第13話 朱雀館へようこそ
災厄と言う意味を持つ名前を冠する王都カラミティ。
誰がそんな縁起でもない名前を付けたのかは知らないが趣味が悪過ぎるだろ。
過去に王国滅亡寸前の災厄に見舞われたにも関わらず不死鳥の如く復興を遂げたらしい。
その際に災厄都市とか呼ばれていたのが由来だとか何とか…… だったら不死鳥の方を選べよと言いたくもなる。
「やっと王都に着いたな。 久しぶりに来たが相変わらず人が多くて嫌になるぜ」
特に大通りを行き交う人の多さには呆れてしまう程だった。
乗り合い馬車を降りた俺達はライリの誘導で旅館を探している。
旅の疲れを取るために王都に着いたら、まずは宿を探そうと馬車の中で話し合っていたのだ。
滅多に無い王都への滞在だし高級な宿への宿泊を提案したのだが、ウチの財務大臣から一喝された上に却下されている。
「ええっと… 大通りを真っ直ぐ進んで、三つ目の通りを左に曲がったから…… あ、ここです!」
ライリが乗り合い馬車の御者から聞いたと言うお薦めの宿に辿り着いたらしい。
「朱雀館とは大層な名前だな。 これでお手頃な価格って言うのは一体どう言う事なんだ?」
赤レンガの立派な旅館で、俺が普段泊まっている安い宿とは何か雰囲気が違う感じがするな。
「何でも幽霊が出るとか噂になってしまい、困った末に客を呼び戻そうとして値段を下げているそうなんです。 そんなのが本当にいる訳も無いのに… おかしな人達ですよね」
こりゃあ、中々に贅沢な宿に泊まれるじゃねぇかと喜んだのも束の間、信じられない事をさらりと言ってのけたライリの言葉に耳を疑う。
「おいっ! ちょっと待てよ。 今聞き捨てならない事を聞いたぞ! 何が出るって?」
「ですから幽霊が出るらしいんです」
当たり前のように言うなよ。
「却下だ却下! 何が悲しくて幽霊が出る旅館に泊まらなきゃならねぇんだよ!」
ドラゴンでもミノタウルスでも戦うのは怖くも何ともねぇが幽霊は剣じゃ斬れねぇだろうが!
「ご主人様… ひょっとして怖いのですか?」
小首を傾げて「何か変ですね」と呟くライリ。
正直言えば怖いんだよ!
「そ、そんな訳は無い…… ドラゴンすら倒す俺だぜ? 冗談も休み休み言えよ」
「はい、私はご主人様に限って怖いなんて事はありえないと分かってますから」
そんな俺を信じ切った瞳で見詰めないでくれ。
そうだ! アンナを味方に付ければいいだろ!
「アンナ、おいアンナ! お前も何か言えよ!」
俺の呼び掛けも耳に届かない上に真っ青な顔してやがる。
お前…… 幽霊とか本気で苦手なんだろ。
「あ、そうだわ! 私は冒険者ギルドの王都カラミティ本部に用があったのよ。 ちょっと行って来るわね。 もしかしたら本部が用意した安宿に泊まるかも知れないからって言うか、泊まるわ! 二人はその豪華な旅館に泊まって頂戴! 羨ましいけど私は仕事だし我慢するから」
どうやら逃げる口実を思いついたらしい。
おいっ! 自分だけ逃げようってのか!
チラッと俺を可哀想な奴って顔で見ただろ?
「じゃあ、明日の朝に冒険者ギルド本部で待ってるから!」
そそくさと幽霊旅館から退散して行くアンナ。
「あら、でしたら仕方がありませんね。 ご主人様と二人で泊まる事にしましょう」
既に決まってるのか? 俺の意見はスルーなのかよ!
スタスタと幽霊旅館に歩いて行くライリの後に付いて行く俺の足取りは重い。
「ようこそ朱雀館へお越しくださいました。 ヒ〜ッヒッヒッヒ…」
何て笑い方しやがるんだよ。
「宿泊をお願いしたいのですが、部屋は空いていますか?」
聞くまでも無い、絶対に空いてる筈だ……
「ええ、空いていますとも! 本日はお客様の貸し切りです!」
空いてるとか空いてないの話じゃねぇよ! 既にこの旅館に誰も泊まろとしてねぇんだろうが!
「ご主人様、私達の貸し切りだそうですよ。 静かな旅館でゆっくり過ごせますね」
俺は一秒たりとも滞在したく無いんだがな。
「おやおや、若い娘さんと二人旅とは羨ましい。 部屋は相部屋に致しますか? ヒーッヒッヒッヒ」
何か… 同じ笑い方なのに、さっきの笑いと比べて厭らしく聞こえるのは俺の気のせいか?
「私はご主人様とご一緒でも一向に構いませんけど… ご主人様は一人でゆっくりとなさりたいのですよね?」
「相部屋で頼む!」
即答した俺に驚いたライリが頬を赤く染める。
これは惚れた腫れたの問題じゃねぇからな。
一言だけ言わせて貰うとするとだな……
頼むから俺を一人にしないでくれ!