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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第三章 大剣使いの冒険者と不思議な侍女ライリ
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第29話 逃れられない義務ですの

腕が痛い…… いや、腕よりも心が痛い。

ライリの奴が裏切るなんてよ。

もう誰も信じるもんかよ。

俺は街中を駆け抜けて行く。

そしていつの間にか見知らぬ河原へと辿り着いていた。

その川面に映る俺の顔は情けなく見えたよ。


ライリにナイフを投げ付けられた時に大剣も手放しちまったが、もう俺には必要ねぇ。

どこに逃げる? 俺の故郷のマイセン辺境伯領じゃ見つかっちまう。

南のパープルトン侯爵領も駄目だ。

西のザクセン公爵領はどうだ? 勇猛果敢な騎士達が有名で、お堅いイメージのあそこなら俺が行きそうもねぇだろ。


「ハァハァッ…… やっと追い付きましたわ…… ハァハァ……」


背後から聞こえたユナの声に俺は驚きながら振り向く。

街中を走る所を見られていたのか…… どうする?


「ち、血が! 旦那様、お怪我をなさったのですか?」


血を流す腕を抑える俺を見たユナが青い顔をして俺に駆け寄って来るとハンカチを取り出して傷口に当てる。


「ライリにやられたんだよ…… アイツらを傷付けた敵にトドメを刺そうとした時にナイフを投げ付けられてな」


文字通りに突き刺さりやがったからな。

余りの痛さに大剣を落としちまった程だぞ。

一体何を考えてやがる。


「ライリさんがご主人様を傷付けた? ……誰にトドメを刺そうとしたのですか?」


ユナも信じられないって感じだな。

お前もライリの事は良く知ってるんだったか。


「カイルって言う傭兵さ。 昨日の夜に飲み屋で知り合ったんだが、気持ちの良い奴でさ。 俺は気に入ってたんだ。 でもアイツらを傷付けたのなら敵だからな」


カイルと言う名前に何やら考え込むユナ。

頬に手を当てて首を傾げながらって言うのが可愛らしいんだが、ユナがやると全て計算ずくな気がしてならねぇな。


「カイルさん…… 槍を持った方ですか?」


自信無さげに聞いて来たがアイツが槍を持っているのは間違いないからな。


「ユナは知ってるのか? カイルの事を!」


アイツは俺の未来に関係のある奴なのか?


「直接お会いした事はありませんが話は聞いた事がありますわ。 名槍ラースフィアの持ち主で旦那様の親友。 そして旦那様を助けるために自ら死地に飛び込み命を落とした方ですの」


親友だと? 確かに気の合う良い奴だったよ。

あんな事が無けりゃ、また酒を酌み交わしたいくらいだからな。

アイツが俺のために死ぬだと?

そこまで俺を思ってくれる奴を殺しちまう所だったのかよ。


「だからライリはナイフを投げてまで俺を止めたのか……」


そんな理由でも無ければライリが俺を傷付ける訳がねぇからな。

とっさに呼び掛けても止まらないと判断したんだろうよ。

旦那様と呼ぶようになったライリが慌てたせいか、またご主人様と呼んでたからな。

確かにあのままなら、俺は止まらずにカイルを殺していたかも知れねぇ。


「ライリさんの思いが痛い程分かりますわ。 後で知ったら旦那様がどれだけ悲しむか知れませんもの。 それに今頃ライリさんがどれだけ悲しんでいるかも……」


今頃ライリはどんな気持ちでいるんだろう。

ユナのように街中を必死になって探し回っているんだろうか?


「ライリ…… 常に一生懸命な奴だからな」


その原動力は俺のために…… ただそれだけだ。


「旦那様は旦那様です。 それは変わる事はありません。 未来の自分に嫉妬されているのでしょう? ユナには分かります。 でも私達は今も未来も全部まとめて旦那様をお慕い申し上げているのですよ」


嫉妬か…… 違いねぇ。

そんな格好悪い奴のどこに惚れるんだよ。


「何もかも捨てて逃げ出そうとしている俺をか? 俺にはそんな資格はねぇよ」


嫌いになる事はねぇのかよ?


「資格ではありません! これは逃れられない義務ですの。 私の身も心も虜にしたのですから…… 私は本来の旦那様の野性味溢れる姿を一目見て、胸の高鳴りを抑え切れませんわ…… 正直もう堪りませんの」


「プッ、クククッ…… 義務なのかよ。 知らなかったぜ」


ユナは今の俺に一目惚れしたって言ってくれるのか。

他の五人とは違い、みんなを押し退けてまで俺を独り占めしようとするくらいだからな。

どこまで自分に正直な生き方をしてやがる。


「うふふっ、やっと笑ってくれました。 このまま根暗路線では困りますの。 笑えるようになった所で行きましょうか?」


仕方がねぇな…… そうするか。

格好悪いがアイツらなら許してくれるだろう。


「ああ、帰るとするか…… 朱雀館へ」

「ええ、行きましょう…… 新天地へ」


随分と綺麗にハモったんだが、なんか俺と行き先が違くねぇか?

それも新天地だと……


「ユナと二度目の駆け落ちですの」


コ、コイツ半端ねぇ!

こんな状況すら利用して俺を手に入れようとするのかよ。

俺が一緒に来る事を信じて疑わない自信に満ち溢れた表情は流石だぜ。

しかも二度目とはな…… この強引さに負けたんだろうか? だがよ、一度目の時にユナは7歳の筈だろ。

そんなユナに流される未来の俺も情けねぇ所もあるんじゃねぇか。

少し安心したぜ。

それにしてもライリが最強の婚約者と呼ぶだけの事はあるよな。

さて…… この先どうすればいいんだよ。



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