第25話 アンナからの伝言
とりあえずヘンリエッタとか言う馬は朱雀館の馬房に移したんだが、従業員達はそりゃあ驚いてたぜ。
知らない内に馬が館内に浸入していた事になるんだからな。
頭がいいのか粗相はしないでくれたのは幸いだったとしか思えねぇ。
何だかライリには偉い懐いてたしな。
「おい、降ろしておいたユナの荷物だけど、コレって剣だよな…… お前のか?」
高そうな布で包んであるがフォルムからして間違いねぇだろうな。
しかも二振りもあるんだが……
「アンナさんから頂いた旦那様の使っていた剣ですが…… 一振りはライリさんに渡すように申しつかってますの」
未来のアンナか…… 一体何だって言うんだ?
「ユナさん、それってムニンとフギンですか? どうしてアンナさんが私に……」
何なんだ…… 銘のある剣なのか?
「はい、それと伝言を預かってますわ。 "私達の分までアイツを宜しく"だそうです。 母上もマリン様も皆で私を送り出してくれたのですよ。 渡り烏の意味を持つ二振りの漆黒の小剣なんて私達にはお似合いだろうと笑っておられました」
確かに黒いメイド服を来た二人だからな。
来た時には赤い乗馬服を着ていたユナだったが、今はライリに貰ったと言うメイド服に着替えている。
ライリの方は元々着ていたのを手直しして着ているが、裁縫の腕前のせいなのか全く違和感がねぇのは凄えと思うぞ。
「三人はお元気なのですね…… そうでした! 坊ちゃんはお元気なのですか?」
手渡された一振りの小剣を胸に抱きながらライリがユナに問いかける。
一瞬ユナが何やら嫌そうな顔をしやがったぞ。
俺の息子と何かあったのか?
「幼馴染みだと言うフェリスとか言う女と仲良くしていますわ! それに私は以前の旦那様のように虐めてくれる方で無いと身も心も満たされませんの…… さぁ、久しぶりに私を辱めて下さいませ……」
ユナの奴が俺を熱い眼差しで見て来るんだが、未来の俺はコイツに一体何をしたんだ?
とんでもねぇ性癖の持ち主だぞ。
いつの間にか近くに来ていたアンナとヴィッチも完全に引いてるじゃねぇか!
「アンタが幼女好きって本当だったの? それは悪い事は言わないから止めた方が良いわよ……」
アンナよ、随分と俺を見る目が冷たくねぇか?
さっき格好悪い所も全て受け止めるとか言う話に力強く頷いてた筈だろ!
「ううっ…… 私が大人の女の良さを教えて差し上げますわ! 一応、将来のためにと侍女から閨での作法も聞いてあります!」
ヴィッチが涙を浮かべながら豊満な胸で擦り寄って来やがった。
どんな作法か気になっちまうじゃねぇか……
って、そんな事考えてる場合じゃ無かった!
「ちょっと待ってくれ! 俺は至って普通の男なんだぞ」
困ってライリを見たんだが、目が合った途端にソッポを向かれちまったのは何故だ?
お前はいつも俺の味方の筈じゃねぇか……
ん? 待てよ…… 今のライリは10歳の子供の姿だったな…… 俺がまともだと好かれなくなるとか思ってるんじゃねぇだろうな。
「いいえ、旦那様は普通の男などと言う小さな枠にはまった方ではありませんわ。 その証拠に7歳の私と婚約して下さったではありませんか。 10歳のライリさんとも結婚式を挙げたのも揺るぐ事の無い事実ですもの」
ユナの奴、何でそんな話をしやがる。
それは俺であって俺じゃねぇだろうが!
しかも何やらアンナ達に見えないようにニヤリとしてやがるぞ。
コイツ…… 絶対に仕掛けてやがる。
アンナとヴィッチを幻滅させて俺から離れて行かせようって魂胆だろ!
小ちゃいクセに恐ろしい程の策士だぜ。
固い絆で結ばれた五人って呼んでたが、それは未来の話だ。
それにユナは含まれてねぇんだし、ここで一気にライバルを蹴落とす気か。
本来まだ出会って数日しか経ってねぇんだぜ。
ここまで惚れられる方がおかしいんだよ。
心変わりしたって不思議じゃねぇ。
「アナタも大変な子に好かれたものね。 私達を陥れようなんて十年早いわよ! 小さいのに悪知恵が働くなんて…… 全く親の顔が見てみたいわ…… あっ! ……ごめんなさい、ヴィッチさん」
何だよ、アンナの奴は気付いていたのか。
それにしても思ってても口にするなよ、それは。
「いいえ、私が産んで育てた訳ではありませんから…… でも私の娘だと言うのなら、これからしっかりと教育をしなければなりませんね。 期待通りに辱めて差し上げますわ」
ピシッと床に鞭を叩き付けるヴィッチ。
おい、ヴィッチ! その鞭はどこから出して来やがった。
やっぱり相手が悪かったな。
五人の特徴を兼ね備えていてもオリジナルには勝てねぇって事か。
「旦那様! 助けて下さいませ…… ユナは旦那様に会うために此処まで命懸けで来たのですよ」
うるうるした瞳で俺に助けを懇願するユナ。
言われてみればそうだよな…… 仕方がねぇ。
「今日の所は勘弁してやってくれよ。 ユナも根は悪い奴じゃねぇんだしさ。 わざわざ俺に会いに来てくれたんだぜ」
俺の言葉に沈黙したままの二人だったが、肩をすくめたアンナが口を開く。
「アンタがそう言う風に甘いから良いように利用されてるのよ? きっと分かってるんでしょうけど……」
相手は子供だろうが…… 大人が本気になってたら恥ずかしいだろ。
「旦那様…… ユナが悪い子でしたわ。 ですからキツイお仕置きをして下さいませ」
そんな事を言いながらスカートを捲り上げて俺に尻を向けるユナ。
ユナが履くピンクのパンツが嫌でも俺の目に映る。
どう見たってユナの瞳には期待の色が見て取れるんだが、こんな状況でお前の尻なんか叩けるか!
それよりも…… 振り返って、お前の前に立っている三人の女達の顔を見てみるんだな。
そんな怒った顔を俺は見た事ねぇぞ。