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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第三章 大剣使いの冒険者と不思議な侍女ライリ
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第11話 子供扱いしないでくれよ

「ご主人様! 暫くは私の指示に従って絶対安静です。 分かりましたね?」


な、何だ! ライリの奴、小さくなってねぇか?

出会ったばかりだがライリはこんなに幼くは無かった筈だぞ。

いつの間に怪我をしたのか知らねぇが俺の身体中が包帯だらけでまるでミイラ男じゃねぇかよ。

俺は自分の身体を見て更に驚いていた。


「ご主人様…… ちゃんと私の話を聞いているんですか? わ・か・り・ま・し・た・ね!」


おいおい、ちっこいのに随分と凄い迫力だぞ。

なんか顔は笑ってるけど… 目だけが笑ってない。


「……はい」

「素直で宜しいです」


漸く満面の笑みを浮かべるライリ。

どうなってるんだ?

俺は…… この小ちゃなライリを知っている……


「くっ…… 何だ! 割れるみたいに頭が痛い!」


ズキッとする痛みに頭を両手で抱えるように|蹲〈うずくま〉った俺に聞き慣れぬが聞こえて来る。


「こんな事なら俺は蘇ったりしなきゃ良かったよ。 結局…… みんなを悲しませたりするだけじゃねぇか!」


コイツは一体何を言ってるんだ?

待てよ、子供の声だが…… これが息子の身体に乗り移ったって言う俺か?

その言葉を聞いたライリが随分と悲しい顔をしてやがる。

しかもライリがさっきとは違って大人の女性になってやがるぞ。


「何で…… ク、クッ…… ああぁああ……」


何だよ、何か…… 身体が…… いや、頭の中が変だ。


「だ、旦那様! しっかりして下さい!」


ライリが慌てて俺に駆け寄って来るのが分かる。

始めに感じた苦しみは徐々に薄れ、次第に意識がハッキリとして来る。

これは…… 俺の記憶なのか?

だが自分が体験した事も無いのに記憶と呼べるのかよ。


「ご主人様、お目覚めになって下さいませ」


耳元で甘く囁く声に俺の意識は現実世界に引き戻される。


「ライリ? 俺は…… 一体……」


胸元に寄り添う心配そうな眼差しの15歳程のライリを見た俺は、今まで見ていたライリが彼女にとっては過去の姿だと思い浮かぶ。


「どうなさったのですか? 少しうなされていたようですが……」


それで心配して起こしてくれたのか。


「小ちゃなライリを見たよ…… 身体中包帯だらけの俺に、私の話を聞いてるんですかって可愛い顔して怒ってやがった。 それに…… みんなを悲しませるだけなら蘇らなきゃ良かったって、多分あれは俺なんだろうな。 その俺の言葉を聞いて悲しそうな顔をしたライリは大人の女性だったよ」


その話を聞いたライリが俺を抱き締める。

甘い香りが俺の鼻孔をくすぐっていた。


「はい…… それは私も覚えています。 忘れる事の無いご主人様との記憶です。 全てを思い出してくれた訳では無いのですよね?」


あれはやっぱり現実なんだな。

嬉しそうなライリも悲しそうなライリも本当の事だったのか。


「ああ、俺が見たのはそれだけだった」


俺の答えに少し悲しそうな顔をするライリ。

全てを思い出した俺を求めてるのか?

だが俺が見たあの記憶は頭が壊れそうな感覚だった。

俺はあれらを全て受け止められるのか?


「そうですか…… やはりご主人様に全てを思い出して貰うにはタイザンさんが言っていたように添い遂げるしか無いのかも知れませんね」


タイザン? 男の名前だよな?


「誰だよ、ソイツ? しかも…… 添い遂げるって言うのは…… 俺がライリと寝るって事か?」


驚いたぜ…… ライリは俺とやる事に全く躊躇う様子がねぇ。

当たり前みたいに言いやがる。


「私をこの時代に送り出してくれた異世界から来られたと言う夫婦の旦那様です。 奥様はリーフレットさんと言って美しい方でした」


異世界だと! そんなものがあるのか?

まだまだ知らねぇ事ってあるんだな。


「私は…… ご主人様が望むのなら抱かれても構いませんよ?」


そう口にしたライリの表情は大人の余裕を感じさせるものだった。

考えてみればライリの今の姿は15歳だが中身は20歳だと言ってたな…… 今の俺には姉さん女房って奴か。


「いや、まだ会ったばかりだぞ! 俺だって男だから興味は無い訳じゃないが……」


俺の薄手のシャツを着ているライリに目をやればサイズが合わな過ぎて逆に色っぽい感じがして思わず目を逸らす。


「うふふっ、ウブなご主人様を見れるのは得した気分です。 私の知っているご主人様は、どちらかと言えば自信に満ち溢れた俺様でしたから。 でもたまに上手く行かない時は可愛らしいくらいに落ち込んだりするんです」


話に聞く俺は女の事以外は今とあまり変わらなそうな気がして来たぜ。

もしかしたら精神的に成長しないのかもな。

ガキがそのまま大人になった感じか?


「あんまり子供扱いしないでくれよ。 傷付くじゃねぇか……」


恥ずかしくなって来たぜ。

そんな俺を見たライリが大人びた笑みを浮かべる。


「なら…… 大人として扱ってあげましょうか? そして今すぐ旦那様に戻って来て貰います……」


ライリが俺の頬にそっと手を添える。

それって…… しちゃうって事か?

待て待て! 俺の心の準備ってものがあるだろうが! それに…… あの頭が壊れそうな苦しみに耐えられる自信がねぇよ。


「んんっ! 盛り上がってる所を悪いんだけど私も部屋にいるのを忘れないで欲しいわね」


ワザとらしい咳払いをしながらアンナが現れたが、正直な所を言えば助かったぜ。


「おっ、おう。 起きたのか、どうだったよ。 スイートルームのデカイベッドの寝心地は?」


動揺する心を誤魔化すかのようにアンナに聞いている俺をライリが残念そうに見てやがる。

そう言えば折角スイートルームに泊まったのに風呂にも入ってなければ床に座って寝るとか、全く満喫出来てねぇよ。

ここに泊まれるのは一日だけだったしな…… 考えてみれば惜しい事をしたぜ。


「最高だったわ。 昨日ライリちゃんから聞いたけど、ここって一日限りなんでしょ? 今日から泊まる別の部屋に私の寝るスペースもあるのかしら?」


当たり前のように言ってやがるが、お前も一緒に泊まるつもりかよ。

まぁ、その方がライリの誘惑から逃れられるかも知れねぇな。


「さぁな…… 見てみない事には分からねぇが、お前は嫌じゃないのかよ? 会ったばかりの男と一緒の部屋なんてよ」


随分と積極的なんだな。

逆に俺の方が緊張しちまうぜ。


「あそこまで女の子に迫られて手も出せないようなら安心よ。 ねぇ、ライリちゃん」


な、なんだと…… そう言う事かよ。

チラッとライリを見れば苦笑いを浮かべてやがる。

きっと俺と二人っきりが良かったんだろうぜ。

ライリには済まねぇが今の俺には大人の階段を登るには、まだ早いように感じるんだよ。

せめて一人前の男になってからじゃねぇとお前とは釣り合わないからな。

取り敢えず、まずは仕事だ。

この甲斐性無しとは卒業しなきゃならねぇからな。




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