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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第二章 小さな冒険者と美しき侍女ライリ
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第13話 内助の功

「起きて下さいませ、旦那様。 今日も良い朝ですよ」


「お、おぅ…… おはよう」


何やら柔らかい感触を感じながら目を覚ますと豊満な胸を惜しげもなく押し付けている裸のライリに抱き締められているんだが…… 随分と積極的になったもんだぜ。

こんな事は二人っきりの今は良いが、子爵領にある俺の家に帰ったら絶対に出来ねぇな。

愛し合う俺とライリを見るアンナが不憫でならねぇからよ。

今や愛する男が腹を痛めて産んだ息子なんだぜ? 近親相姦って奴になっちまうからな。

アンナの奴はそれでも構わないと一度は暴走しかけたが、ヴィッチのお陰で思い留まってくれてはいるけど俺達のそんな姿を見たら何を言い出すか分かったもんじゃねぇぜ。


「なぁ、ライリ。 このまま二人で王都で暮らすとか…… どう思う?」


えっ?っと言う表情で固まるライリ。

どうやら想像もしてなかったか…… ずっとあの家に皆で暮らして来たからな。


「いきなりなので正直途惑っています。 旦那様と結ばれた今となっては…… それも一つの選択肢なのかもとは…… でも私はあの家が好きです。 ご主人様や皆さんとの沢山の思い出がありますから」


敢えて旦那様では無く、ご主人様と呼ぶのは昔の俺の事だろうよ。

ライリの中では忘れられない筈だからな。


「家に帰ったら、こうして裸で抱き合うなんて出来なくなるだろうぜ?」


途端にライリの顔色が悪くなる。


「うっ…… そうかも知れません。 世間でも新婚の内は家を出て暮らして、子供が産まれてから実家で暮らすのはそう言う事だったのですね……」


ライリの脳内で色々な事が渦巻いているらしい。

まぁ、全てダダ漏れだけどな。

かなり積極的に俺に迫って来るくらいだから、それが出来無くなるなんて今のライリには我慢出来ねぇだろうよ。


「すぐにとは言わねぇ、考えてみてくれよ。 どっちにしろ、稼ぐ術のねぇ俺にはお前を養う事は出来ねぇからな……」


「その時は私が働いて旦那様を養います!」


いや、それは流石に情けねぇから勘弁な。

取り敢えず答えは保留だな。






軽く朝食を済ませた俺達は王都の街中へと向かう事にした。

まずは武具屋アルマが目的地だ。

店主のラックには相談したい事があるからな。


「もうすぐフランツ様の誕生祭ですから、何だかいつもより王都が賑やかに思えます」


そんな雰囲気にライリも何やらワクワクしているみてぇだ。


「フランツって言ったらマリンの息子だったよな。 ジーニアス伯爵家のために婿養子を迎えたと聞いたが随分と待遇が良いんだな? ランス国王には息子がいた筈じゃなかったか?」


だからこそマリンは俺なんかとの婚約を許されたと思うんだが。


「王太子には跡継ぎがおらず、フランツ様が養子として迎え入れられたのです。 その事をマリン様は喜びながらも側にいられない事を寂しく思っているようでした」


実の息子が将来は国王陛下だもんな。

嬉しいのは分かるが…… あのマリンの性格じゃ落ち込むだろうぜ。

好きな者には一直線な奴だったからよ。

まぁ、アイツも今や人妻だ。

俺があんまり関わる訳のも良くねぇだろう。

ましてや国政に関わる問題だからな。






武具屋アルマは俺が二本の大剣を手に入れた店だ。

ちなみに二本ともタダで手に入れている。

一本は俺が強引に手に入れ、もう一本はライリが交渉して譲り受けていた。

さて…… 今回はどうなるかね。


「へ〜 ここは相変わらずの賑わいだな。 さてとラックの奴はどこだ?」


辺りを見渡すが店先にはいないようだ。

キョロキョロしていた俺達を見た店員が急ぎ足でやって来る。


「お客さん! この店はその昔、侯爵領の英雄と呼ばれた伝説の男…… 大剣使いと呼ばれた彼が贔屓にしていた程の店なんですよ!」


この俺が伝説の男だとよ…… 店の宣伝とは言え随分と持ち上げてくれるぜ。

若い店員が俺の腰のブロードソードをチラッと見ているな。

どうやら売り込んで来る気だろうよ。


「将来は剣士を目指すと行った所でしょうか? 剣ならば豊富な品揃えが自慢です! 宜しかったら是非見て行って下さい!」


メイドを連れて訪れた俺を余程の上玉の客だと踏んだんだろうぜ。

どうせならラックと話をしたいんだよな。


「悪いが店主のラックはいるかい? アイツとは馴染みなんだよ。 そうだな…… 大剣使いの忘れ形見が来たと言ってくれよ」


その言葉に若い店員が顔色を変える。

一応、今の俺はお前が語る伝説の息子だからな。


「はい! すぐにお呼びして参ります!」


慌てて店の奥へと駆けて行っちまったな。

ライリと顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。


「おおっ、これはこれはライリ様! 良く来てくれました…… そうですか、彼の息子さんがこんなに大きくなりましたか……」


俺を見るラックの奴が何やら懐かしいものを見るような目をしていた。


「懐かしいのは俺も同じだぜ。 見た目は子供だか中身は俺なんだよ、ラック」


相談に乗って貰うなら本当の事を話さなきゃならねぇと俺は考えていた。

何を言っているのかとライリに視線を送るラック。

ライリが黙って頷き、それに応える。


「な、何ですと! そんな事があるとは……」


まぁ、普通なら信じられねぇだろうよ。

だが紛れもない事実なんだぜ。


「信じられないかも知れませんが、事実です。 そして今から子爵領の英雄の物語が幕を上げるのです。 その幕を上げるのはラックさん…… 貴方なのですよ」


うぉっ、既にライリがラックの奴をその気にさせるために動き出したぜ。

相変わらず上手いな。


「私が伝説の幕を上げる…… しかも復活した英雄の物語を……」


どうやら効果は抜群みてぇだ。

やっぱり…… ライリ、お前は凄ぇよ。


「その未来の英雄が窮地に陥っているのです。 彼の父も愛用したブロードソードを母から譲り受けたのですが、先日オーガとの戦いでヒビ割れてしまい、今は戦う手段を失いかけています」


両腕で自分の身体を抱き締めながら悲しげな顔をするライリ。

おいおい、随分と役者だな。


「その小さな身体でオーガと戦ったと言うのですか?」


信じられないとばかりに俺を上から下まで食い入るように見てやがる。


「ええ、それは見事な戦いでした。 商隊を襲い護衛の冒険者を苦しめたオーガを無傷で倒したのですから。 いずれ王都にもその噂は聞こえて来るでしょう。 きっと商隊の方々が各地で広めると思いますから」


「おおっ…… それは素晴らしい!」


完全にライリに乗せられてやがるぜ。

やっぱり女って奴は恐ろしいな……


「その未来の英雄を救う事が出来るのが、ラックさん…… 貴方なのです!」


ビシっと腕を伸ばしてラックを指差すライリ。

どうやら今回もライリのお陰で上手く行きそうだぜ。

何やらブツブツと呟いているラック。

私が英雄を救うとか聞こえて来るな。

ライリを振り返ると俺の視線に気付いてパチッと可愛らしくウインクして応えてくれる。

こう言うのを内助の功とか言うんだけっな? やっぱりお前は俺にとって最高の妻だぜ!




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