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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第三章 大剣使いの冒険者と不思議な侍女ライリ
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第4話 料理の道は厳しいらしい

9歳の幼女に婚約指輪を渡したと知った俺は、その時の事を思い出そうとしたが全く思い出せずにいた。

そして出した結論は諦める事だ。

だって覚えが全くねぇんだから仕方ねぇだろ。


「ご主人様、そろそろ夕食の時間ですから参りませんか? 今日のディナーはフィリックさんが腕によりをかけて料理を作ると言っていましたから楽しみですね」


どうやらライリに自分の作った自慢の料理を食べて貰いたいらしい。

料理人魂が呼び起こされたみてぇだな。


「ああ、だったら行くとするか。 それにしてもライリはずっとメイド服なのか?」


ディナーの時くらいは他の服でもいいと思うが……


「うふふっ、実は他の服を持っていないのです。 着の身着のままの状態で、ご主人様に会うためにやって来たのですから」


いや、そこは笑う所じゃねぇだろう。

着替えも持ってねぇって事か…… こりゃあ、俺が何とかしてらなきゃならねぇな。

下着の替えだっているだろうが、やっぱり俺のパンツじゃダメだよな?


「飯を食ったら下着の替えなんかもいるだろうから、町に出てみるか? 都会だからまだやってる店もあるしな」


俺の故郷の村じゃ、日が暮れたら店仕舞いって言うのが当たり前だったから王都に来た当初は驚いたもんだぜ。


「ありがとうございます! 実は夜の内に洗って朝までに乾くか心配していたのです」


その間はバスローブ一枚とかで過ごすつもりだったのか…… 思わず想像しちまったじゃねぇか。

恥ずかしそうに話してくれたが、困っているなら言ってくれりゃあいいのにな。


「ライリには色々と世話になっているからな。 今はこれだけしか持ち合わせはねぇんだが、財布をお前に預けておくよ。 必要な物があるなら買って構わねぇからな。 俺はお前の主人らしいからよ。 あっ!」


背負い袋に入れておいた革袋の財布を取り出すとライリに手渡した後に、やっちまったと慌てて手で口を押さえる。

またお前って言っちまったよ……

怒られるかと思ってチラッとライリを見たが、何やら嬉しそうに財布を抱き締めていて、どうやら気付いてないらしい。

俺の全財産を渡したんだからな。

それだけ信頼している事を分かってくれたんだろうぜ。


「さぁ、行こうぜ。 フィリックの料理の腕も気になるしな」


「はい! ご主人様」


嬉しそうなライリと一緒に食堂って言うか…… 完全にレストランみたいな高級感のある部屋に足を運んだ俺達の姿に気付いてフィリックがやって来る。


「お待ちしていましたよ。 さぁさぁ、此方へどうぞ。 私の料理の腕を出し切った料理です。 どうか味わってみて下さい!」


フィリックの奴は見た目は顔色の悪い死体みたいな青白い中年男性なんだが、今は顔を紅潮させてヤケに張り切っている。

急かされるようにテーブルに着いた俺達は勧められるまま料理を口にする。


「こりゃあ、美味いな! ライリの料理と甲乙付けがたいぜ。 ライリはどう思う?」


「……どれも大変美味しいです。 惜しいのは沢山の料理を作るあまりに僅かですが、スープの灰汁取りを疎かにしませんでしたか? それが素材の持つ本来の味を殺してしまっています。 それ以外は完璧だと思います」


そうなのか? 俺には全く分からんがな。

ライリに指摘されて驚愕の表情を浮かべるフィリック。


「確かに…… 指摘の通りです。 これくらいなら大丈夫だろうと妥協してしまったのは確かです。 やはり私の見立てに狂いは無かったと言う事になりますね。 ライリ様は素晴らしい」


どうやら心当たりがあるらしい。

美味い物は美味いんだが…… 料理の世界は厳しいんだな。

ライリもお世話抜きで本気で答えているのはフィリックのためを思っての事だろうよ。


「アニス様! あのテーブルの料理は特別料理だそうですわ。 あぁ…… この料理でこんなにも美味しいのに特別料理だなんて…… どれくらい美味しいのかしら」


少し離れたテーブルから少女の声が聞こえて来たが、どうやらなかりの食いしん坊らしい。

見た感じライリより年下じゃねぇかな。

だが将来は美人になる事は間違いなしの整った顔をしてやがる。

一緒にいるのは様を付けて呼んでたくらいかだから祖母って訳じゃなさそうだが、二人の年は離れていた。

上品な初老の女性の方は黒髪に白髪がチラホラと見える。


「はしたないですよ。 口元の涎を拭きなさい。 王宮付きの侍女とも在ろう者には相応しくない行いです」


おいおい、王宮付きの侍女とか流石に高級旅館だけあって随分と凄い客層だぜ。

王宮務めとかは、ある程度身分の高い信頼の置ける者しか許されないと聞いた事があるからな。

その少女はアニスと言う上司らしい女性に注意されながらも相変わらず俺達の食べている料理が気になって仕方がないらしい。


「おーい。 そんなに気になるならコッチに来て食ってみるか?」


俺は落ち着かない様子の少女に声を掛けてやる。

するとスクッと立ち上がったかと思うとアニスが止める間も無く凄い勢いで俺達のテーブルにやって来やがった。

ライリも驚いた顔をしてやがるが、その意味は違うらしい。


「クレアさんなのですか?」


信じられないものを見たかのようなライリ。

名前を知ってると言う事はライリの知り合いか?

それにしても何か様子が変だぜ、まるで幽霊でも見たかのようだからな。




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