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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第三章 大剣使いの冒険者と不思議な侍女ライリ
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第42 母と娘

全く疑われる事もなくパープルトン侯爵家の屋敷に入り込む事に成功した俺は奪還目標になるヴィッチとも無事に合流を果たしていた。

予定では俺のお袋が屋敷に忍び込んでパープルトン侯爵家が隠している賄賂等が記された書類を盗み出してくれている筈だ。

盗み出すために俺には得意の騒ぎを起こせとか失礼な事を言われていたが採用試験の時ので何とかなったんだろうか? アレくらいじゃダメなら不本意だが何かやらかさなきゃならねぇな。

不正に関する書類が隠してある場所はユナが知っているらしい。

まぁ、俺は聞いてはいないが計画上での必要事項だから、お袋には教えているだろうよ。

更に屋敷から外へと繋がる侯爵家の家族しか知らない秘密の抜け道から逆にユナが忍び込んでヴィッチを救う手筈だったが、ヴィッチも侯爵家の一族だから抜け道の存在をを知っているのは当然な訳で……


「さぁ、早く参りましょう。 急がなければ父に気付かれてしまいます」


俺の耳元で囁くヴィッチの声に何とも言えない気持ちにさせられる。

本来ならこんなに若い頃のヴィッチと出会う筈は無かったんだからな。

初めて会った時は既に女郎蜘蛛とか呼ばれてたし、言う通りにならない俺を亡き者にしようとする傲慢で冷酷な女だったしよ。

そんな未来のヴィッチとは似ても似つかぬ可愛らしいお嬢様って響きが良く似合う少女に手を引かれて寝静まった屋敷の長い廊下を進んでいた。

目指しているのは屋敷のワイン蔵にあると言う秘密の通路だ。

そこから屋敷の外に通じる通路があるらしい。

迷う事なく真っ直ぐ向かった先にあったワインの並ぶ棚の前に立つヴィッチ。

一番下の段に並べてあったワインを全て奥に押し込むと、それが仕掛けを動かし棚が横にスライドして行き鍵の付いた扉が姿を現わす。

どうやら屋敷の中からしか開かない仕組みのようだが、考えてみれば外から簡単に賊に侵入されても困るだろうからな。

んっ、ちょっと待てよ…… そうなるとユナはどうやって屋敷内に忍び込むつもりだったんだ?

考えている俺を余所にヴィッチが手にした革袋から鍵を取り出して扉を開く。


「漸く開けてくれましたわ。 待ちくたびれてしまいましたの」


扉の近くにいたのはユナとリリアン…… じゃなかったな。

若い姿に変わっているが俺のお袋のアンだ。

ライリもお袋の隣に控えている。


「やっぱり待ってたか。 扉を見たら屋敷の中からしか開かないみてぇだから、そんな気がしてたんだよ」


そうなると全てはこれからって事になるな。


「母上の事ですから旦那様と二人で逃げ出そうとすると読んでいましたわ。 そんな事はこの私が許しませんの!」


ユナがビシッとヴィッチを指差している。

いや、お前も俺と二人っきりで新天地へと駆け落ちしようとしたよな…… しかも二回もよ。


「クッ…… この抜け道を知っているとは……」


ヴィッチが悔しそうに呟いてやがる。

お前、本気で抜け駆けするつもりだったのか。

ライリ達五人の絆みたいのも、この時点ではまだまだ脆いみてぇだな。


「では義母様(おかあさま)。 パープルトン侯爵家の機密文書が収められている場所をお教え致しますわ。 当主の間に飾られた絵画の裏にある隠し金庫の中ですの。 鍵はダイヤルを回せば開く仕組みで決められた数字に合わせれば開きますわ」


お袋の前に立ち丁寧に説明するユナを見てヴィッチがライリを振り返って何やら確認してやがるが、あの自分と同い年くらいの姿を見りゃ信じられないのは無理もねぇが最近はもう何でもありだからな。


「ヴィッチさん、あの方が旦那様の母親のアンさんです。 私達全員の義母様(おかあさま)になられる方ですよ」


今みたいに若くは無かったが、ライリだけは俺の故郷でお袋にあった事があるからな。

そう言えば皆を故郷に連れて行って、その帰りに俺は死んじまったんだったか……

アンナのお陰で孫を抱かせて欲しいと言う願いだけは叶えてやれたが、親父とお袋をきっと悲しませちまったんだろうな。


「あらあら、ヴィッチさんは美人さんなのね。 もう嬉しくて顔が緩んじゃうわ。 ライリちゃんの話によると…… あと二人、クレアさんとマリンちゃんもいるのよね。 会うのが楽しみよ」


クレアはまだいいが…… マリンは3歳だぜ。

息子の嫁って言うより娘みてぇだぞ!

まぁ、どんな事態にも平然としてやがるお袋なら、気にせずニコニコと相手をするんだろうよ。

そんなお袋に背を向けてヴィッチが髪とか服を整えてやがる。

おいおい、そんなの今更だろうが……


「初めまして、義母様(おかあさま)(わたくし)はヴィッチ・パープルトンと申します。 旦那様とは世界中の誰よりも愛し合う仲になると信じて…… いえ、確信しています」


「まぁ、ヴィッチさんは一途なのね。 息子の事を宜しくお願いします」


お前ら今の状況を分かってて挨拶し合ってるのかよ…… 完全に忘れてんだろ。


「一途だなんて騙されてはいけませんわ! 私が生まれて来たのが何よりの証拠ですの。 旦那様が亡くなったからと他の男に乗り換えるだなんて本当に穢らわしい! 今の私には穢れて生まれた自分の存在が堪らなく嫌…… そんな私を生んだ母上が許せません、大っ嫌いです」


ユナが目の前にいるヴィッチを睨みながら言い放ったが、それはそこにいるヴィッチじゃねぇだろうよ。

それに死んじまった俺が悪いんだぜ、ヴィッチは悪くねぇよ。

ちゃんと俺の死から立ち直って幸せを掴んでくれたんだからな。


「あのよ、ユナ……」


俺がユナに声を掛けたタイミングで頬を叩く乾いた音が辺りに響く。

ユナは叩かれた頬を抑えて信じられないって顔をしてるな。

なにせ手を上げたのはお袋だったからよ。


「穢らわしいなど金輪際口にしてはダメ。 ユナちゃん、あなたは死んでしまった馬鹿な私の息子の代わりにヴィッチさんを幸せにしてくれた方との間に生まれた愛の結晶なの。 大丈夫、あなたは穢れてなんかいないわ。 私の大切な娘よ」


お袋の諭すような言葉に次第に涙を流すユナを優しく抱き締めたのはヴィッチだった。


「ユナ、私はこの世界において貴女の母親では無いのは事実です。 ですが私の血を引く娘であるのも事実なのです。 だから…… たまには私に甘えてもいいのですよ」


黙ったまま何も答えないユナの手がヴィッチの背に伸びてギュッと掴んだのを俺達は見逃さなかった。

大人びていても10歳の子供なんだからな。

俺に会いたいがために何もかも捨ててたった一人でやって来るには幼すぎるだろ。

これで少しはヴィッチとも仲良くしてくれればいいんだけどよ。


「今のはどう言う意味だ? ヴィッチ…… その娘は一体誰なのだ。 幼い頃のお前にそっくりではないか……」


背後から突然現れたのはユダ・パープルトン侯爵だった。

これだけグズグズしてりゃあ、そうなるわな。

全く何処から話を聞かれてたんだ?

ちょいと面倒な事になりそうだぜ。

こうなったら騒がれる前にさっさと気絶させちまうか……


「初めてまして、お爺様。 私は貴方の孫になるユナ・パープルトンです」


泣いていたのが嘘のようににこやかな表情で挨拶をするユナ。

俺が動くよりも先にとは、やっぱりその辺りは流石だぜ。


「わ、私の孫じゃと! それは一体……」


ヴィッチとユナを交互に見てやがる。

16歳と10歳の二人だから無理もねぇな。


「私が生まれた時にはお爺様は既に病で亡くなっておりましたわ。 確か…… 心臓の病とかでしたかしら。 家族には病の事を内緒にしたまま亡くなったそうですの」


ユナが当たり前のように説明し始めたが、ユダ侯爵は心臓が悪いんだろ? 孫がいたとか聞いたらショックで死んじまったりしねぇだろうな。

胸に手を当てながら誰にも話した事が無かっただろう病の話をするユナを見詰めるユダ。

そんな二人を見ながら心配になる俺だった。




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