第14話 スイートルーム専属メイド
王都カラミティに到着し朱雀館に泊まる事になった俺とライリだったが、この旅館には幽霊が出ると言う噂があるらしい。
俺はそう言うのが大の苦手なのだが、そんな事を知らないライリは豪華な旅館に安く泊まれる事を喜んでいた。
「うわぁ、凄い! ご主人様、この窓から王都が一望出来ますよ。 夜は夜景が綺麗に見えるかも知れませんね。 うふふっ、夜が楽しみです」
結構高いな…… こうなると窓から飛び降りるのは無理だな。
「ご主人様、お部屋も広くて素敵です! これであの値段なんて嘘みたい」
部屋の配置は頭に入れておかなきゃな… いつ幽霊が現れるか分からんからな。
「あの〜 ご主人様? 私の話を聞いてますか? さっきから上の空みたいですけど……」
もしもの時を想定して逃げる際の事で頭が一杯になっていた俺を下から見上げるライリ。
「あ、済まんな。 冒険者たる者、いつ何があるか分からんからな。 部屋の間取りや位置を確認していたんだ。 いつもの習慣だ」
嘘は吐いていないからな。
「この部屋は当旅館が誇る特別なスイートルームになります。 本日お越しくださいましたお客様方には特別に格安でご提供させて頂きます。 その代わりと言っては何ですが…… あの噂の件は間違いだと世間に知らせて欲しいのです。 宜しくお頼み申し上げます」
旅館の主人に深々と頭を下げて頼まれる。
まぁ、ただの噂だけだって言うなら別に良いんだけどよ。
「はい、このような素敵なお部屋をご用意して頂き本当にありがとうございます。 ちゃんと何も問題は無かったって宣伝しておきますから!」
ライリは既に満足そうだな。
スイートルームって言うだけあって中々の広さだよな。
部屋の中を見渡せばメイドまでいやがる。
しかも美人とは嬉しい誤算だぜ。
「いやぁ、メイドまでいるとは流石はスイートルームだよな!」
キョトンとした顔をしたライリと宿の主人。
「私の事ですか? 私はご主人様の側にいつもいるじゃないですか。 うふふ、変なご主人様」
えっ、ライリの奴…… あのメイドに気付いてねぇのかな?
「では…… 何か御座いましたらテーブルの上の紐を引いて下さい。 そうすればフロントのベルが鳴る仕組みとなっておりますので私が直ちに参ります。 恥ずかしい話、従業員が皆辞めてしまいまして…… 今は私が一人で対応している次第なのです」
おいおい、じゃあ…… あのメイドは誰なんだよ? さっきからずっとコッチを見てるんたが……
「大変ですね、格安で泊まらせて頂いていますし、何か困った事があったら私がお手伝いしますから言って下さいね!」
うぉっ、奴がコッチに来やがった!
何か嬉しそうにライリの頭を撫ぜてやがるぞ……
ライリの奴は全く気付いてねぇみたいだな。
「いえいえ、お客様の手を煩わせる訳には行きません。 お気持ちだけで充分です、はい。 では…… お二人でごゆっくりとお過ごし下さい。 ヒーッヒッヒッヒ……」
俺には二人じゃねぇように見えるぞ……
最初に人だと思って見ていたからか怖がるタイミングを失った感じだが…… やっぱ怖えよ!
相変わらず気持ちの悪い笑い声を響かせて朱雀館の主人は部屋から出て行った。
「ふぅ、やっと一息つけますね。 あっ、ご主人様もそんな所にボーッと立っていないでお座り下さい」
豪華なソファーに腰を下ろして俺を見上げるライリ。
慣れない王都に来て気が緩んだのか、思わず主人より先に自分だけ座ってしまい恥ずかしそうにしている。
いや…… 俺も座りたいんだがよ。
既にライリの向かい側のソファーに座ってるんだよ、このスイートルーム専属のメイドが……
何でお前がライリと向かい合うように座ってんだよ!
ライリが気に入ったのかニコニコしながら見詰めてやがる。
同じメイド同士、何か引き合うもんでもあるのかよ。
「もう…… 私だけ座ってたら恥ずかしいじゃないですか! ほらっ、どうぞ。 お座り下さい、ご主人様」
立ち上がり俺の手を掴むと自分が座っていたソファーへと俺を座らせる。
何か… 微妙にライリの温もりを感じるな。
そんな事を考えてしまった俺が気付くより先にライリが向かい側のソファーへと腰を下ろす。
「あっ、ライリ! そのソファーには……」
慌てて止めようとした俺だったが、既に手遅れで口を噤む。
ビクッと一瞬身体を震わせたライリが俯いたかと思うと、ゆっくり顔を上げた。
そこには普段の雰囲気とはまるで違う、妖艶な笑みを浮かべ俺を見るライリがいた。
「あら、一体何がいるって言うのかしら? 愛しい私のご主人様」
コイツ…… ライリじゃねぇ…
ライリの身体に憑依しやがったな!