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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第三章 大剣使いの冒険者と不思議な侍女ライリ
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第24話 並行世界の存在

「コイツがユナか? 何だって馬に乗って現れたんだよ!」


旅館の四階で馬に乗ってるとかありえねぇよ。

非常識にもほどがあるだろ。


「その口調は…… 貴方が本来の旦那様なのですか? ユナは…… ずう〜っと会いたかったですの!」


馬から飛び降りとベッドの上で上半身を起こしていた俺に向かい駆け寄るユナ。

そして熱烈なハグの末に頬を擦り寄せて来やがった。


「ユナさん! ご主人様はお疲れです、ご無理をさせないで下さいませ!」


ライリがガバッと俺とユナを引き剥がす。

ちょっと焦ってる気がするな。


「まぁ、ライリさん。 そんなに警戒しなくても大丈夫ですの。 いきなりでは旦那様が混乱してしまいますから…… 少しずつ私の虜にしてみせますわ」


大した自信だな…… そんなユナの前にヴィッチが歩み寄る。


「あら、母上。 お久しぶりですわ。 それにしても随分とお若いのですね。 ふふっ、歴史通りに父上の元へお行きになったら如何です? そうなさらないと可愛い娘が産まれて来ませんの」


そんなユナの言葉にヴィッチが氷のように冷たい顔付きになりやがった。

ライリが話してた女郎蜘蛛とか呼ばれるヴィッチもこんな顔をするのかね?


「行く訳ありません。 私は彼と生涯を共にしますわ。 うふふふっ、ですから貴女は消滅する運命と言う事になります。 さぁ、消えてしまいなさい!」


ユナをビシッと指差しながら言い放つ。

仮にもお前の娘だろうよ。

ヴィッチの気持ちも分からない訳じゃねぇが、それはあんまりじゃねぇか?

そんなヴィッチの言葉にも動じる事はねぇんだから大した奴だぜ。

ふうっと軽く溜め息を吐いてから皆へと視線を巡らせたユナが口を開く。


「皆様、驚かせてしまい申し訳ありません。 このヘンリエッタと一緒に過去へと向かうには、こうするしか無かったのですわ。 でも…… 旦那様は私が思っていた通り、この私を呼び求めて下さりましたの。 それがユナはとっても嬉しいのです」


ライリが俺を見る。

じぃ〜っと見てる。


「ライリから話を聞いて一体どんな奴か会ってみたいとは思ったりはしたよ。 だからってそれだけで過去へ来れたりするのか?」


そんなに簡単なら苦労しないだろうしな。


「ユナさんも旧ジーニアス邸でタイザンさんやリーフレットさんに会ったのですね。 ですが…… その姿は以前よりも年上の様子、何年後から来たのですか?」


俺は前の姿を知らねぇからな。

もっと小ちゃかったって事かよ……


「ライリさんが旅立ってから三年後ですの。 旦那様との約束通りに10歳までの三年間、花嫁修業に努めましたわ。 ですから約束通り結婚して下さいませ」


それが当然とばかりに俺を見て期待に満ちた顔を向けて来る。


「10歳で結婚は出来ねぇだろ! もう五年は必要だろうよ」


俺の言葉にユナが何やら書類を取り出すと手渡して来やがったんだが読めって事か?


「何々…… ユナ・パープルトンを7歳で特例措置として成人と認める。 ハイランド王国 国王ランス・ハイランダー…… な、何だと!」


国王陛下のお墨付きを持ってやがる!

コイツ…… とんでもねぇ後ろ盾を持ってるぞ。

俺は驚いてライリに視線を送る。


「ご主人様が自らの伯爵位と引き換えにしてユナさんに贈った権利です。 ヴィッチさんの命も子爵位と引き換えに救いましたから、まさに親子二代で貴族の地位を捨ててまで手にした女性です」


確かに堅苦しい貴族になりたくは無いしな。

そんな地位には拘らなかったんじゃねぇか?


「はい。 そう言う訳ですから私の身も心も既に旦那様のものなのです」


その未来の俺が再び消えちまったからって過去まで来るとはユナもライリも凄えな。


「それに気付いた事があるのです。 ライリさんが過去へと向かった私達の時代…… いえ、世界では旦那様が亡くなったと言う過去は何一つ変わっていないのです。 母上と出会った経緯もです。 そう考えるとおかしくありませんか?」


確かにそうだよな。

今こうして歴史は変わった訳なのに未来に何の影響が無いなんて変な話じゃねぇか?


「ユナさん。 何も変わっていないのですか?」


ライリも驚いてやがる。

歴史を変えに来たんだからな。


「ええ、ですが…… こう考えると納得出来ませんか? ライリさんが過去にやって来た時点で歴史が分岐したと。 だから今の私達が過ごしているのは並行世界とも言うべき別の世界になった。 それが私が導き出した答えですの」


確かにそうとしか思えないよな。

ライリがいなくなった時代から来たユナにしか分からない事だろうよ。

だかこれでハッキリとした事が一つある。

ライリもユナも消滅はしねぇって事だ。


「並行世界…… それなら私もユナさんも消滅する事は無いのですね。 良かった…… ご主人様を残して私が消えてしまったら、きっと自分自身を強く責めるでしょう。 これでご主人様を悲しませずに済みます」


ホッとしたんだろうぜ。

俺は涙を流すライリを見た。

自分がいつ消えちまうかと言う恐怖と常に戦ってたのかもな。

そんな素振りは見せないようにしながらさ。

掴んだ筈の幸せが一瞬にして消えちまうかも知れねぇんだから怖かったろうな。

俺と会えなくなるより、悲しませる事の方が辛いのか…… コイツはどこまで俺に対して一生懸命なんだよ。


「良かったな、ライリ。 これでずっと一緒に居られるって事じゃねぇか」


「はい…… 言い表せないくらいに嬉しいです。 もう呼んでも構いませんよね? もしかしたら消えてしまう身かもと思い、ずっと我慢していたのです。 誰よりも愛しています、私の旦那様……」


ずっと俺をご主人様って呼んでたが、未来じゃユナと同じく旦那様と呼んでたって事か。

一日限りだったそうだが、俺と結婚したんだからな。

俺は先程とは逆にライリの頭を優しく撫ぜながらも気になる事があった。

ユナはどうやって過去へと来る事が出来たんだ? 手段は絶たれたんじゃ無かったのか。

そう思いながらライリを見つめていた俺が顔を上げると女達の嫉妬に満ち満ちた顔を目にする事になる。


「えっと…… 順番に撫ぜてやるから、それじゃダメか?」


俺の言葉を聞くや否や足早にベッドの横を囲む女達の表情は期待に満ち満ちたものへと姿を変えていた。

本当に勘弁してくれよ…… こんなのが続いたら俺の身が持たんぞ。



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