第1話 夢いっぱいの16歳?
「何だと…… 話が違うじゃねぇか! 自由自在に振り回す事が出来たら俺にタダでくれると言ったよな? いざとなったら手の平を返すとはどう言う事だよ!」
王都でも一番だと名高い武具屋アルマの店先で俺は店主のラック・ストラトスの胸元を掴んで締め上げていた。
畜生…… 大人って奴は汚ねぇぜ。
辺境の村を飛び出して来た夢いっぱいの16歳の少年を相手に、どうせ無理だろうからと適当な事を言いやがったのか?
頭に来たぜ! こうなったら…… あの大剣は絶対に俺が手に入れてやるからな。
「ひっ、ひぃいい! 何をしているんですか貴方達。 何とかしなさい!」
俺の勢いに完全に怯えきったラックの奴が店の奥にいた用心棒を呼びやがったぜ。
ワラワラと五人の男達が現れたが、負ける気がしねぇ!
「上等だ! まとめて相手にしてやるぜ」
俺はラックの胸元を掴んでいた手を離すと奴らを迎え撃つ態勢を取る。
「待って下さい! 確かに昔聞いた事はありましたけど…… こう言う事だったのですね」
そんな俺達の動きを制止したのは聞いた事も無い女の声だ。
そして集まった野次馬達をかき分けて現れた声の主はメイド服を来た一人の美少女だった。
しかも昔聞いたとか何やら訳の分からねぇ事を言ってやがるぜ。
年の頃は15〜16か、綺麗なプラチナブロンドに吸い込まれそうな黒い瞳が印象的で、早い話が可愛らしい感じの美少女だ。
少し褐色の肌なのは南方の生まれかもな。
スタスタと俺の方へと歩み寄る彼女の頭上ではポニーテールが左右に揺れていた。
「邪魔するんじゃねぇよ! 何なんだよ、お前は?」
勢いを削がれちまった俺は気持ちを奮い立たせるため、ソイツを睨みつける。
だが俺の睨みに全く怯む事も無いソイツは、地面に転がったままのラックの腕を引いて自分の目の前へと座らせると優しげな笑みを浮かべる。
突然の出来事に用心棒達も困惑気味だぜ。
「ラックさん。 約束したならば彼に大剣を差し上げるのが筋と言うものですよ。 それに考えてみて下さい。 あの巨大な大剣を軽々と振り回すのですから将来は有名な冒険者になるのは間違い無いでしょう。 貴方はその時に大剣使いなど呼ばれた彼に大剣を譲り渡したのは自分だと自慢出来る機会を得たのですよ。 お店の評判も上がるのは間違いありません! 言わば英雄の父と呼ばれる栄誉を得たのですから」
おいおい、俺はあんな父親はいらねぇんだけどよ…… それにしても良くあんなに思い付くもんだな。
ラックに向かって自信あり気に語った美少女を皆がただ黙って見つめていた。
この場にいる全員が彼女に飲まれちまったと言う所だろうよ。
「私が英雄の父…… これは栄誉ですと……」
ブツブツと何やら呟いていたラックの奴がニンマリと気持ちの悪い笑みを浮かべて俺を見てやがる。
鳥肌が立ちそうだぜ。
「もう大丈夫ですよ。 全て私にお任せ下さいませ」
俺に向けてパチッとウインクしてみせる美少女。
一体誰なんだよ…… コイツは。
突然現れた美少女に俺は戸惑いを隠せないでいた。
「分かりました! その大剣は約束通りにお持ち帰り下さい。 その代わり…… 是非活躍してくれる事を期待していますよ」
うおっ、コイツただ者じゃねぇよ。
あのライバル店には非情で容赦はしねぇと有名なラックの奴を完全にその気にさせてタダで大剣を譲り渡させやがったぜ。
「お、おぅ…… 期待してくれよ!」
なんか調子が狂うな。
チラッと横目で彼女を見ると俺の視線に気付いて微笑み返して来やがった。
俺はどこかでコイツと会った事でもあったんだろうか?
手に入れた大剣を背負いながら通りを歩く俺の横をニコニコしながら当たり前のように付いて来るしよ。
「お前は一体誰なんだよ? 何で俺に付いて来るんだ!」
「私の名前はライリと言います。 歳は15歳と言う事で…… 見ての通り侍女組合に所属する侍女です。 貴方に仕えるためにやって参りました」
な、何だと! 駆け出しの冒険者に侍女が仕えるとか聞いた事もねぇぞ。
15歳と言う事でって言うのも何なんだよ。
それにしても…… まるで最初から決まっていたかのように言ってやがるな。
本当にライリとか言う美少女は一体何者なんだ?
ここから第三章が始まります。
突然現れた美少女に戸惑う16歳の彼と、彼が好きで堪らない15歳のライリ。
二人の恋の行方はどうなるのでしょう。
果たして彼の魂の記憶は戻るのか?
拙い物語ですが、楽しんで貰えたら幸いです。
7万PVを超えました。
本当にありがとうございます。