第5話 ロリコンって奴か?
「はい、私はクレアですが…… 何処かでお会いしたかしら? 貴女もメイド服を着ているのだから仲間ですわね」
俺達のテーブルにやって来たのはサラサラの長い金髪に青い瞳の美少女か。
着ている青いワンピースも高級感のある代物だし、流石は王宮付きの侍女は違うぜ。
ウチのライリも負けてねぇけどな。
「いいえ、会うのは初めてになります。 私はこちらのご主人様に仕える侍女のライリです。 どうか宜しくお願い致します」
席から立ち上がったライリがクレアにお辞儀しているが、まさに美少女の共演って感じだな。
だがクレアの奴は我慢出来ないらしく、チラチラと料理に視線を送ってやがる。
「気になるんだろ? 食っていいぜ。 ちなみにウチのライリの料理は更に上を行くらしいぞ」
俺が勧めるままに空いている席へと腰を下ろすと取り憑かれたかのように食べ始めるクレア。
"美味しいですわ"とか"堪りませんの"とか呟きながら次々と平らげて行くが、その痩せた腹にどれだけ入るんだ?
そう言えばと思ってアニスを見ると俺に向けて苦笑いを浮かべながら頭を下げていた。
こりゃあ俺の分は無くなりそうだな。
「ふぅっ…… 美味しかったですわ。 これより美味しい料理を作るなんて…… もうライリ先輩と呼ばせて下さい。 それでですけど…… 今度ライリ先輩の料理も食べてみたいですの」
無心になって食っていたかと思えば、ちゃんと聞いていたらしいな。
「その内に朱雀館で新しく始めるランチタイムには私も関わりますので、来て頂けたら食べられると思いますよ」
ライリ先輩とか呼ばれたせいか嬉しそうにしてやがるぜ。
何故か一瞬だけ表情が曇った気がしたんだが、多分俺の気のせいだろうな。
「必ず来ますわ! 今から楽しみで仕方がありません」
なんかまだ食えそうな雰囲気だぞ。
普通は腹一杯食べりゃ食い物の事は考えたくなくなるだろ。
「はい。 心よりお待ちしております」
ライリが既に営業スマイルを浮かべていた。
「この朱雀館は料理だけでなく、部屋も素敵だと聞いていますわ。 特にスイートルームは夜景が綺麗で素敵なそうですの。 一度でいいから見てみたいと思っています」
何やら想像してうっとりとしてやがる。
「ここのスイートルームなら俺達が泊まってるんだが、折角だから見て行くか?」
スイートルームと言う言葉にピクッと反応しやがった。
自分の欲望に素直な奴だぜ。
「美味しい食事に豪華な暮らしなんて本当に素敵だわ。 面倒ごとの多い王宮付きの侍女など辞めて貴方の所に永久就職しようかしら」
急に俺へと擦り寄って来るクレア。
俺の肘に確かな膨らみを感じる大きさの胸が当たってるのは誘ってるのか?
「駄目です! ご主人様の所へは私の永久就職が既に決まっていますから」
クレアを俺から引き剥がすと自慢するかのように翳したライリの左手の薬指には小さめのダイヤの指輪が光っていた。
「えっ、ライリ先輩は仕えているご主人様と婚約しているのですか! 素敵です…… どんな恋のロマンスがあったのか教えて貰えませんか?」
いや、期待させて悪いが何も無いぞ。
ロマンスも何も、全く記憶に無いからな。
「嫌だ…… そんなのは恥ずかしいです。 ドキドキする事を色々言って貰ったりはしました。 それも今では良い思い出です」
おいおい、それって10歳頃の俺なんだよな?
そんなガキが一体どんな甘い言葉を囁くって言うんだよ。
俺はいつの間にか頭でも打って記憶喪失にでもなったんだろうか…… 現実としてライリがやって来たし、婚約指輪まで持っているんだからな……
「うわぁっ、羨ましい…… ほんの少しで良いから教えて下さい、ライリ先輩」
「ええっ…… う〜ん。 恥ずかしいから少しだけですよ。 ファーストキスは…… 実は…で、私の…から不意…だったり……す」
「きゃああっ、結構大胆なんですね。 流石はライリ先輩!」
年頃の女子らしくキャアキャアとガールズトークに花が咲いてやがる。
ライリの声が小さくて良く聞き取れねぇんだが、ファーストキスとかの話をしてやがるぞ。
相手は俺なんだよな? したのか俺!
もうサッパリ分からねぇ…… 終いには子供とかいたりしねぇだろうな。
「んんっ、クレア。 公衆の面前で何を恥ずかしい話をしているのですか。 初対面だと言うのに数々の無礼をお許し下さい。 出来れば今日の我らの事は内密に願います」
業を煮やしたアニスがクレアを諌めにやって来たんだが、バツが悪そうだぜ。
「アニス様、スイートルームを見せて下さるそうなのです。 一緒に見にいきませんか?」
「結構です。 少し頭が痛いので私は先に王宮へと戻りますから、貴女はくれぐれも失礼の無いようにするのですよ」
「ああ、帰りは外に出る用事もあるし責任持って送って行くから心配しないでくれ」
これ以上心配掛けたら倒れそうだしな。
深い溜め息を吐きながら去って行くアニス。
どうやらクレアは彼女にとって文字通り頭の痛い存在らしい。
嬉しくて堪らない様子のクレアを連れた俺達は彼女が夢見ているスイートルームに案内してやった。
ちょうど外は暗くなっていたから窓辺からは話の通りに夜景が綺麗に見えている。
「うわぁ、凄いお部屋…… 寝室が二つあるのね。 まぁ、お風呂からも夜景が見えるなんて…… 愛する方と二人っきりで一緒に眺めたりとか…… きゃあ! 私ったら恥ずかしいですわ」
アッチに行ったりコッチに来たりと忙しい奴だぜ。
それにしても随分とテンションが高いな。
泊まっていったらどうだ? 何て言ったら即答で泊まって行きそうだぜ。
そんなクレアを見てライリは何かを考えているみたいだが、一体何なんだろうか?
そして何やら決心したかの様に口を開くと信じられない話を始めたのだった。
「ご主人様、クレアさん。 黙って私の話を聞いて貰えますか? 信じられないかとは思いますが…… 私は23年程後の未来の世界からご主人様を救いにやって来たのです」
未来の世界だと! そんな馬鹿な話があるのかよ…… だけどそれなら俺の記憶に無い話なのは理解がつくが、ライリに婚約指輪を渡したのはアイツが9歳の時だと言ってたよな…… ライリの話が本当なら23年後だとすれば俺は39歳って事になるぞ。
未来の俺はどれだけ年の離れた女と結婚しようとしていたんだよ。
それって…… 俗に言うロリコンって奴か!
大丈夫なのか将来の俺?