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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第三章 大剣使いの冒険者と不思議な侍女ライリ
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第13話 未来への布石

昼前には朱雀館に戻った俺達を待っていたのはセリカとマリンの親子だった。

時間よりは早いが待ち切れずに来ちまったって所だろうよ。

フィリックの奴と話をしているが、何やら嬉しそうにしてやがるな。

どうやら帰って来た俺達に気付いたみてぇで、フィリックが立ち上がる。


「ライリ様、此方の方が貴女が手配して下さった料理人の方ですね。 これから人手が足りなくなる所でしたから助かります。 聞けば当館からは離れた長屋暮らしと言うでは無いですか。 当館の裏に従業員用の寮があるので、其方に住まないかと話をしていた所でして……」


そりゃあ、助かるだろうよ。

セリカの笑顔の理由が分かったぜ。


「既にそこまで話が進んでいるなら話は早いですね。 どうか宜しくお願いします、セリカさん」


ライリも考えていた通りに話が進み嬉しそうにしてやがる。

こうしてマリン親子の転職と引越しが一度に決まった事になった。

昼食を済ませた俺達はそれぞれに動き出す。


アンナはマリン親子の引越しを手伝うらしい。

善は急げって事で今日の内に引越して来るって言うんだから驚きだよな。

力仕事もあるだろうと思って俺も手伝うつもりだったんだが、どうやら俺に会いたい奴がいるらしい。

それを聞いたフィリックが気を使ってくれて、俺の代わりに朱雀館の若いのが手を貸してくれるそうだ。

大切な従業員のためだからと笑って話しているのを見て、改めてコイツは良い奴なんだなと思ったよ。

そのセリカから渡された手紙には、時間と場所が指定されていたからだ。


「なぁ、ライリはどう思う。 お前なら分かるんだろ?」


一瞬だけライリの左の眉毛がピクッと上がった気がして思わず口に手を当てる。


「多分…… ヨハン様でしょうね。 まだランス国王陛下は出て来ないと思います」


確かに得体の知れない冒険者に一国の王を合わせる訳にはいかねぇよな。


「ライリの話を聞く限り、二人とも随分なキレ者らしいからな。 俺だけならどうにも出来なかったが今の俺にはお前がいるから心強いぜ!」


「このラ・イ・リに全てお任せ下さいませ」


お前の言いたい事は分かったよ…… 何でライリは俺から名前で呼ばれる事にそんなにも拘るんだろうか?

名前を呼ばれると嬉しそうにするんだよな。

変な奴だぜ…… 全く。


「指定されたのはこの場所だよな。 よりによって昨日訪れた女性用の下着専門店"秘密の花園"の前って言うのは俺に対する嫌がらせか?」


俺の言葉にライリがクスッと笑う。


「マリンさんを助けた場所と言う事だからだと思いますよ。 どうやら来たようですね……」


ライリが言うように一台の馬車が俺達の前で停車する。

そして執事が馬車から降りると俺達を馬車に乗るように促しやがった。

罠じゃねぇだろうな?


「大丈夫です、ご主人様。 馬車に乗って居られるのは私が知っている姿よりは若いですがヨハン・ジーニアス準男爵に違いありません」


馬車から俺達を見つめる若い男を見上げながらライリが断言する。


「なら…… 会うとするかね、未来の義父(おとうさん)とやらに」


「はい、ご主人様!」


馬車に乗り込んだ俺達はヨハンと向き合う方で椅子に座る事になる。

細っそりとした体格にサラサラの黒髪か。

マリンはどっちかと言えば母親似かと思っていたが、父親の面影もあるんだな。


「急な呼び出しに構わず来てくれた事に感謝する。 セリカとマリンが世話になったようだ。 しかも昨夜はマリンの命すら救ってくれたと聞く、本当に心から礼を言う」


へ〜 平民だからと馬鹿にしたりはしないんだな…… ましてや国王陛下の隠し子だろうに。


「ヨハン様、お久しぶりです。 ……とは言っても私の事は御存知なさらないでしょうけど、私は良く存じ上げております」


おおっ、ライリがいきなり斬り込みやがった。


「其方がライリか、セリカから聞いている。 23年後の未来から来たそうだな。 それは誠か?」


まぁ、普通に考えたら無理があるからな。

ライリを見つめる瞳には嘘は一切見逃さないと言う強い思いが込められているのが分かる。


「はい、誓って嘘は申しません。 隣にいる最愛の主人を救うためにやって参りました。 それは13年後に起こる主人の死と、蘇ったにも関わらず23年後に切り離された主人の魂の記憶を蘇らせるためです」


ヨハンは黙ってライリを見つめている。


「ヨハン様の奥様は子供が出来ない事を悩んでおいでですね。 そんな奥様を見ているのが辛くなり、侍女のセリカさんと恋に落ちてマリンさんが生まれたと聞いています。 そして13年後に奥様が病で亡くなった後に二人に報いたいとセリカさんとマリンさんを引き取るのです」


ヨハンは顔色一つ変えずにライリの話を聞いていた。


「国王陛下と貴方が我が主人に興味を持ったのは自分達と同じくメイド好きだからです。 幼い私を選んで男爵位すら断った主人に興味を覚えたとお二人本人から聞きました」


親子揃ってメイド好きと聞いて明らかにヨハンの顔色が変わった気がするんだが…… 本当なんだろうな。

似た者親子か…… そこに婿の俺が加わり親子三代メイド好きって訳か。


「ライリの言う事に間違いは無い。 信じられない話だが…… 事実としか思えん。 其方の主人は何故亡くなるのだ?」


「ダスト・アンダーソン伯爵が、私の母に固執して父から奪ったのが全ての始まりです。 愛し合う二人は密会を重ね、今から三年後私が生まれます。 それか許せないダスト伯爵は父を地下に幽閉して母を我が物にするのです。 それでも怒りの治らないダスト伯爵は父や母の一族は罰せられ、目の前で幼い子供すら殺されたそうです。 その一族の恨みが禁忌の子と呼ばれた私に向けられたのです。 一度は滅ぼしたかに思えた一族でしたが、残党の手により主人は亡くなりました」


淡々と語るライリの話を俺達は聞いていた。

詳しい話は俺も聞いていなかったからな。

今すぐライリの両親に全てを話してやれば辛い目に遭わせなくて済むんだが、そうするとライリは生まれて来ない事になるからな…… 難しいぜ。


「ダスト伯爵か…… 私も知っているが、嫉妬深い男だよ。 そのような狂気に走るとはな…… 其方の両親の名前を教えて貰えるか? 注意しておこう」


頭の良さそうなコイツなら余計な事はしねぇと思うが、迂闊な事をしてライリが生まれて来ないとかになったら目も当てられねぇからな。


「父はレイルズ、母はアイリス。 二人は同じ部族の幼馴染みだったと聞いています」


ほぅ、初耳だぜ。

ダスト伯爵とやらが力強くで奪うくらいだから美しい女性なんだろうな。


「うむ…… レイルズにアイリスだな。 了解した。 話は変わるが…… マリンは彼と幸せになれるのか?」


まだ3歳の娘だぜ? それなのに結婚後の幸せを考えてるのかよ。


「幸せだったのはご主人様が亡くなるまでは…… と申しておきましょう。 その後は無理矢理実家に連れ戻されて望まぬ結婚を強いられるマリンさんの気持ちを察して下さいませ」


「そうか……」


ヨハンも複雑な思いでいるだろうよ。

子供の幸せを願わない親はいないからな。


「忘れ形見の身体に乗り移る形で蘇った主人も、マリンさんを心配して辛いなら自分の元へ戻って来たらいいと言ったそうです」


まだ3歳のマリンしか知らない俺には想像出来ないが、よっぽど辛い思いをさせたんだって言うのは分かるぜ。

結婚してる女に対して戻って来いとか言うくらいだからな。


マリンにしても仮にも国王の孫だからな…… 周りか放ってはおかないだろうぜ。

それが本人が望まない結婚であっても、後に幸せを掴むかも知れないしな。

だがライリの話を聞いている限り、そうは行かなかったと言う訳か。


「ならば…… 彼を死なせる訳には行かぬな。 ランス国王陛下にも話をして国をあげて彼を守らねばなるまい」


目を閉じながらウンウンとか腕を組んで一人で納得してるんだが、勘弁してくれよ。

おいおい、どうなるんだよ俺の未来は!

明日はオーガ退治に出なきゃならねぇんだが、まさか王国騎士団の護衛付きとか言わねぇだろうな。




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