第6話 呼び合う5人の魂
信じられない話だがライリが23年後の未来から来ただと? 確かに俺の知らない話ばかりだからな。 これから起こる話だと言うなら辻褄が合うぜ。
「未来の俺はどうなるんだよ。 ライリが助けに来るくらいだから…… やっぱり死ぬのか?」
もしそうなら回避する手段がある筈だからな。
この俺がそうあっさり死んで堪るかよ!
「はい、今から13年後…… 私の10歳の誕生日の日に私を殺そうとする異形の集団と戦って亡くなります。 それは私とご主人様の結婚式の夜の事です」
おいおい、結婚式を挙げた日の夜に死んじまうとは随分と情けねぇ新郎だな俺は……
「それにしても俺が10歳のライリと結婚とか無理がねぇか?」
結婚可能な年齢は成人として認められる15歳だろ? 無学な俺でも知ってる事だぜ。
「はい。 普通ならば無理でしたが、実は国王陛下に頼み込み一日だけ結婚可能な年齢を10歳に変えて貰うと言う強引な方法でした」
おいおい、国王陛下に頼むとか未来の俺って何様なんだよ……
「そ、そうか。 凄いんだな未来の俺は……」
今の状況からは信じられねぇが…… これから13年もあるんだから色々あったんだろうよ。
「はい! 私の自慢の旦那様ですから」
満面の笑みで答えやがった。
そこまで未来の俺を愛してくれていたのか……
「ちなみにその際にアンノウン伯爵として叙勲を受ける事になります。 まぁ、死んでしまった事で一日限りでした。 しかも国王陛下には私との結婚も無かった事にされてしまいましたし……」
何やら遠い目をするライリ。
その時の事でも思い出したんだろうな。
それにしてもこの俺が伯爵位を授けられるとは信じられねぇぜ。
アンノウン伯爵ってお袋と親父の名前からだろうが、何を考えて付けたんだ未来の俺は? 恥ずかしいだろうが…… きっと仲直りしたんだろうな。
今から一週間程前に、俺が故郷を飛び出すきっかけになった壮絶な親子喧嘩を思い出す。
「私にも聞かせるのですから、私も貴方達の関係者になるのでしょうか?」
黙って聞いていたクレアがライリに尋ねる。
本当に信じられない話だがライリが嘘を吐いている気がしないのはコイツも同じなんだろうよ。
「ご主人様が亡くなられた際に、既に幽霊になっていたクレアさんの助言によって、その更に10年後に復活を果たす事になります」
幽霊だと! 俺が一番苦手な奴じゃねぇか。
そうか…… クレアも死んじまうのかよ。
「ええっ! 私は死んでしまうのですか? 一体いつ頃にどう言う形なんですの?」
流石にクレアもショックだろうよ。
だが…… 上手くやればそれも回避出来るって訳だよな。
「ご主人様に聞いた話では今から13年後に実業家ロイ・ガーランドと言うメイド好きの屍体愛好家に誘拐されて殺されたそうです」
メイド好きの屍体愛好家って…… 凄えな。
悪趣味にも程があるだろ。
「27歳で死ぬなんて儚い人生ですのね。 私はその人を知っていますわ。 王宮に出入りする御用商人の一人ですけど…… まさかそんな人とは思いもしませんでした」
世の中そう言う奴が澄ました顔して普通に暮らしているから怖いんだよな。
「幽霊になったクレアさんが私達と最初に出会ったのが、この朱雀館のスイートルームなのです」
何だと! 奇妙な縁もあるもんだぜ。
「ちょっと待てよライリ。 本来なら13年後に出会う筈のクレアに会っちまって俺達の過去は既に変わっちまった訳だが、もしかして朱雀館に泊まったからか?」
本当なら高級旅館なんて俺が泊まれる訳ねぇからな。
「そうなるかと思います。 本来ならば武具屋アルマで騒動を起こしたご主人様は王都を出てパープルトン侯爵領へと拠点を移す筈でした」
それをライリが収めてくれて過去が変わっちまったのか。
今の俺達にとっては未来になるんだけどな。
「一つだけ良いですか? ライリ先輩は今のこの時代に生まれているんですよね?」
んっ? クレアの奴、何だって言うんだよ。
「いいえ、私が生まれて来るのは今から3年後になる筈です。 本来なら未来の私は20歳だったのですが、過去へと向かう際に世界樹の露に秘められていた力で4〜5歳は若返ってしまったようです」
だから15歳と言う事にとか言ってたのか。
世界樹とか聞いた事もねぇが…… 凄えな。
「良かったのですか? 過去を変え過ぎたらライリ先輩は生まれて来なくなる可能性もあるのではありませんか?」
な、何だって…… 確かにそうかも知れん。
ライリはそんな危険を冒して過去に戻って来たのか?
「はい…… そうかも知れません。 送り出してくれた方々にもどうなるかは全く分からないと言われていましたし、始めは変化はなるべく小さくと思っていたのは確かです。 でも武具屋で騒ぎを起こしているご主人様を見たら黙っていられませんでした。 やっぱり私はご主人様のお役に立ちたいんです」
可愛らしく舌をペロリと出すライリ。
そんな可愛らしい顔をして言う話でもないだろうよ。
存在しなくなるかも知れねぇんだからな。
「クレアさんに出会って思ったんです、きっと魂が呼び合ってるのは私だけでは無いのだと。 驚かないで下さい…… 未来のご主人様には婚約者が私を含めて5人存在しています。 お互いにご主人様を愛し合うと固く誓い合った仲間達です」
5人だと! 何だよ…… そのハーレム状態は?
「その5人って一体誰なんだよ?」
俺の知ってる奴なんだろうか?
「当然ながら私を始めとして…… 女冒険者のアンナさん、ヴィッチ・パープルトン侯爵、ヨハン・ジーニアス準男爵令嬢のマリンさん。 そしてクレアさん…… 貴女もその一人なのです」
やっぱりクレアも婚約者の一人だったのか。
貴族の令嬢が二人もいるとはな……
「やはり私もこの方の婚約者なのですか…… それはそうとジーニアス準男爵にまだ子供はいませんわ。 ライリ先輩と同じくまだ生まれていないのでしょうか?」
そうなるとマリンって奴にも生まれて来ない可能性がある訳だよな。
「大丈夫です。 マリンさんはジーニアス準男爵が侍女との間に儲けられた隠し子で確か今は3歳の筈…… 平民として母親と暮らしていますよ。 ちなみにジーニアス準男爵はランス国王陛下が侍女との間に儲けられた隠し子ですから、マリンさんは王女様と言う事になります」
おいおい、親子揃って侍女と隠し子を作ったのかよ…… 随分とメイド好きな親子なんだな。
「知ってはいけない事を聞いてしまいましたわ。 この国の重要な秘密を知るなんて……」
クレアの奴が青い顔をしてやがるぞ。
迂闊に口にしたら捕らえられそうだからな。
「で、クレアはどうするんだよ? 約束通りに王宮に送って行かなきゃならねぇしな。 それと…… 俺と婚約者とか聞いてどう思うんだ?」
いきなり言われても困るだろうがな。
「このままだと27歳で死ぬまで結婚も出来ない事が分かりましたわ! だとしたら幽霊になった私と婚約してくれたと言う貴方と一緒になるしか道はありませんの。 今日の所は大人しく帰りますが…… また必ず会いに来ます!」
クレアもこれだけの美少女だから、さぞや美人になったろうよ。
そうなると並みの男性ならば、まず引くだろうな…… その結果だと思うぜ。
「ああ、そうしてくれよ。 じゃあ、そろそろ行くか。 店が閉まる前にライリの下着とかも買わなきゃいけないんだよ。 身一つで来たらしくてな」
恥ずかしそうに顔を赤くするライリ。
俺と下着を買いに行くのが恥ずかしいんだろうが、俺の方が恥ずかしいんだからな!
何の因果か二人の美少女を連れて夜の街に繰り出す事になった俺だったが、こんな羨ましい状況を良く思わない奴もいる訳で……
トラブルに巻き込まれるのは当然と言えば当然の事だった。