第23話 10年越しの嫌がらせ
「では…… ここに戦いの開始を宣言する。 両者準備は良いな? では始め!」
戦いの開始を告げたランス国王陛下の言葉が終わるか終わらないかのタイミングでシャルロットへと突っ込んだ俺は滑り込みながら奴の足を連続で薙ぐ。
「ち、ちょっと卑怯だわ! 待ちなさい!」
ラースフィアを地面に突き立てて飛び上がりながら避けたシャルロットに下から小剣を伸ばす。
槍を掴みながら上空へと飛び上がり俺の追撃を避けるとはな。
お前もこの10年で出来るようになったって事か!
「もう10年待ったんだ…… これ以上待つかよ!」
着地する場所は分かってるんだ、逃さねぇ!
地面を蹴ってシャルロットが踏み締めるだろう場所は…… そこだ!
「な、何だと!」
着地予想地点は間違ってなかったが、その場所に槍の柄を立てて再び跳び上がると離れた場所に着地するシャルロット。
「ふっ、中々やるじゃない! 坊や」
きっと言うと思ってたぜ。
「俺がやるんじゃなくて、お前がやれてねぇんだよ!」
どうだ! 10年振りに聞いた気分は?
「お、親子二代に渡っての侮辱…… もう許せませんわ!」
10年越しの嫌がらせだからな。
流石に本気で怒ったみてぇだぜ、真っ赤になってやがる。
「本気で行かせて貰いますわ、イヤァーッ!」
シャルロットが攻勢に転じてラースフィアを構えて突っ込んで来やがった。
俺はフギンとムニンを構えて向かえ撃つ。
結構鋭いが、この数回の刺突はフェイントだろう?
絶対に決めの一撃が来る筈だ。
低い体勢で槍を避けながら、その瞬間を待つ。
「貰いましたわ!」
俺が足を止めたと思ったら大間違いだ!
誘ったんだよ、この瞬間をな……
「食いやがれ!」
シャルロットが放つ渾身の一撃をフギンで跳ね上げて回転ざまにムニンを叩き込む。
これで決まると思いきや、ラースフィアを回転させてムニンを受け止めやがった。
「甘いわ! 坊や!」
なら…… これはどうだ!
「甘いのはお前だ、シャルロット! カイルが草場の影で泣いてやがるぞ!」
更に身体を捻りフギンを叩き込んでやる!
「な、何で?」
カイルの名前に一瞬動きが遅れやがったな。
それがお前の敗因だ!
受け止めようとしたラースフィアは俺のフギンの速度には追いつかずシャルロットの首筋で停止する。
「わ、私が負ける?」
動揺したシャルロットを蹴り飛ばして地面にひれ伏させる俺。
「カイルと俺の戦いを見ていたなら分かるだろうよ。 シャルロット、お前は俺達には遠く及ばねぇ! アイツの幻を追いかけているようじゃ、一生アイツには勝てねぇぜ」
シャルロットとの戦いの最中に何度か見え隠れしたカイルの影。
アイツみたいになりたいって思ったんだろうが、それじゃ俺には勝てねぇんだよ。
俺が誰よりも知ってる戦い方だからな。
「くっ、私の負けですわ……」
流石に殺せ! とかは言わねぇか。
「勝負あり! 勝者…… アンノウン伯爵!」
国王陛下の勝ち名乗りに闘技場が騒めく。
ライリが口にしてはいたが、聞いた事も無い家名だろうからな。
伯爵位は世襲制らしいからな、生前の俺が伯爵なら息子も伯爵だろうよ。
「旦那様! おめでとうございます!」
「ユナは信じていましたわ!」
嬉しさの余り飛び付いて来た侍女達に押し倒された俺は勝利を実感する。
「おぅ、どうだったよ? お前達の英雄の戦いっぷりは! 惚れ直したか?」
「勿論です!」
「勿論ですの!」
喜び合う俺達三人をいつの間にか闘技場に集まった奴らが拍手で祝ってくれていた。
それは割れんばかりの拍手だったんだ。
命懸けで勝ち取った見事な勝利は俺一人で得たもんじゃねぇ。
勿論、俺達三人で勝ち取った勝利だ。
「で、何で伯爵位を断わったのよ! 一生遊んでくらせたんじゃない?」
朱雀館に戻った俺は当然の如くアンナから文句を言われていた。
ヴィッチとマリンは俺を婿養子にでもしたいのか、特に何も思ってねぇみたいだった。
まぁ、ライリとユナもだけどな。
特にユナは上機嫌だった。
「俺は自分の力で大切だと思う奴を幸せにしてやりてぇんだよ。 その思いは死んでも変わらねぇ。 10歳で冒険者になれたんだ。 良しとしようぜ。 それに俺とユナは特例で成人したと認められたんだからな」
その昔に子爵位をヴィッチのために断わったが、今度はユナのために伯爵位を蹴ったなんて歴史は繰り返すって所か?
それに生前に一度は伯爵位を引き受けたが、やっぱり俺は伯爵って柄じゃねぇからな。
国王陛下からどうしてもって言われて準男爵位は貰っておいたが、俺一代で領地も無く身分は平民のままとか言う悲しい待遇だろ?
まぁ、これで気軽に王宮に入れるらしい。
俺にはお似合いだろうよ。
それにしても…… あの国王陛下はメイドには甘いって言うのは良く分かったぜ。
ライリとユナを見て蕩けそうな笑顔だったからな。
「どうして私と結婚出来るようにしてくれなかったのよ……」
アンナがそう呟いていたが俺は聞こえない振りをしておいた。
親子でそれは流石にマズイだろ?
済まねぇなアンナ……
なるべく親孝行するから許してくれ!
そう思っていた俺はアンナが心に秘めている思いの強さを帰宅してから思い知る事になる。




