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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第三章 大剣使いの冒険者と不思議な侍女ライリ
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第26話 気持ちのいい奴

夕食を終えた俺は夜の街を歩いていた。

ユナの奴はアンナとヴィッチの二人に絞られているからな。

俺がいると甘やかすから離れていてくれと言われたのが原因だ。

ライリは明日の仕込みの相談をしたいと頼まれてフィリックと厨房へ向かったが、ライリは自由の身になった俺を心配そうに見ながら部屋を出て行った。

それと気になっていたユナが過去に来れた理由が判明している。

ライリに世界樹の露とやらを渡した異世界の住人だと言うリーフレットと言う女性が隠し持っていたらしい。

隠し持っていたと言うのは言葉に語弊があるかも知れねぇな。

彼女が身に付けていたイヤリングが空になってしまったと見せられた世界樹の露が入っていたと言うボトルネックレスと同じデザインだった事をユナは見逃さなかったそうだ。

左右で二回分、その内の一回分を譲り受けたらしい。


ライリが過去に行った筈なのに何も変わらない歴史が気になっていた二人の疑問を解消すると言う理由で説得して手に入れたそうだが、その時には既に並行世界と言う存在に気付いたらしい。

だが確証が持てなかったみてぇだ。

ライリが辿り着け無かったと言う可能性もあったからな。

だから今回はユナがメッセンジャーになるそうだ。

未来の二人に向けて何かを残すらしい。

それが届かなければ二人がいる世界とは別の並行世界が存在する事になる訳だ。

俺にとっては今いる世界が本当の世界でしかねぇんだがな。


それにしても馬まで連れ行くのに世界樹の露を水で薄めて使うとか考え付くのもユナの頭の良い所だろうよ。

しかも願いに関しても俺がユナに会いたいと望んだ時にと言う形で叶えたらしい。

ユナが言うにはそれを触媒にして自分にかかる負荷を軽減したとか難しい事を言ってたが、要するに頭がいい奴って事だな。

俺は難しい事はさっぱりだしな。

ちょうどいい機会だし飲み屋でも覗いてみるかね。


「流石に王都は違うな酒場も明るくて賑やかだぜ。 故郷の酒場とは大違いだな」


繁華街までやって来ると賑やかな雰囲気が俺の心を明るくしてくれるのが分かる。

さてと…… どの店にするかな。


「あらお兄さん、どう? ウチの店に寄っていかない?」


派手な化粧をした女が声をかけて来やがったが、今の俺は女とは離れて飲みたい気分なんだよな。


「悪いが今夜はゆっくりと一人で飲みたい気分なんだよ。 だからまた今度な!」


「もう〜 残念ね。 だったら約束よ! また来てね、お兄さん。 ちょっと、そこの社長さん!」


俺なんかは数多くいる客の一人だからな、もう次の通行人へとターゲットを変えたらしい。

何だか逞しいねぇ。


「おっ、そこなんか故郷の酒場みてぇで懐かしいな。 あそこにするか!」


故郷じゃ呑んだくれの師匠を迎えに飲み屋へ散々通ったからな。

馴染みの客達からは可愛がられたもんだぜ。

師匠の代わりに水商売の女に怒られたりするもんだから対応が大変だったんだよな。

それで女の扱いに慣れたなんて思いたくはねぇぜ。


「いらっしゃいませ! 今夜は賑わってましてね、相席でもいいですか?」


若い店員が聞いて来たが、これだけ混んでるんだから仕方がねぇか。


「構わねぇぜ、飲めれば文句はねぇからな」


ニッコリと笑う彼女に案内された席には若い男が同じように一人で飲んでいた。


「邪魔するぜ、どうやら席が空いてねぇらしくてよ」


背負っていた大剣を壁に立て掛けようとすると、そこには既に槍が立て掛けてある。

冒険者か傭兵って所だな。


「ああ、構わないさ。 少し退屈していた所だからな。 中々良さそうな大剣に思えるが同業者かい? 俺の名はカイル、傭兵をやっている」


背の高いガッシリとした体格の戦士だ。

金髪碧眼のモテそうなイケメンって奴だな。

傭兵か…… 各地にある貴族領の領主や金持ちの商人なんかに雇われる腕利きの奴らだ。

探し物や掃除まで請け負う冒険者とは違い戦う事だけが仕事だからな。


「俺は名も無き只の冒険者だよ。 まぁ、最近は大剣使いとか呼ばれてるがな」


俺が答えると顔を綻ばせながら再び大剣に視線を送る。


「そりゃあ、光栄だ。 未来の英雄と飲めるなんてな。 さぁ、まずは一杯行っておけよ!」


「ああ、済まねぇな。 それじゃ遠慮なく飲ませて貰うとするぜ」


カイルって奴は気持ちのいいサッパリとした性格の男で俺達の話は弾む。

どうやら最近は傭兵の殺伐とした世界に嫌気がさして来ているらしい。


「俺みたいに冒険者になったらどうだ? 結構自由が利くし中々楽しいぜ」


自由と言う言葉がカイルの関心を引いたようだ。


「そうだな…… 今度受ける依頼が片付いたら、それもいいかも知れないな。 その時は俺と二人で何か大物でも倒してみるかい? お前と組めばドラゴンでも倒せそうな気がするんだ」


ドラゴンか…… そりゃあ買い被り過ぎだと言いたい所だが、お前とだと倒せそうな気にさせられるのは不思議なもんだ。


「ああ、その時は声をかけてくれ! おっ、そろそろ帰らねぇとライリが煩そうだな…… じゃあなカイル、また会えるのを楽しみにしてるぜ」


「そうか、じゃあまたな! お互い頑張ろうぜ。 それとお前の女にも宜しく伝えてくれ。 ……ちなみに良い女なのか?」


「とびきり良い女達だぜ、俺には勿体無いくらいのな! おお〜い、勘定を頼む」


立ち上がると従業員の若い女性に声をかけると代金をテーブルに置く。

少し多い分は彼女へのチップになる。


「ハハハッ! 女達か、豪気だな。 本当に面白いなお前。 絶対にまた会おうぜ」


俺は背を向けながら片手を上げて挨拶をする。

縁があったら、また会おうぜ。

朱雀館に戻るとロビーでライリが俺の帰りを待ってくれていた。

流石に夜の街へ探しに出る事はやめてくれたようだ。

ヴィッチが暴漢襲われたように人が多く集まるだけあって危険も多いからな。

俺の姿を見つけると嬉しそうに近付いて来た。


「お帰りなさいませ、ご主人様! ふふっ、何か良い事でもあったみたいですね」


そんな事を言うライリも何だか嬉しそうだ。


「ああ、飲み屋で気持ちのいい奴に出会ってな。 しかも中々腕も立ちそうだったぜ!」


また会えそうな気がしてならねぇんだよな。

ましてやアイツはいい奴だ。


「ご主人様がそんなに嬉しそうだと私まで嬉しくなってしまいます」


そうか、ライリが嬉しそうなのはそう言う事かよ…… 全く敵わねぇな。

俺はライリの頭を撫ぜてやりながら、今度会った時にはコイツの話をしてやろうと考えていた。

もしも会わせたらアイツは一体どんな顔をするだろうか。

でもよ、きっと笑うんだろうぜ。

お前らしいとか言ってさ。





少し前からカイルがライルになってました。

確認して修正してあります。

ごめんなさい。

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