第16話 三人の主張
王都に戻って来れたのは日も暮れかかった頃だった。
冒険者ギルドで依頼達成を伝え報酬を受け取った俺は言い表せない程の満足感を感じていた。
初の依頼達成だからな。
しかも新人の冒険者がオーガを倒した事を知ると他の冒険者達が色めき立ちやがった。
そして俺は名誉ある二つ名を手に入れる。
今の俺は"大剣使い"と呼ばれる冒険者だ。
「お帰りなさいませ、ご主人様! 首尾は如何でしたか?」
朱雀館に戻った俺をライリが出迎えてくれた。
だが…… その顔はすぐに曇る事になる。
俺の両腕にアンナとヴィッチが腕を絡ませてくっ付いていたからだ。
「ご主人様はオーガを倒しに行ったのですよね? ヴィッチさんをお持ち帰りしただけでなく、アンナさんまでも落として帰って来るとは予想もしてませんでした。 近場の依頼だからと舐めていたようです。 そうですか…… ふふふっ……」
うおっ、何かライリの周りを漂う黒いオーラを感じるぞ。
顔は笑ってるんだがな…… 何か怖えよ。
「ヴィッチの乗った馬車が偶然オーガに襲われててよ。 駆け付けた俺が助けたら…… こうなった。 それを見ていたアンナも嫉妬しちまう自分の気持ちに気付いたらしく…… こうなった」
そんな感じでいいんだよな?
「アンナさん、ヴィッチさん。 ご主人様はお疲れのご様子。 そろそろ解放してあげて下さい」
ライリの言葉にビクッと身体を震わせて俺から離れて行く二人。
やっぱりそうだろ? お前らだってライリから黒いオーラを感じたんだろうぜ。
「そうそう…… これが今回の依頼の報酬だ。 ライリに渡しておくから管理を頼むぜ。 明日になればオーガの死体も届くだろうから、もう少しは貰える筈だ。 受付嬢に聞いた話によると牙とかが高く売れるらしいんだよ」
ライリに銀貨や銅貨の入った革袋を渡すとニッコリして受け取ってくれた。
大切な財産管理を任される事が嬉しいみたいだぜ、それだけ信頼している証拠だからな。
そんなライリが少しして、ハッと何かに気付いたみたいだった。
「まさか受付嬢は口説いたりしていませんよね? でも…… ご主人様に聞いても無駄でしたね。 本人にその気が無くても相手をその気にさせる罪な方ですから。 アンナさん、大丈夫でしたか?」
どうやら女に関して俺の評価は散々なんだな。
「ええ、私が見ている限りはそんな感じは無かったわよ」
当たり前だろうよ…… ただ話をしただけだぞ。
アンナの言葉に軽く溜め息を吐くライリ。
どれだけ警戒してるんだよ。
「それよりライリの方はどうだったんだよ。 料理のアドバイザーから見た感じ」
「元々、料理の基礎は出来ていると方々ですから、簡単なアドバイスをするだけで格段に腕を上げている感じですね。 本当に料理ってちょっとした工夫一つで変わるものですから」
料理の話になったら途端に楽しそうに話してくれたぜ。
本当に良かったよ。
「そりゃあ、良かった。 で、今日の俺達が泊まる部屋って聞いてるか? 結局二人増えちまうからよ。 普通の部屋だと四人はキツくねぇか?」
ライリの料理の先生も短期間で終わるなら他の拠点を探さなきゃならねぇしな。
本来ならパープルトン侯爵領で家を買うらしいが、それは10年以上は後の事の筈だ。
「約束したのは一部屋だけですから…… 仲間が増えたから更に部屋をタダで使わせて欲しいと言うのは確かに図々しい話になりますね」
ライリの言葉通りだと思い考え込む俺達。
「朱雀館の宿泊料は高いですが、従業員用の寮に代金を支払って住まわせて貰うと言うのは如何でしょうか? 幸い空きがあるようでしたし」
確かに寮なら多分高くはねぇよな。
フィリックも空き部屋を貸して金が入るなら文句もねぇだろうよ。
「そりゃあいいかもな。 で、誰がそこに泊まるんだ?」
俺の言葉にライリ、アンナ、ヴィッチの視線が絡み合い火花を散らす。
どうやら俺は最初から朱雀館残留らしいな。
もう一人が誰になるかを決めなきゃならねぇって事か。
「私はご主人様とは常に一心同体ですから離れる訳には参りません!」
「あらあら? 私は侯爵令嬢として歓迎される立場の筈です。 朱雀館を望みますわ」
「私だって未来の妻よ。 しかも彼の子供を産むんだもの。 当然、私に決まってるじゃない!」
三人の女達がそれぞれの主張を口にする。
こ、怖えぇよ!
「なら…… 勝負と行きましょう! 幸い三人共に15歳は超えて成人しているんだもの。 飲み比べで勝敗を決するのはどうかしら?」
「ふふふっ、私は構いませんわ」
「私だって負けません…… 見ていてくださいませ、ご主人様!」
飲み比べだと? 大丈夫かよ……
多分、言い出したアンナは酒に強いんだろうぜ。
自信満々だからな。
ヴィッチも自信ありげだが、ライリは大丈夫なんだろうか?
全く勘弁してくれよ…… 未来の俺は自己主張の激しいコイツらをどうやって相手してやがったんだ?