表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第三章 大剣使いの冒険者と不思議な侍女ライリ
129/172

第10話 二十三年分の罪滅ぼし

「ここが俺達が泊まる朱雀館だ。 まぁ、駆け出しの冒険者のアンナさんには泊まるのは無理じゃありませんかねぇ?」


ドヤ顔でアンナに言ってやる俺。

ハッハッハ、アンナの奴がムッとしてやがるぜ。

この生意気な女に一泡吹かせてやったぜ!


「さぁ、ライリちゃん。 私達のお部屋に案内してくれるかしら? だって私は彼の婚約者なんでしょう。 だったら一緒に泊まるのは当たり前じゃない」


そう言って俺の方を見てニヤリとするアンナ。

ち、畜生! そう来やがったか……


「本来でしたら、ご主人様がアンナさんの性格を一番良く知っていた筈なのに……」


「かなりの負けず嫌いって事か…… たった今、良〜く分かったよ」


二人っきりで過ごすつもりだったんだろうな。

ライリの落胆振りが手に取るように一目見て分かる。

悪いが俺からしてみれば、お前と二人っきりって言うのも本心を言えば緊張して辛いんだぜ。

ライリの方は俺が引くくらいの親愛の情を示してくれるが、こっちにしてみれば今日出会ったばかりだからな。

愛のバランスが釣り合わねぇんだよ。


「うわぁ〜 これってスイートルームなんじゃないの? アナタ達って随分と良い暮らししてるじゃない! うふふっ、今夜はゆっくりと眠れそうね」


広いスイートルームをウロウロしながら各所を見て回りながらウットリした表情を浮かべるアンナ。

おいおい、コイツ完全に泊まる気満々だよ。

ライリも何か言ってくれよ!

そう思って振り向けばソファーにもたれ掛かるかのように力尽きているライリがいた。


「おいっ! 大丈夫か? 一体どうしたんだ?」


それにしてもかなり疲れてるみたいだぜ……


「実は不眠不休で馬に乗り一日半かけて漸く王都に辿り着いたのです。 お昼にご主人様に出会った事で嬉しさのあまり、それを忘れて少し無理をし過ぎてしまいました。 申し訳ありませんが、もう限界みたいです……」


お前はそんな苦労をしてまで会いに来てくれてたのかよ?


「ゆっくり休めよ。 後でベッドへ運んでやるからさ」


立ち上がり毛布を取りに行こうとした俺の手をライリが握って引き止める。


「行かないで下さい…… もう私を一人にしないで……」


必死な顔をして俺を求めるライリ。

こんなになるまで心配かけやがって…… 何やってんだよ、未来の俺は!


「ああ、俺は何処にも行かねぇよ。 手を握っててやるから安心して寝ろ」


ホッとしたように息を吐き出すと深い眠りに落ちて行くライリ。

そんなライリの手を俺は離す事が出来なかった。

離しちゃいけない気がしたからだ。


「ねぇ、私は何処で寝れば良いかしら? あら…… ライリちゃん、寝ちゃったの?」


スイートルームの探索を終えたアンナが戻って来て寝ているライリを覗き込む。


「ああ、疲れてるみたいだよ。 かなり無理をして来たみたいだからな」


そしてライリの左手の薬指にはめられている婚約指輪を眺めていた。


「この子の指輪を見た? 細かい傷が沢山あるのよ。 一年や二年で出来る傷じゃないわ。 そうね、十年以上は肌身離さずつけていた筈よ。 私はこの指輪を見て彼女の言葉を信じる気になったの」


情の深いコイツなら手離す事はしねぇだろうな。

でも結婚式を挙げたなら何で結婚指輪じゃねぇんだろうか?

まぁ、きっと俺の事だからな。

いきなり結婚式を挙げるとか言い出して準備も間に合わなかったんじゃねぇかと想像出来るぜ。


「本当に不思議な子よね。 でもね…… なぜか、昔から知っているような気がするわ」


そうなんだよな…… 俺もそんな気がしてならねぇんだよ。


「魂が引き合ってるそうだぜ? そうでもなきゃ、今日一日でライリの話に出た5人が出会う奇跡なんか起きやしないだろうよ」


不思議と他の奴らもライリの話を信じたのは、そのせいかもな。


「ふふふっ、そうよね。 でも…… 私が10年後にアナタの子供を産むなんて知ったのには驚いたわ。 ちなみに男の子か女の子かは聞いてる?」


アンナが顔を赤らめながら聞いて来た。

本当にコイツはウブなんだな。

そう思うと少しだけ可愛らしく思えて来るのは不思議なもんだが、少しだけだからな!


「ああ、男の子だそうだぜ。 母親のお前に似た美少年だとよ、俺の血筋は何処に行ったんだか」


「へ〜 それは楽しみね」


だがな…… 息子として蘇った俺にお前は悩み、そして苦しむそうだ…… それだけは言えねぇ。


「アナタはずっとそうしてるつもり? 私はお風呂に入って来るわよ」


さっきは風呂場を覗いた時に夜景を見て素敵だとか騒いでたしな。


「ああ、23年分の罪滅ぼしには足りねぇが、コイツが望むのならそうしてやるつもりだ」


「そっか…… アナタ、ライリちゃんが言うように悪い人じゃないのかもね」


少し呆れ顔で風呂場へと消えて行くアンナ。

それは俺を悪い奴だと思ってたって事か?

まぁ、善人ではねぇからな。

俺も今日は疲れたぜ……





ガクッと首が傾いた衝撃で目を覚ましたライリの目に映ったのは自分の手を握り締めたまま床に腰を下ろして眠る最愛の主人の姿だった。


「ありがとうございます…… ご主人様」


ライリは彼の寝顔を見つめながら手に伝わる温もりを感じて幸せな気分に浸っていた。

もう二度と会えないかと思っていた彼に会う事が出来たのだから。


「あら、ライリちゃん起きたのね。 ソイツ、ライリちゃんの望みなら叶えてあげたいって手を離さなかったのよ。 優しい所もあるのね」


風呂から上がりバスローブ姿のアンナが亜麻色の長い髪をバスタオルで拭きながら現れる。

ライリはアンナの言葉に喜びを感じながら、そっと手を離す。


「えっ? 離しちゃうの?」


逆の対応にアンナは驚く。

ライリも同じように手を離さずに寝るものだとばかり思っていたからだ。


「はい、私も汗を流して綺麗な姿でご主人様の傍に寄り添っていたいですから。 ご主人様には悪いですけど…… ちょっと我慢していて貰います」


立ち上がったライリが愛おしそうに彼を見下ろして、そう口にするのを見たアンナは彼に対する彼女の思いの深さを感じるのだった。


「あ、私がバスローブを使っちゃったからライリちゃんが着るのが無いのよ…… どうしよう?」


そんなアンナの言葉に少し考えた様子のライリは、彼の荷物に視線を向けると悪戯な笑みを浮かべるのだった。







「んあっ、何だ…… 俺も眠っちまったのか? ライリはどうしたんだ?」


目覚めると部屋の中は灯りが落とされており真っ暗になっていた。

しかも握っていた筈のライリの手は俺の手から消えているんだが……

だが身体を包む毛布の感触と胸に当たる柔らかな感触に気付く。

可愛らしい寝息を立てて俺の胸に寄り添って眠るライリがいたからだ。

雲間から覗く月明かりに照らされてライリの姿が浮かび上がる。


「おい、それは俺のシャツか……」


ブカブカの俺のシャツを着て幸せそうに眠るライリを眺めながら普段感じた事の無いような安らぎを感じ、いつの間にか俺も再び眠りに就くのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ