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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第三章 大剣使いの冒険者と不思議な侍女ライリ
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第19話 願いの代償

結局、翌朝までライリは目覚めなかった。

俺達は毛布を被りながらライリを見守って夜を明かした事なる。

その間、アンナとヴィッチは左手の薬指にはめられた婚約指輪をうっとりとした表情で眺めながら、ふと思い出しかのようにニヤニヤしてやがるからコッチは落ち着きゃしねぇよ。

そんなに嬉しいのかね……

しかも身体を擦り寄せて来るから、柔らかいし良い香りがするしで緊張しっぱなしだぞ。

16歳の健全な男子には辛い仕打ちじゃねぇか?


そんな二人に話を聞くとやっぱり夢で見たのは俺が婚約指輪を渡す場面だったそうだが、俺と違うのは自分自身が指輪を貰う風に見えたと言う事だ。

夢を見た本人の視点だったって事だな。

そして夜が明けると朝一番に予想通りにクレアの奴が朱雀館へと駆け込んで来やがった。


「良かったですわ。 ここにいらしたのですね。 聞いて頂けますか! 信じられないかも知れませんが、ご主人様から婚約指輪を頂く夢を見て朝起きたら本当に指輪が指にはまっていたのです! あの…… こんな話を信じて下さいますか?」


信じて貰えるか不安そうな表情をしてるが、それはお前だけじゃないから大丈夫だぞクレア。

俺がアンナやヴィッチの方へと視線を向けると釣られるようにクレアも二人の方を見て驚いたみたいだ。

うっとりとした表情を浮かべているその二人の指にも指輪がはまってるんだからな。


「クレアも見たのか? 俺から婚約指輪を貰う夢…… いや、あれは記憶なんだろうな」


あれは未来の世界で実際に起こった事なんだろうよ。

あまりにもリアル過ぎてそうとしか思えねぇからな。


「はい、屋根裏部屋で泣いていた私にご主人様が婚約指輪を渡してくれて…… でも透き通るような身体の私には指輪を掴む事は出来ませんでした。 ですが…… あの夢とは違い、今はこのように指輪を手にしているのです」


やっぱり俺が見たのと同じだぜ。

そうなるとマリンもか……


「朝から済みません。 マリンがどうしても貴方にお会いしたいと言うものですから……」


困った顔をしたセリカがやって来たが、横には3歳児には似合わない指輪を手にしたマリンが立っているんだが…… 何でビシッと敬礼してんだよ!

三つ子の魂百までとか言うアレか?


「婚約指輪、ありがとうであります!」


マリンが口にした言葉にセリカが青い顔をしてやがる。

いや、渡したのは俺であって俺じゃねぇからな! 本当に誤解しないでくれよ!


「あ〜 マリンの母ちゃんが誤解するだろうが! 黙って聞いてくれよ。 信じられないかも知れねぇが、未来で俺が婚約指輪を渡す夢を見た四人が本当に指輪を手にしちまったんだよ」


それを聞いたセリカがアンナやヴィッチを見て更に驚いてやがる。


「多分…… ライリが何か知ってると思うんだが、中々目を覚まさなくてな。 今の所はまだ何も原因が掴めてねぇんだよ」


セリカも今この場にいる女達に何かが起こっている事は察したみてぇだ。


「では…… あの指輪はマリンのものなのですね。 何やら朝起きた時から様子が変で…… 妙な口調で話をしながら敬礼とかまでするんですよ」


あぁ、アレか…… 確かに変だよな。

でも自分の未来の姿を見てカッコイイとか思ったんじゃねぇのかな?

まだ子供だしよ。


「将来の自分自身を見たんだろうぜ、俺が見たのも同じ感じのマリンだ」


セリカがマリンを見て複雑そうな顔をしているな…… まぁ、悪の道には進みそうはねぇし、良いんじゃねぇかな。


「う、う〜ん…… 皆さん集まって何をしているのですか? あら…… 私の身体が……」


やっとライリが気付いたか!

目を開けると自分の小さくなった手を見ながら何やら考え込んでいたが、その後は集まる俺達を見渡していた。


「ライリ! 一体どうなってるんだよ。 婚約指輪を渡す場面をみんなが同時に見たら本当に指輪を手にしてやがるしよ…… しかもライリは小さくなってるじゃねぇか」


本当に訳が分からねぇ……


「私が願ったからかも知れません。 あの日のように皆さん一緒にご主人様の事を仲良くお慕い出来るようにと…… この姿はその代償なのかも知れませんね」


願ったって…… 俺が確かに指輪を渡した後にみんな仲良く整列してたが、アレは何かみんなで話し合っていたのか?


「待てよ…… 願いを叶えたら若返るって事か? 確かライリが過去へやって来た時も5歳は若返ったんだよな? それと同じだと言うなら、そんな力は二度と使うんじゃねぇぞ!」


一回で5歳若返るなら…… あと二回使ったら消滅しちまうんじゃねぇか?


「はい、分かってます。 世界樹には生命と時間を司る力があるのかも知れません。 これ以上は危険だと言う事です。 使うのは止めますから安心して下さいませ」


小ちゃくなったのにあんまり悲観的じゃねぇのは何でなんだ?

それよりも皆が仲良くする事がライリの望みって事になるのか。

俺を争って勝負とか始めたくらいだからな。

この先も同じようにエスカレートして行けば決闘とかしかねなかったかも知れなかったかも知れねぇか。

今の幸せそうなコイツらからは想像出来ない気がするのも全てライリのお陰なんだな。


「ご主人様、ご心配をかけてしまい申し訳ありませんでした。 そんなに心配そうな顔をなさらなくても大丈夫です」


俺を安心させようて身体を起こしたライリだったが、サイズの合わないメイド服がスルッと脱げて小ちゃい胸が露わになる。


「うわっ! 大丈夫だ、見てないからな!」


俺はその姿に慌てて後ろを向くとぎゅっと目を瞑る。


「うふふっ、そんなに恥ずかしがらなくても…… ご主人様とは既にそんな間柄ではありませんよ」


そんなライリの言葉に辺りが凍り付く。

セリカなんかマリンの目と耳を必死に塞いでやがるしよ。


「い、いや…… 今の俺とはまだ何もしてねぇだろうが! とにかく隠してくれ!」


目を開けた俺の前にズラッと並ぶ女達。


「仲良く分け合うのが私達よね? そうなるとライリちゃんだけ狡くないかしら……」


俺はお菓子か何かか!


「私など…… 貴方のファーストキスを奪ったくらいですもの……」


ちょっと待てよヴィッチ!

恥ずかしそうに自慢するんじゃねぇよ。

しかも、今それを言うか?

気になってライリを見れば余裕の笑みを浮かべているが、どうしてなんだ?


「ヴィッチさん。 こんな事もあろうかと思ってご主人様のファーストキスは、既に出会った日の夜にご主人様が寝ている隙に私が頂きました。 ですから貴女が奪ったのはセカンドキスになります」


ね、寝ている俺にそんな事をしたのかよ!

おい、ヴィッチがチッとか舌打ちした気がしたんだが…… 侯爵令嬢だよな、お前。


「未来の私が幽霊だった分、私が一番ご主人様が不足していますわ。 ですので私に多く配分して下さいませ」


ダメだ…… コイツら。

こうなるとマリンくらいだな、まともなのは。

そう思ってチラッとマリンを見ると、俺の視線に気付いたらしく直立不動で敬礼して来たぞ。

だから俺はお前の上官じゃねぇだろうが!

ライリの話じゃ、この国のお姫様の筈だろ?

未来のこの国は一体どうなってんだよ!


「良かったですね、ご主人様! あの日の五人がこうして勢揃いしたのですよ。 私は…… 本当に嬉しくて仕方がありません」


ライリの言葉に振り返ると瞳にいっぱいの涙を浮かべ、胸の前で手を祈るように組んでいた。

それもこれも全部お前の力なんだぜ。

全てを捨てて時を超えてまで俺の元へ来てくれたんだからな。

でもよ…… 一応感動の場面なんだから、その小さな胸は早く隠してくれよな。

俺を見るみんなの視線が痛いのは、多分気のせいじゃねぇと思うぞ。




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