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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第二章 小さな冒険者と美しき侍女ライリ
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第25話 アンナの戦い方

「何でも小さな子供が狙われたらしいぜ。 しっかり戸締まりしてあっても拐われたって言うんだから厄介だよな」


「まだ相手の正体も分からないんだろ? 怖いねぇ」


夕食の途中で俺の耳に入って来たのは物騒な噂話だった。


「アンナ、一体何だと思う? 冒険者ギルドには届いてなかった事件だよな」


小さな子供を拐うって言うのがな…… 身代金目当ての誘拐か、はたまた妖魔の仕業か。


「そうね、話だけ聞いてると単なる誘拐事件かも知れないけど、身代金の要求が無いのなら妖魔の仕業かも知れないわね。 アイツら柔らかい子供の肉を好むから」


おっかねぇ話だぜ。

俺は思わず口にフォークで運ぼうとしていた肉を皿に戻す。

状況が分からないんじゃ、どうしようもねぇよな。


「結局、私達には関係の無い話よ。 別の依頼を受けてるんだもの」


そう言いながら見た目でレアっぽい肉を口に運ぶアンナ。

お前は完全に肉食系女子だよな。


「まぁ、そうなんだけどよ。 身内が拐われでもしたら堪らないからな。 俺達の身の回りで子供と言ったらユナくらいか。 流石に子爵令嬢の屋敷は押し入らねぇと思うがよ」


何やらアンナが言いたそうにしてるが……


「俺は子供には入らないからな!」


中身は中年男性なんだからよ。


「うん、そうなんだけど…… 見た目は可愛らしい子供なのよね。 その整った容姿は私のお陰なんだから感謝なさい」


感謝しろって言われてもな。

それにしても俺の血筋は一体何処に行っちまったのかね?

影も形もねぇぞ…… 確か男の子は母親に似るって言うしな。

そう考えたら女の子じゃなくて良かったぜ。

一歩間違えたら俺似の女の子もあり得たんじゃねぇか? そりゃあ…… 恨まれそうだし勘弁だな。

もしかしたら女の子もアンナ似になったかもしれねぇか。

その場合…… 俺は女の子として暮らさなきゃならなかったのか…… 考えただけで恐ろしいぜ。


「飯も食ったし、俺は風呂に入るとするぜ。 アンナは二回も入るって言うんだから本当に綺麗好きだよな」


夕食まで時間があるって知ったら、風呂の話しかしなかったからな。


「そりゃあ…… ね。 好きな人の前ではいつだって綺麗でいたいものなのよ」


頬を赤らめて両手で抑えてやがるが…… 血統的には間違い無く俺達は親子なんだからな!

部屋に戻った俺達は風呂の用意をして大浴場へと向かった。

先に入ったアンナの話じゃ露天風呂があるらしい。

この間ユナと来た時には風呂に入る間も無いままトンボ帰りだったからよ。


「じゃあ、また後でな。 どうせ長いんだろうから俺は先に部屋に戻ってるぜ」


さっきも飯の時間ギリギリまで入ってやがったからな。

頭を乾かす時間とかで結局夕食も遅くなったしよ。


「もう…… そこは出口で待ってるものよ」


そんなもんかね?


「気が向いたらな!」


俺の返事にアンナの顔がみるみる曇る。

そんなに残念そうな顔をするなよ、仕方ねぇな…… 先に出たら待っててやるとするか。


「おぉ、中々良さげじゃねぇか!」


岩風呂がいい味だしてるぜ。

俺は素っ裸になると風呂に飛び込む。

ちょうど誰も入ってないから貸し切り状態だしな。


「飯も美味かったし、風呂も最高とくれば言う事はねぇぜ。 これで後は酒と女があれば…… って言いたいが今の俺は飲めねぇしなぁ……」


女って言っても、いるのはアンナだしな…… どうにも出来ねぇよ。


「あらあら…… まだ小さいのに女が好きなんてイケナイ子ね。 だったら私とイイ事しましょう」


岩陰から聞こえる女の声。

何だ何だ! この宿屋は素晴らしいそんなサービスがあるのか?

だが…… そんな俺のスケベ心はあえなく砕かれる事になる。

岩陰から姿を現したのは、確かに美人に間違いなかったよ。

下半身が蛇じゃ無ければな!


「ラ、ラミアか!」


おいおい、これは絶体絶命の大ピンチだぞ!

子供を拐うって言うのはコイツだろ。

昔倒した事はある相手だが今回はちょいと厳しいぜ。

どう考えても俺一人じゃ無理がある。


「アンナ! ラミアだ、ラミアが出た!」


死んだらもう復活は出来そうもねぇからな。

一人じゃ無理ならアンナを頼るしかねぇ!

アイツは俺の相棒だ。


「ふふっ、助けなんか呼んでも無駄よ。 この私が人間如きに負ける訳無いじゃない。 いいわ、仲良く天国に逝かせてあげるわ」


や、やべえ……


「冗談じゃないわよ!」


怒りのこもった声と同時に男湯と女湯を隔てていた板塀が吹き飛びやがった。

そして姿を現したのは片足を蹴り上げた格好のアンナだった。

今回は大事な所が丸見えだぜ……


「な、何よ…… この人間!」


あまりの勢いにラミアも押され気味だ。


「二度と…… もう二度と奪われる訳にはいかないのよ! 私の…… 私の男に手を出すな!」


一気にラミアへと突っ込むと左手の手刀を顔面に突き立てる。

左手をパタに見立てた戦い方か。


「くっ、何なのよ! この女!」


ラミアも何とかアンナの猛攻を避けて迎撃態勢を取る。

全裸のアンナと上半身裸のラミア。

何だか凄え戦いだ…… って、場合じゃねぇ!


「アンナ! 俺も手を貸すぜ!」


対峙する二人の横に走り寄る俺。


「ラミア相手に男は邪魔よ! ここは私に任せなさい!」


確かに以前に戦った時も邪眼だか魔眼だかの誘惑に苦しめられたんだよな。

素早く動きラミアを翻弄するアンナ。

だが風呂場って言う足場の悪い場所が仇になっちまった。


「ほぉら…… 捕まえた! 少しずつ骨を砕いてあげるわ。 女の生き血は好きじゃないんだけど我慢してあげる。 その後は…… 君の番よ」


赤い舌で唇を舐めながら余裕の笑みを浮かべるラミア。

一方のアンナはラミアの尾で身体を絡め取られた苦しそうに呻く。

ヤバイだろ! クソッ、もう躊躇ってる場合じゃねぇ!

慌てて駆け寄った俺が目にしたのはラミアの両眼に手刀を突き刺すアンナの姿だった。


「ギャアアア!」


「ほぉら、もう何も見えないでしょ? 少しずつ殺してあげるわ。 最愛の男の前で冷酷な姿は見せたくはないんだけど我慢してあげる」


両眼を抑えて呻くラミア。

巻き付かれた尾から脱したアンナがラミアの背後に回ると左腕を首に絡ませて捻り上げて行く。

美しい長い脚でくびれた腰を挟み込む事で更にラミアを苦しめる。


「苦しい? 人の男に手を出すからよ。 さぁ、そろそろ逝きたい? ふふふっ、まだダ〜メ」


「グッ、ガァガッ……」


凄まじい戦いだぜ……

そんな戦いも長かったのか短かったのか、俺はただ呆然と眺めるだけだった。

やがて痙攣しながら動かなくなったラミアを更に捻り上げるアンナ。

念には念をって所か…… 完全に首が後ろを向いた事を確認すると漸く身体を離す。

そして深く深呼吸すると俺へと振り返る。


「ふふっ、もう大丈夫よ。 こっちにいらっしゃい。 今度は君の番よ」


俺を見てニヤリとするアンナ。

手や頬が血塗れじゃねぇか…… アレってラミアの血か? おいおい、立場が逆だろ?

冗談になってねぇよ! 全く笑えねぇから!

やっぱり…… アンナを怒らせちゃいけねぇと俺は思い知らされたよ。

もう…… 家に帰りたくなって来たぜ。




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