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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第二章 小さな冒険者と美しき侍女ライリ
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第17話 俺を基準にしないでくれ

明日にランス国王との約束の日を控えた俺は朱雀館の庭先を借りて軽く稽古していた。

今更ジタバタしても遅いからな。

それでも毎日こうやって稽古をするのは身体に小剣の感触を馴染ませるためだ。

その俺をライリが真剣な眼差しで見つめているが、稽古が終われば二人っきりの甘いイチャイチャパラダイスが待っているからな。

だが…… そんな二人っきりの時間は呆気なく終わりを告げた。

それは奴が現れたからだ。


「あ、いたいた。 来てあげたわよ。 この勝利の女神アンナ様に感謝なさい!」


遠くからデカイ声をあげながら俺に向けてブンブンと手を振ってみせるアンナ。

おいおい、完全に学校の参観日にやって来た恥ずかしい母親みてぇだぞ。

ライリを見ればショックのあまりに硬直してやがるな。

無理もねぇか…… 朝から枕元で"今夜もたっぷりと可愛がってやるからな"と言う俺の言葉に恥ずかしそうにしながらも期待に満ちた目をしてたからな…… 済まねぇが、あの約束は無しだ。


「何だよ、いきなり来やがって! 驚いちまったじゃねぇかよ。 なぁ、ライリ?」


俺の呼び掛けにハッ!っと我に返った様子のライリ。


「遠い所をお疲れ様でしたアンナ様。 勝利の…… と言う事は決闘の事は既に知っているのでしょうか?」


どうやら心の整理はついたらしいが、流石だぜ。

ランス国王の事だから各地の貴族にも声を掛けていたんだろうよ。

そうなるとヴィッチの所にも書状が行っている筈だから、ヴィッチに聞いたって事か。


「ええ、ヴィッチさんから聞いたわ。 アンタがあの子と戦うなんてね。 私はどっちを応援すれば良いのか迷っちゃうわ……」


おいおい、何で迷うんだよ…… 俺の勝利の女神じゃ無かったのかよ。

それにあの子って誰だ?


「アンナは俺の戦う相手を知ってるのか?」


俺の言葉に驚いた表情を浮かべるアンナ。


「何言ってるのよ! 相手すら知らないで戦いに望むつもりだったの? 呆れたわ…… 相手はアナタも知ってるシャルロットちゃんよ」


ちょっと待て! シャルロットってザクセン公爵の令嬢だった女騎士だよな。

ライルを看取ってくれた恩のある奴でもあるがよ……


「あの少女が王国最強の騎士とは一体どうなってやがる。 確かに名槍ラースフィアを手に入れた後に強くなってみせると言ってやがったが…… だとしても成長し過ぎだろうが!」


アンナとの勝負に完敗した後は、怖いくらいにアイツに惚れ込んでアンナお姉様とか呼んでたよな。

俺が死んだ後に交流とかあったんだろうか?


「強敵かも知れないわよ。 まぁ、精々頑張る事ね」


さっきから勝利の女神っぽくねぇ事しか口にしてねえぞ。


「「旦那様ぁ〜!」」


溜め息を吐いていた俺の耳に旦那様と叫びながら朱雀館の中を走り回っている奴らの声が聞こえて来る。

どうやら俺をさがしているらしい。

何やら綺麗にハモってはいるが、たまに"キーッ! 邪魔よ!"とか"貴女こそ邪魔であります!"とか聞こえて来るって事は一人はマリンに間違い無いとして、もう一人は…… 間違いねぇ、ユナだな。

アイツまで王都に来ちまったのかよ。


「ハァ、ハァ…… 漸く見つけましたわ! ユナの愛しい旦那様!」


「ハァ、ハァ、ハァ…… 貴女なんかに渡すものですか! あれは私の旦那様であります!」


何なんだよコイツら。

息が荒いのはマリンの方って…… 幼女に負けるなよな。

それよりもマリンの奴は子持ちの人妻だろうが、まだ俺を旦那だと思ってやがるのか?


「旦那様! 私との結婚を急ぐあまり、王国最強の騎士と決闘なさると母上から聞いてユナは居ても立っても居られず駆け付けて来ました!」


おいおい、悪いがお前との結婚を急いで決闘する訳じゃねえぞ。

早く冒険者になるためだけだからな。

ユナは俺が早く冒険者になりたいのは、一刻も早く稼げるようになって自分を迎えに来るためだと思ってるんだろうよ。

またヴィッチが心配して泣くぞ。


「私も旦那様が心配で領地で行なわれる筈だった大切な会議を蹴って駆け付けたであります!」


マリンの奴が褒めて貰おうと頭を下げて俺に向けて来るんだが…… これは間違いなく撫ぜろって事だよな。

それにしても領主として大切な会議をすっぽかすなよ。

まぁ、だが相変わらず真っ直ぐな奴で安心したぜって、良くないだろ!


「マリン、お前は旦那も子供もいる身だよな? そんな奴が俺を旦那様と呼んでいいのかよ?」


俺の問い掛けに不思議そうな顔をするマリン。


「旦那様だって複数の女性と結婚しようとしていたであります。 別に変では無いかと?」


何てこった…… コイツの常識は俺を基準にしてやがる。

確かに男だけが沢山の女をはべらすって言うのも変な話だよな。

女が沢山の男を…… って言うのは俺は嫌だ。


「それにあの男とは跡継ぎを儲けるために父に無理矢理結婚させられただけで…… あの男だって私の事を愛してなんか……」


ちょっと複雑そうだな…… マリンの元気が一気に無くなりやがった。


「ふっ、私の初めては何もかも旦那様が既に予約済みですわ。 子持ちの人妻の貴女とは違いますの。 そんな貴女に旦那様の妻は相応しくありません」


予約した覚えは全くねぇんだがな……

何やら背後から刺すような視線を感じて振り向く俺。

ラ、ライリ…… そんな冷たい目で俺を見ないでくれ。

離れて良く聞こえはしなかったが、口の動きから補足すると"もう本気のお仕置きが必要なようですね"とか呟いてたろ。


更にユナに叩きのめされるマリンの奴を良くみれば目にいっぱいの涙を溜めてやがる。

幼女に泣かされる大人の女性か…… マリンらしいと言えばマリンらしいが。


「フランツの母上だからと今まで仲良くして来ましたが、もう貴女は敵です!」


おいおい、敵とか穏やかじゃねぇな。


「ユナ! 黙って聞いてれば言い過ぎだろ? おいっ、ちょっと待てマリン!」


ユナに文句を付けようとした途中で走り去るマリン。

前にもあったな…… こう言うの。


「ユナ! 後で本気のお仕置きをしてやるから覚えとけよ!」


慌ててマリンを追い掛ける俺。

残される形になったユナが俺の口にしたライリ譲りの"本気のお仕置き"と言う言葉に過剰に反応して座り込んでしまったのを俺は知らない。

あまりの嬉しさから失禁しちまったのを後で聞かされて驚く事になる。

まぁ、いわゆる嬉ションって奴だな…… お前は犬か!




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