか。 ロイ・ガーランドと申してな中々の若者だ」


「ちょっと待て! ロイ・ガーランドだと?」


アイツがユダの知り合いかよ。

クレアを誘拐して殺したメイド好きの変態野郎じゃねぇか…… 歴史が変わるとこうも早くに会う事になるのかよ。


「ほぅ、奴を知っておるのか?」


ユダの奴が意外そうな顔をしてやがる。

確か王室御用達の商人になる筈だからな。

今はどうだか知らねぇが既に出入りはしてるみてぇな事をクレアが言ってたから、それなりの成功は収めているんだろうか。


「別に知り合いって訳じゃねぇんだがよ。 どっちかと言えば敵だな」


俺の答えにユダが黙り込む。

どうやら言葉の真意を考えているようだ。

一番の問題になる奴のメイドへの暗い執念は既に開花しているんだろうか?

確か奴が成功を収めてから昔憧れていたメイド達を探し集めた際に老いた姿に絶望して殺したとか言ってた筈だよな。

そうなるとまだ少しはまともかも知れねぇが出来れば接触したい相手じゃ無かったぜ。

それにクレアを殺した相手だからな。

以前は出会った頃は既に死んでいたからどうにもならなかったが、今回は絶対に阻止してやる!

でもよ…… 今のクレアは理想のメイドからは程遠い気がしてならねぇよ。

ただの食いしん坊な少女だぜ? あれが宮廷一の侍女と呼ばれる事になるんだから、人って奴は成長するんだな。


「ならばロイには頼まぬ方が良いか?」


ユダが何やら訳ありなのを気にしてくれたようだが、これは逆にいい機会だろうよ。


「いや、奴に頼んでくれるか。 いずれ会う運命ならば早い内に会っておくとするぜ」


ライリにはクレアの話はしてあったからな。

ロイ・ガーランドの名前を聞いて心配そうに俺を見ていた。

そんなに心配しなくても大丈夫だ。

お前の大切な後輩には絶対に指一本だって奴に触れさせやしねぇよ。

勿論、俺の傍にいてくれるお前達最高のメイド達にもな。



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