第15話 依頼は受けてやる!
明らかにさっきまでのライリと雰囲気が全く違うぞ。
俺の目の前でメイドの幽霊が座っているソファーの上にライリが腰掛けてからだと思う。
アイツめ、ライリに憑依しやがったな……
「おいっ! お前… ライリじゃねぇだろ?」
俺の問い掛けに答えず、黙ったまま俺を見ているが…… その目が違うんだよ。
「ふぅ、この子はライリと言うのね。 可愛らしいわ。 でも… ライリちゃんの方から私に重なって来たのよ?」
声はライリなんだが口調がまるで違う。
間違いない、アイツがライリの中にいる。
「さっさとライリの中から出て行きやがれ! さもねぇと許さねぇからな!」
だが… コイツが出て行かなかったらどうすれば良いのか俺には分からない。
「あらあら、ご機嫌斜めね。 心配しなくても大丈夫。 アナタと少し話をしたら出て行くわよ。 あ、そうそう… 私が憑依している間はライリちゃんは眠っているみたいなものだから意識はないのよ。 だから私と話した事は彼女の記憶には残らないわ」
「素直に出て行ってくれるならいいが、俺と何を話したいって言うんだ?」
こうやって幽霊と話す日が来るとは思わなかったぜ。
「私の遺体を捜して欲しいのよ」
幽霊から依頼を受ける日が来るとも思わなかったな……
「それは一体どう言う事だ?」
見た目や声はライリそのものだから何か変な感じだぜ。
「私は王宮務めの侍女だったのよ。 ある日、侍従長の使いで外出したのだけれど、その際に拉致された挙句に殺されたの。 遺体がまだ見つかって無いから、今の所は単なる失踪扱いになっているわね」
王宮務めとか随分立派なご身分じゃねぇか。
何かの事件に巻き込まれたのか?
「犯人の目星はついてるのかよ?」
王族や貴族が絡んでいるとなると厄介なんだが…
「ええ、王都でも有数の資産家ガーランド家の当主ロイ・ガーランドよ。 王宮で何度か見掛けた事があるから間違いないわ」
そこでお前さんに目を付けたって所か。
王宮に出入りする身分となると厄介なのは貴族とかと変わらんな。
「そいつの屋敷の中に遺体があるとかは無いのか?」
だったら話は早いんだが…
「私だって最初はそう思って屋敷の中を調べたの。 でも… 何処にも無かったわ。 何処か別の場所だと思うの」
「でも何で遺体を捜して欲しいんだよ? そいつへの復讐とかじゃ無く」
遺体を捜した所で生き返る訳もねぇしな。
何のために捜すのかが分からん。
「アイツに殺される時に見たのよ。 部屋いっぱいに置かれているメイドの遺体を… 何か特別な処置を施しているらしくて、どの遺体もまるで生きているみたいだったわ」
とんでもねぇメイド好きの変態野郎だな。
屍体愛好家って奴か。
「遺体を見つけてどうするんだ?」
その決定的な証拠があればロイって奴を間違いなく処刑台に送る事が出来るだろ。
「あんな変態に自分の遺体を弄ばれてるなんて…… 死んでも死に切れないわ! すぐに燃やして頂戴!」
怒りに震えながら涙を流すライリ。
まぁ、中身は違うけどな。
「それでお前は何でこの朱雀館に取り憑いてるんだよ?」
別の場所に行けない理由でもあるのかよ。
この旅館で殺されたとかじゃねぇのか?
「この部屋が気に入ってるからよ。 どうせ現世に留まるなら高級な部屋がいいじゃない。 それにお前はやめて貰えるかしら、私の名前はクレアよ」
案外単純な理由だったな。
でもライリやアンナを危険に巻き込む訳にもいかねぇし、どうするか……
「さて… どうしたもんか。 俺はライリと今ここにいないもう一人の仲間のアンナは危険に晒す訳にはいかねぇんだよ。 こんな話を説明しても信じてくれる気はしないがな」
どうも俺は信用されてないみたいだから、一人で行動させてくれるとは思えねぇんだよな。
何か自由に動ける理由でもあれば…
「随分と愛されてるのねライリちゃん。 憑依して分かったんだけど、この子もアナタの事を…」「止めろ!」
クレアの言葉を遮った俺は、そのまま睨みつける。
「ライリが心の中で思っている事はお前が勝手に口にして良い事じゃねぇ!」
少しキョトンとしていたライリが微笑む。
「ごめんなさい、アナタの言う通りね。 私がどうかしていたわ」
随分と素直じゃねぇか… ちょいと拍子抜けだな。
「ああ、気を付けてくれればそれでいい。 クレアだったな、お前の依頼は俺が受けてやるぜ!」
「良かったわ。 私がはっきり見える人って、そうはいないから…」
ふっ、嬉しそうに笑う感じはライリと変わらねぇんだな。
クレアの話によると他の奴には全く見えないか、見えてもぼんやりとしか見えないらしい。
メイドだって言い当てた俺に頼んでみようと思ったそうだ。
まさか王都に大剣を探しに来て、遺体を捜す羽目になるとは思わなかったぜ。