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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第三章 大剣使いの冒険者と不思議な侍女ライリ
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第20話 これは誰かの夢なのか



「あ、あの…… ライリ先生ですよね? 気のせいか、昨日とは別人のように見えるのですが……」


気になって厨房を見に来てみれば、朱雀館の料理人達も戸惑ってるみてぇだな。

そりゃあ、そうだろうよ。

ライリの奴がいきなり子供になっちまったんだからな。


「はい、ライリですが? ほらっ、手を止めてはいけませんよ。 しっかりと泡立て下さい。 このふんわりとした泡立ちが美味しさの秘訣なのですから」


「は、はい! 済みません、ライリ先生」


首を捻りながら作業に戻る料理人。

まぁ、思う所はあるだろうが頑張ってくれよ。

とりあえず大丈夫そうだな。

チラッと見ればセリカも他の料理人達に混じって料理の仕込みに忙しそうだが、マリンはどうしたんだ?

辺りを見渡すと箒を槍に見立てて槍術の稽古をしてやがるぞ…… 確か三歳児だったよな……

未来のマリンが乗り移ったんじゃねぇのか?

相変わらず俺と目が合うと敬礼とかして来るんだが、俺が敬礼するまで直立不動で微動だにしないんだぜ。

その度に敬礼しなきゃならねぇしよ。


「ねぇ、そろそろ冒険者ギルドに行きましょうよ。 オーガの買い取り価格も決定してる時間でしょ?」


昨日倒したオーガが解体されて部位の査定も終わってる筈だからな。


「ああ、そろそろ行ってみるか。 クレアはどうするんだ? 仕事があるなら王宮まで送って行くが今日は休みなのか?」


おいおい、一瞬ギクッとしたぞ。

お前黙って出て来たんだろ?

アニスとかが怒ってそうだぞ…… 大丈夫かよ。


「はい…… 送って頂けますか? 私も皆さんと一緒に此処で暮らしたかったです。 そうしたら…… いつもご主人様とご一緒に過ごせるのですから」


寂しそうにクレアが呟いたのは正直な気持ちなんだろうが、働く場所があってやる事があるのは良い事だと思うぜ。

何とか戻って貰うとするか。


「俺は王宮で優雅に仕事をこなすクレアを見てみてぇと思うぜ。 きっと惚れちまうかも知れねぇな。 今のお前…… あぁ! 恥ずかしいだろうが、後は自分で考えてくれ!」


ダメだ、あの時に見た未来の俺みたいなは言えねぇよ。


「ふふっ、では…… 今のお前とすぐにでも結婚したいと言って頂けたと思っておきますわ」


「ちょっと待て! そこまでは…… まぁ、いいか」


いや、そこまでは言わねぇが…… 元気になってくれたみたいだし良しとするか。

それにしても随分と嬉しそうだな。


「ヴィッチはどうする? あんまり出歩くのはやっぱり良くないんだよな」


聞いた話じゃ政略結婚を父親に無理矢理させられそうで、親には黙って領地に帰ろうとしてたらしいからな。

今頃探してるんじゃねぇか?

冒険者ギルドには報告してあるし、俺が助けたのが耳に入るのも時間の問題だろうぜ。


「ええ…… 強引な父に知られたら必ず連れ戻されてしまいますわ。 また結婚話を持ちかけられる筈です。 どうしたら良いと思いますか?」


何でそれを俺に聞く?

その期待に満ちた顔は他の男となんか結婚するなと言って欲しいんだろうよ。

だが…… 相手は侯爵様だからな。

かなり厄介かも知れねぇぜ。


「どうしたら良いって…… 嫌ならしなきゃいいだろ? 何かあったら俺が何とかしてやるよ。 幸いにも国王陛下の覚えもめでたいらしいからな」


場合によっちゃあ、ジーニアス準男爵から国王陛下に口添えして貰うのも手だろうぜ。

俺の力で何とかしてやりたいのは山々なんだが今の俺にはそんな力はねぇからな。

利用出来るもんなら利用しておかねぇとな。


「はい。 でしたら…… そのように致しますわ。 こう言う幸せもあるのですね」


ぽぉっとしながら左手の婚約指輪を眺めるヴィッチ。

その政略結婚はお前にとっちゃ幸せにはなれねぇらしいからな。

結婚相手どころか、もしかしたら父親さえ殺してたかも知れねぇなんて不幸なだけだぞ。

しかも影で女郎蜘蛛とか呼ばれるなんて喜べるかよ。


「じゃあ、朱雀館で待っていてくれよ。 ライリに料理を習うなんてどうだよ。 お前の手料理とか食べてみたいしな」


侯爵令嬢が作る料理とか豪華そうだしな。

どんなのか出て来るか楽しみだぜ。

だが…… この時の俺はヴィッチが壊滅的に料理の腕が無いとは知るはずも無く、後で聞いた話ではライリの頭を悩ませる事になったそうだ。





朱雀館を出て俺達の前に仁王立ちしていた女性がいた。

それはクレアの上司のアニスだ。


「やっぱり此処にいたのですね。 勝手に王宮を抜け出したりしてどう言うつもりですか?」


うわぁ、完全に怒ってるだろ。

クレアも真っ青な顔をしてやがるぜ。


「済まねぇ、ちょっと用があって俺が呼んだんだよ。 もう二度としねぇから今回だけは許して貰えねぇかな」


助けてやらなきゃ可哀想だろ。

朝はパニックみたいなもんだったろうからな。

アニスは俺の目をじっと見つめていたが、やがて深く溜め息を吐く。


「仕方がありませんね。 今回だけは許して差し上げます。 さぁ、来なさいクレア。 侍従長には私も一緒に謝ってあげますから」


なんだかんだ言っても優しいんじゃねぇか。

信じられないものを見たような感じでクレアが俺とアニスを交互に見ていた。

お前は普段どれだけ怒られてるんだよ……


「ご主人様、本当にありがとうございます。 お休みの日や仕事が終わったら会いに来ても宜しいでしょうか?」


それならアニスには怒られないだろうし、いいと思うぜ。

ご主人様と呼ぶクレアをアニスは無言で見つめていた。

やっぱりかって感じだな。

コイツが俺に惚れたのか分かったんだろうぜ。


「ああ、構わねぇよ。 信じて貰えないかも知れねぇが、あの話はアニスにしても構わねぇからな。 特にロイ・ガーランドって奴の事もよ」


その俺の言葉にクレアが頷く。

未来のお前を殺した相手だからな。

それを防ぐために味方は多い方がいいだろう。

アニスに連れられて王宮へと帰って行ったクレアを見送ると俺はアンナと二人になった。

そんな俺をアンナは何か言いたそうな感じで見ているが…… 一体何なんだよ。






王宮へと足を運ばなくても良くなった事から、真っ直ぐ冒険者ギルドに向かう俺とアンナだったが、何やら機嫌が悪い感じがするんだよな。


「ねぇ…… アンタってさ。 私の事は嫌い? 何となく私だけ扱いが違う気がするんだけど……」


おいおい、俺を殺人鬼とか呼んで剣を突き付けて来たのは誰だよ。


「そんな事はねぇよ。 お前の気のせいじゃねぇか? 他の奴らが積極的なのを見てるから誤解してるだけだと思うぜ。 まぁ、お前は…… アンナはアンナのペースでいいんじゃねぇか?」


こう言う時は名前で呼んだ方がいいんだよな。

思わずライリの顔が頭に浮かんで来る。


「うん…… 私はこう言うの経験無いから良く分からなくって正直戸惑ってるわ。 でも出会ってまだ三日なのよ? それなのにみんなアナタと結婚する気になってるし、やっぱり魂が引き合ってるからなのかしら」


アンナの考えが一番まともだな。


「ああ、そうなんだろうぜ。 俺だって困惑してるよ。 全部夢なんじゃないかって思ったりもしたからな」


話が出来過ぎてるからな。

まるでお伽話だよ。


「もし本当にこれが夢だったら…… これは誰の夢なのかしら?」


俺の夢か? いや、違うな…… 本当にそうだとしたら、きっとアイツだろうよ。


「ライリなんじゃねぇか?」


俺の答えにアンナが無言で頷く。


「うん…… 私もそう思う。 あの子って不思議な子よね。 まるでお伽話に出て来る人物みたいな感じがするわ」


やっぱり俺と同じ事を考えてたか。

気が合うとか未来のお前が言っていたが、本当にそうなのかも知れねぇな。


「でもライリは一途でいい奴だ。 それだけは分かる」


あんなに一生懸命なんだからな。

悪くは思えねぇよ。


「ねぇ…… 手を繋いでもいい?」


いきなり何なんだよ。


「んなっ! そんなの恥ずかしくて……」


そう言いかけてアンナを見れば下を向いて真っ赤になってやがる。

コイツも恥ずかしいのに一生懸命頑張ってるのか…… 仕方がねぇな。


「ほらっ、早くしろよ! 俺だってこう言うのは経験ねぇんだからな」


俺の差し出した左手に一瞬驚いた様子だったが、その顔はすぐに笑みへと変わる。

添えられたアンナの右手は小さくて、だが力強く俺の左手を握って来る。


「うん。 ありがとう…… うふふ、やっぱり照れちゃうけど、何か幸せな感じがするわ」


ああ、そうだな…… それは俺も同じだぜ。

何か甘酸っぱい感じがしてよ。

本当なら侯爵領に流れ着いた俺はお前と出会い、暫く二人で過ごす筈だったらしいからな。

気が合わない訳はねぇさ。

俺は握り締めた左手に少し力を入れて、アンナの言葉に応えてやるのだった。




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