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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第三章 大剣使いの冒険者と不思議な侍女ライリ
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第21話 俺は望んじゃいない

俺達が冒険者ギルドに着くと何やら周囲からの視線が熱い。

期待の新人が可愛らしい冒険者と仲良く手を繋いで現れたんだからな。

流石にギルドの入口で手を離そうとしたんだが、逆にぎゅ〜っと握られて無言の拒否をされて仕方なく繋いだままだになっちまってるんだよ。

受け付けカウンターに並び順番を待つ間も何気ない会話をしながら手は繋いだままだ。


「次の方どうぞ! えっ……」


俺達を見た受付嬢も驚いてるぞ。

恥ずかしそうに握り締めた左手を口元に持って行くとキラリと光る婚約指輪。

一瞬だけ受付嬢の顔が険しくなったような……

そこは流石はプロだぜ、すぐに笑顔で対応してくれる。


「昨日、オーガを倒した方ですね。 査定の方は既に終わっています。 代金を渡しますので満足の行く金額でしたら、此方にサインをお願いします」


一応は他の店にも持って行って売る事も可能なんだが、ぼったくられる危険性もあるから大概は冒険者ギルドで買い取って貰う事になる。


「ああ、これで構わねぇよ。 ありがとな!」


手渡された革袋を受け取った俺を何やらじっと見つめる受付嬢。

冒険者ギルドの顔とも言える職業だからな。

頭に被ったベレー帽から覗く髪もサラサラの金髪で青い瞳の美人に見つめられて思わず生唾を飲み込む俺。


「仲が良くて羨ましいですね。 私も受付嬢を辞めて冒険者になろうかしら……」


何なんだよ、この女もクレアみたいに高嶺の花だと世の男性から敬遠されるパターンか?

俺達を見て深い溜め息を吐いてやがるぜ。

もっと頑張れよ、世の男共め。

アンナは自慢気に俺を見て嬉しそうだしよ。


「アンタも美人なんだから男共が放って置かない筈だぜ。 もっと自信を持っていいと思うぞ」


そんな俺の言葉に頬を赤く染める受付嬢。

年下の俺が言うセリフじゃ無かったがな。


「さぁ、貰う物は貰ったしさっさと帰るわよ!」


「お、おい! 何だよいきなり引っ張るなって……」


少し怒った顔のアンナに引き摺られるようにして冒険者ギルドを後にする俺達。


「アンタって…… ライリちゃんが言ってた通りなのね。 その女性が一番望んでいる優しい言葉をかけるから、すぐに惚れられたりするのよ。 もうこれ以上婚約者とか増えても困るんだから!」


そんなつもりは更々ねぇんだが……


「済まねぇ…… 気を付けるよ。 思った事を考えもせずに口にするのは悪い癖だよな……」


参ったな…… 故郷じゃ女からは乱暴者とか言われて嫌われていた筈なんだけどな。


「考えずに言えるなんて…… ある意味才能かも知れないわね」


アンナが呆れたように呟いているが、そんな才能はいらねぇよ。


「そんな事よりどうするんだよ。 次の依頼を決めずに出て来ちまったじゃねぇか。 なんか戻るのも格好悪いしよ」


それなりの報酬は手にしたし、懐もだいぶ暖かくなったから今すぐに依頼を受けなきゃならねぇ訳でも無いが、この先何があるか分からねぇし、金はあって困る物じゃねぇからな。


「二、三日はいいんじゃないかしら? それなりに稼げたんでしょ。 王都に来たばかりだし色々見てみたいし。 ねぇ、このまま私とデートしましょうか?」


期待に満ちた笑顔を俺に向けるアンナ。

そんな顔をされて断る訳にもいかねぇか。


「仕方がねぇな。 今日の俺はアンナの貸し切りにしてやるよ。 さぁ、どこに行くか……」


デートとかした事もねぇからな。


「まずはお昼にしましょうよ。 あそこのレストランとかお洒落じゃない?」


おい、お洒落な店に俺は似合わねぇよ。

参ったな…… テーブルマナーとかは全く分からねぇし、多分アンナもそうだろうな。

昨日の食い方を見てれば分かるぜ。


「悪いがテーブルマナーとかサッパリだしよ。 それで恥をかいて楽しい気分をぶち壊したくはないからな。 屋台で何か買ってさ、景色のいい公園とかで食わねぇか? 今日は天気もいいし、きっと気分もいいと思うんだが……」


今の俺達にはそれが精一杯だよ。

なにせ二人揃って故郷から出て来たばかりの田舎者だからな。


「そうね、アナタの言う通りかも…… 背伸びをする事も無いか。 まだまだ先は長いんですもの。 うん、そうしましょう!」


お洒落な店に行けなくなった割には随分と嬉しそうだな。


「済まなかったな。 でも、いつか一緒に行こうぜ」


「うん。 今は私と一緒にいて楽しいって思ってくれてるだけで十分よ」


その笑顔の意味はそう言う事か。

俺達は屋台でいくつか美味そうな物を買い込むと広い公園に行き、立派な大木を目にして木陰へと足を運ぶ。

気持ちいい風が吹いてるし、いい感じじゃねぇか。

その周囲に敷かれた芝生の上に座ってランチと洒落込む俺達。


「ふふふっ、アナタの言った通りにして良かったわ。 なんか凄く楽しいし本当に幸せな感じがするもの。 あのままレストランに行ったら緊張して味も分からなかったかも知れないわね」


「違いねぇ、俺達は俺達のペースでいいんじゃねぇか。 まだ知り合ったばかりなんだからよ」


俺が渡してもいない婚約指輪を眺めながら、そう口にして未来の俺に嫉妬する自分に気付く。

ライリが望む俺の魂の記憶とやらが戻ったとしても、それは俺じゃねぇんだよな。

多分、今の俺はそれを望んじゃいない。

ライリには済まねぇが……

待てよ、だとするとアイツが望むのは今の俺じゃねぇのか?

なんか…… 心の中が変な感じだぜ。





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