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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第二章 小さな冒険者と美しき侍女ライリ
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第11話 笑顔の理由

俺とライリの旅も王都まであと一息と言う所まで進んでいた。

今夜は最後の宿場町で一晩を過ごして明日には王都カラミティへと到着する筈だ。

だが俺の顔色はあまり良くない。


「ご主人様、どうなさったのですか?」


俺が深刻そうな顔をしていたらしくライリが尋ねて来る。

俺を悩ませるその原因はアンナから譲り受けたブロードソードにヒビが入っているのを見つけたからだ。

オーガの硬い首筋を力任せに何度も斬り付けて無理がかかったのだろう。


明日には王都に着くが何かに襲われた時、折れちまったら目も当てられねぇからな。

コイツもこれが寿命って事だろうよ。

王都に行ったら武具屋アルマに行ってみようとは思っているが俺には先立つ金がねぇからな。


「この剣も寿命みてぇだからよ。 新しい武器を手に入れなきゃならないが、今の俺にはあまり金が無いからな」


俺の話を聞いたライリが一緒になって剣を見つめていたが、思い出したかのように笑みを浮かべた。


「王都に着いたらあの武具屋さんを訪れてみましょう。 うふふっ、私にお任せ下さいませ」


何やら自信たっぷりにしてやがるが、前みたいに店主のラック・ストラトスをその気にさせてタダで武器を貰うつもりじゃねぇだろうな。


「お、おぅ…… 期待してるぜ」


俺は手にした革袋の財布を振って中身を確認するが、どうも心許ない気がしていた。

実はユナから彼女の小遣いだと言う金貨の入っている革袋を夫婦共有の財産だからと別れ際に渡されているのだが、それを使ったら後戻り出来なそうで使う気にはなれない。

もしもの時も考えて受け取ってはいたが、子爵領へと無事に戻ったらユナにヘンリエッタと一緒に返すつもりでいる。


ちなみにオーガを倒した俺は商隊を取り仕切る男から感謝の言葉と謝礼を受け取っていた。

それなりの金額だったが、俺はそれを冒険者達と分配しちまったからな。

戦って死んだ二人にも多分家族もいるだろう。

そいつらの事を考えると放ってはおけなかったからだ。

死んだ奴には冒険者ギルドからの報酬は払われねぇからな、俺には奴らの無念さが痛い程に分かる。

だから…… それを渡してやってくれと頼んでおいた。


「気分転換に少し散歩でもするか?」


「はい! 是非参りましょう」


俺の提案にライリは乗り気のようだ。

王都に一番近い宿場町だから結構賑やかだったりもする。


「照りつける真夏の日差しは半端ねぇな…… 散歩するにはまだ時間が早過ぎたか」


「そうですね…… 私とした事が嬉しさの余り失念していました」


俺とライリは二人して汗だくになっていた。

この俺が復活したのが8月の10歳の誕生日だから、まさしく今は夏真っ盛りと言う訳だ。

馬に乗る時もローブを頭から被っていないと日焼けが酷い事になる。

その事をライリも気にしていたから元々少し褐色の肌をしているから日焼けしても変わらねぇだろ?と口にした俺はライリの逆鱗に触れたらしく鬼の形相で怒られていた。

どうやらライリにはそれがコンプレックスになっているみたいだが、健康そうで俺は好きなんだけどな。

女って奴は真っ白い肌に憧れるのかね。


「あの木陰が涼しそうじゃねぇか? あの屋台で何か買って休もうぜ」


俺は一際大きな木を見つけ、そこで一休みする事にした。

どうやら近くに氷室があるらしく氷を細かく砕いた上に甘いシロップをかけたのが屋台で売っているのも見つけたからだ。


「うわぁ…… 冷たくて美味しいですね。 暑い夏にはぴったりです。 流石に夏には雪に閉ざされる地と言う事でしょうけど、まさか冬場の氷を保存しておけるなんて凄いです」


子爵領には氷室とかはねぇからな。

そう考えると商売になるんじゃねぇか?

帰ったらヴィッチに提案してみるか。


「そりゃ良かったな。 相変わらずライリは甘い物を食べると本当に幸せそうな顔をするよな」


昔から変わらねぇんだな。


「……恥ずかしいです。 あんまり見ないで下さいませ」


そう言って下を俯きながらも氷を口に入れる動作は止められないのがコイツの可愛らしい所だ。

俺も木陰の涼しい風に心地良さを感じながら、ライリとの穏やかな時間を楽しむのだった。






日も暮れて夕食を済ませた俺達は宿屋の大浴場で汗を流してから部屋へと戻って来る。

やっぱり俺の方が早かったらしい。

今夜も一緒に寝るんだよな…… 魅力的な大人の女性へと成長したライリと触れ合いながら寝るのにも最近は辛いものを感じている。

頭の中は中年男性だから性欲は人並みにある訳なんだが、身体は…… まだ成長してねぇからな。

昔のライリの言葉じゃねぇが、試してみるのもアリかも知れねぇ…… でもそれは俺が一人前の男になった時だとは思っていた。


「ふぅ〜 良いお湯でした。 あまりの気持ち良さに少しゆっくりし過ぎて身体が火照ってるようです」


随分と満足そうだな。


「こっちに来いよ。 窓際は風が入って来て少しは涼しいぜ」


俺が声を掛けると嬉しそうにライリがやって来て二人で窓際に並ぶ形になった。

今の俺では見上げる形になるが改めてライリは美しい女性になったなと思うに従い、こんな女を他の男が放ってはおかなかったのではと考えちまう。


「なぁ、ライリ。 俺が死んだ後に求婚して来る奴とかはいなかったのか?」


つい、聞いちまった。


「ふふふっ、そんな事が気になるのですか? 少し恥ずかしいですが、かなりの男性からプロポーズを受けていましたけど全てお断りしています」


俺の予想は間違っちゃいなかったんだな。


「どうしてだ?」


それでも俺が忘れられなかったんだろうか?


「だって…… ご主人様ではありませんから。 それにいつか私の元に帰って来てくれる気がしていました。 クレアさんみたいな形だと想像していましたが…… その姿は流石に予想外でした」


そうか…… ライリは俺を待っていてくれたんだと知った俺は安心すると共に感心していた。

幽霊だったクレアは俺と一緒にいたいと成仏せず、この世に残っていたからな。

今は俺の子と仲良くやっていると思いたい。


「それは俺もそうだが…… いや、クレアがアンナの元へ早くと言った時に魂の抜けた胎児の中に入るって事だと分かってた筈だな。 あの時は無我夢中だったんだよ。 ライリはご主人様の嘘吐きとか口にして泣き叫んでたしよ……」


あんな姿は二度と見たくはない。


「えっ、あの姿を見ていたんですか?」


そう言わせたのは馬鹿な俺だからな。


「それが俺が最期に見た光景だったよ」


俺はポツリと呟く。

アレは見てて辛かったよ。

俺を見たライリが何故か悲しそうな顔をする。


「長い間離れ離れになるなら…… 私も笑顔を見て欲しかったです」


「私も?」


「ご主人様は満足そうな笑顔を浮かべたまま亡くなっていたんです。 きっと私達を守った事が嬉しかったんだろうと皆は話していました」


確かにそうだったな…… あの時に俺は満足しちまったんだ。


「今度はライリを幸せにするまでは満足しねぇよ。 だからそう簡単に死なねぇ、約束だ!」


「はい…… 約束ですよ」


何やら思い込んだ様子のライリが窓際から離れてベッドへと腰を下ろし俺を見つめていた。


「あの夜…… 続きは帰って来てからだとご主人様は言いましたね。 そして漸く帰って来てくれました。 なら…… あの約束を果たして下さい」


俺に向けて両手を広げるライリ。

そうか…… 10年間も待たせちまったんだな。

俺は覚悟決めてゆっくりとライリに歩み寄ると、お互いに抱き締め合い唇を重ねる。


「ライリ…… 愛してるぜ」


「愛しています、旦那様」


そして…… 俺達は心と身体を重ね合った。

何もかも一つになるために。




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