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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第三章 大剣使いの冒険者と不思議な侍女ライリ
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第3話 恥ずか死ぬ!

「この部屋が当館の自慢のスイートルームです。 流石にこの部屋を毎日お使い頂くと言う訳には行きませんが、本日はこの部屋をお使い下さい。 ライリさん達に出会った記念とでも思って頂けたら宜しいかと思います。 では私はこれで失礼しますので、後はお二人でゆっくりとお楽しみ下さい。 イーヒッヒッヒ……」


うっ、その笑い方は何だよ。

それにしても気色悪い笑い方だな。

変な笑い声を部屋に響かせたフィリックが消えると俺達は二人っきりになった。

正直な話、いきなりスイートルームに泊まれるとは思ってもみなかったぜ。

ライリの奴を見ると何やら嬉しそうな顔をして部屋と俺を交互に見てやがる。


「この部屋から見る夜景はとても綺麗なんですよ。 特にお風呂から眺める王宮は美しいって思える程に素敵なんです」


まるで泊まった事があるみたいだが…… 本当に不思議な奴だな。


「ご主人様は主寝室をお使い下さいませ。 私は隣の寝室を使うので御用があれば何なりとお呼び下さい。 ……それとも一緒の部屋が宜しいですか?」


顔を赤らめながらとんでもない事を口にしやがったぞ。


「いやいや、別にしてくれよ。 俺達はまだ出会ったばかりだぜ! いきなりそんなのは……」


畜生! 参ったな…… 俺はきっと赤い顔をしてるんだろうぜ。

恥ずかしくてライリの方を向けねぇよ。

今まで俺には女っ気とかは全く無かったからな。

故郷じゃ子供の頃に悪さし過ぎて大抵の女共に嫌われてたしよ。

ライリの奴が俺を見てクスクス笑ってやがる。


「冗談です。 でも…… いつかその気になったら私は構いませんよ」


それも冗談なんだろうか?

戸惑う俺を余所にライリの奴は真面目な顔をしていた。

何か思い詰めたような顔だ。

きっと深い事情があるのかもな…… いきなり聞くのは失礼だろうか? まぁ、その内にアイツの方から話してくれるだろうよ。

時間はたっぷりとあるんだからな。


「もしもお前と会わなかったら今頃は他の町に向かってたかも知れねぇな。 王都で騒動なんか起こしたら、多分ここには居られねえしよ」


窓辺に立った俺は遠くに見える王宮を眺めながら自虐的に呟いた。

ほとぼりが冷めるまでは地方の貴族領にでも行くしかなかったろうな。

行くなら暖かい南がいいかも知れねぇな…… 例えば……


「パープルトン侯爵領辺りにでも向かうつもりだったのでしょうか?」


またか…… なんで俺の考えが分かるんだよ。

領主もまともらしく比較的に平和な住み易い町らしいからな。

流石に名前までは知らねぇけど、確か美人の一人娘がいるとか噂話に聞いた事がある。


「まぁ、その辺りだな。 やっぱり凄えなお前」


俺の事は何でもお見通しって事か。


「ご主人様のライリですから。 それとお前では無く、必ずライリとお呼び下さい。 分かりましたか?」


その言葉を聞いて慌てて俺はライリから目を逸らす。

目は笑ってるんだが雰囲気は怒ってるみたいな感じは何なんだ?

恐怖すら感じるんだが…… 冷や汗まで流すくらいによ。

この俺が女如きを怖いなんて思うだと? そんな馬鹿な事はねぇだろうよ。

この俺がだぜ? 気のせいだと思って再びライリを見たんだが…… やっぱり怖えよ!


「あ、ああ…… 分かったよ。 全く本当に俺の調子を狂わせる奴だな」


「ライリです」


うっ、奴もダメなのか?


「ライリです!」


何やらライリの背後に怒りのオーラみたいのが見えるのはやっぱり俺の気のせいじゃねぇ!


「わ、分かったよ……ライリ」


「はい、ご主人様! 素直で結構です」


観念した俺が名前を呼ぶと心の底から嬉しそうな顔をしやがったが、名前を呼ばれる事がそんなにも嬉しいのかね?

それにしても笑顔なんか見てると本当に可愛らしい奴だよな。

自分を慕う可愛らしいメイドにご奉仕されるとか世の男からしたら羨ましい限りだろうよ。

だが何で会ったばかりの俺をご主人様とか呼んで慕ってくれるんだろうか?

本当に分からねぇ……


「んっ! ライリ…… その左手の薬指にはめている指輪は結婚指輪か?」


おいおい、可愛らしい女性が仕えてくれると思ったら既婚者かよ…… 期待した俺が馬鹿だったと言う事か?


「これは婚約指輪です。 私の心の支えでもありました。 それは今でも変わりません」


何だ婚約指輪か…… って、あんまり変わらねぇよ。

他の男がいるのに何で俺と一緒にいるんだ?


「そんな物をくれる奴がいるのに何で俺なんかと一緒にいるんだよ。 その男にでも命令されたのか?」


一瞬きょとんとした顔をしたライリがクスッと笑う。


「そうでした。 ご主人様と一緒にいるからつい忘れていました。 この婚約指輪は…… ご主人様、貴方から頂いた物なのです」


おいおい、人違いじゃねぇのか?

俺はライリに会った事も無ければ、婚約指輪なんか渡した事もねぇんだぞ。

もしかしたら子供の頃にでも何処かで拾った指輪をあげたりしたんだろうか?

本当に俺が忘れているだけとかか?


「その俺はライリが何歳の時に婚約指輪を渡したんだ?」


「ええっと…… 10歳の誕生日の少し前でしたから9歳の時です」


9歳だと! ライリが今15歳だと言ってたから6年間か…… すると俺は10歳だな。

全く記憶にねぇ!

そもそも9歳の幼女に指輪を渡すとかありえねぇよな。

まぁ、逆に良かったか…… 大人の俺が幼女に婚約指輪を渡すなんて考えただけでも恥ずかしくて死にそうだからな。


「そうか…… その時に俺はライリに何か言ったりしたか?」


全く記憶にねぇからな。


「はい。 忘れる筈もありません。 "ああ、良く似合ってるぜ。 もっと早くにやれれば良かったんだが、済まなかった"と言って下さりました」


は、恥ずか死ぬだろ!

9歳の幼女にもっと早くにやれば良かったとか、俺はどれだけ青田買いをしてたんだよ……

ダメだ…… もう自分が信じられねぇ。




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