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才能と努力の方程式

ある日、一稀と亀井が練習していた時の事だった。

亀井の集中が乱れているのに珍しく気付いた一稀が、わざわざ練習を止めた。

「...どうしたんですか、先輩。」

「...ちょっと思う事があってな。なぁ、一稀。」

「何ですか?」

亀井が本気の顔をしているので一稀はふざけずに真面目に亀井の顔を見て聞き返す。

「...お前って、自分の持ってる才能に絶対甘えたりしないよな。」

「...そんなの、当たり前じゃないですか。才能があるだけで努力を怠ったらその才能だけで戦わないといけなくなっちゃいますし。」

「...なあ、一稀。俺と初めて会った時、どんな先輩だって思った?」

「...凄く...才能のある先輩だと思いました。」

「...その全く逆なんだよ。俺は小学生の頃から始めたけど、野球の才能が全くなかったんだ。」

「...え?」

「...ちょっと聞いてくれるか?」




慎也はどこにでもいる凡人だった。

慎也の家系は裕福とは言えず、一度ですら贅沢なんてした事はなかった。

しかしある日、慎也はテレビで野球を見た時、「俺もこのステージに立ちたい。」と思った。

あまり期待はせずに親に相談してみると、案外普通にやらせてくれる事になった。

「え?ほんと?や、やってええんか?か、金とかいっぱいかかるんやで?」

「おー、やれやれ。思い返せばお前になにかしてやったことなんて無かったからな。お母さんとも話した結果や、安心しろ。上手く行かなくても挫けんな。」

しかし、慎也はどうしたって一般人より上に行く事が出来なかった。

慎也は次第に父親の「挫けるな」という言葉に腹を立てるようになり、ついにその不満が爆発した。

「...挫けんなって...どうすりゃいいんだよ!俺には才能なんてないんやぞ!俺が今辞めたら...お父さんとお母さんが折角金を払ってくれてるのに申し訳ないし...やけど俺は...」

「...馬鹿やな、お前。才能なんてな、誰しもが持ってるわけないやろ。正直持ってる奴なんてお前のチームの中でも片手の指で数えられるくらいや。それがただ才能がないってだけで諦めて...何になんねん。才能がないなら努力したらええやろ。努力する才能を自分で付ければええやろ。だから...絶対、挫けんな。挫けたら負けや。勝てる試合も負けや。」

「.....わかった......俺.....頑張ってみる。」

「おう。頑張れ。絶対挫けんなよ。」

それから慎也は一稀達に会った。

そして慎也が中学二年生になった頃。

慎也は、病気で入院している親父の見舞いに行っていた。

「おう...慎也か。お前毎日来るけど、ちゃんと練習してんのか?」

「親父が言った事だろ。努力する才能を自分で付けろって......なあ、もうすぐ俺...二年生で、新しく俺がキャプテンとして新しいチームになった大会があるんだ...もしよかったら...見に来いよ。」

「はは...お前俺の病気のことわかってるみたいだな...?勿論、行くよ。」

...とは言ったものの、慎也と慎也の父はなかなか都合が合わず、慎也の試合を見に来ることがなかなか出来なかった。

慎也の試合は順調に勝ち進み、全国大会決勝までのぼりつめた。

「え...?来れる?マジで?」

『...あぁ...』

「俺頑張るから!絶対見ててくれよ!」

『...あぁ。』

慎也はいつも以上に気合が入っていて、ホームランを二本も打つ好プレーを見せた。

...しかし、慎也の父はこの時、球場には居なかった。

病状が急に悪化したらしく、慎也がそれを知ったのは試合が終わった後からだった。

慎也が慌てて病室へ向かうと、衰弱した父の姿がそこにはあった。

「親父!」

「...慎也か...すまない...試合を見に行けなくて...」

「いいんだよんなこと!」

「...結果は...?」

「んなもん...優勝したよ。」

「そうか...お前は本当に...努力の天才だったみたいだな...才能だけでは、済まされない...」

「もう喋んな!」

「...俺はきっと今日に居なくなる。」

「何言ってんだ!」

「余命だ。」

「...は?」

「俺は余命で今日死ぬことになっている。」

「...どういう事だよ。」

「お前の勝っている所を...見てやりたかったんだけどなぁ...」

「何言ってんだよ親父...」

「...慎也。」

「...」

「天才に負けないほど、努力をしろ。そして、天才と同じ肩を並べて歩いた日には...自分は努力の天才なんだ!って...胸張って歩け。」

「だったら...だったら親父も死なないように努力しろよ!挫けんなよ親父!」

「...あぁ...頑張ってみる。」

しかし現実は虚しく、その日の夜に慎也の父は静かに息を引き取った。

泣き喚く妹と母を見て、いてもたってもいられなくなり、外で涙を我慢して、

「...親父...俺...忘れないよ親父のこと...今まで...本当に...ありがとう...」

慎也は一人...いや、二人の天才を知っている。

その二人の圧倒的な才能の差に挫けず、前を向く事はかなり厳しいだろう。

しかし前を向く。

最後に胸を張るために。

父との約束を守るため。


「...とまあ、ざっくりと言ったがこんな感じよ...」

「...じゃあ先輩、約束果たしたんですね。」

「いや、まだまだだ...ってもうこんな時間じゃねえか...長話が過ぎたな。すまない一稀。」

「大丈夫ですよ。」

「...今日は一緒に帰らないか?」

「いいんですか〜?何かおごってください。」

「...まぁ、いいけどよ。」

一稀が亀井と荷物をまとめて校門を出ようとした時、ある生徒に呼び止められる。

「あ、お兄ちゃん。そっちの人は彼女?」

「違う。後輩の一稀だ。」

「あ、話してた女にしか見えない男の後輩君?どうもー、馬鹿な兄の妹の恵です。よろしくねー。」

慎也は「そんな教え方をしている愚かな先輩にはコンビニスイーツを二つ奢ってもらいます。」と割とガチな顔をした一稀から目を逸らす。

「...ば、馬鹿って...成績はお前より上だろ」

「そういった考えするのが馬鹿なんだよ?...というよりも...部活しながら勉強するのがお兄ちゃん上手過ぎるんだよね...。」

「あ、それは僕も思います。本当は才能あるんじゃないですか?」

「才能はない。」

「なーんだ、一稀君ってまともそうな人じゃん。」

「え?」

「はい三つ目。」

「財布が...」

「...?なんか、お兄ちゃんと仲がいいって聞いたからどんな人かと心配してたんだけど。」

「...いやどういう意味だよ...」

「そのまんまの意味だよ?...お兄ちゃんはいつも...」

そう何かを言いかけて恵の様子がおかしくなる。

恵は息切れを起こし、地面に手をついて苦しそうになんとかこきゅうをしている。

一稀は突然の事で、少し呆然としていたが、亀井はそれにすぐ反応して、恵の近くに寄って行く。

「大丈夫か?」

「...お兄ちゃん...やっぱ、私ってもうすぐ死ぬん?」

「何をゆーとんねん...そんなわけ...」

「じゃあなんでこんな苦しいの!?こんなの...流石に私でもわかるよ...」

「...一稀...救急車を呼んでくれ。」

「は、はい!」

「...すまんな...」

...その後、連れて行かれた恵の病院に着いて行った一稀は亀井にある話を聞かされた。

「...恵は...親父と一緒の病気を持っているらしいんだ...」

「...え...それって...」

「...手術ができなければ、後二年だ。」

「手術に必要なお金は...?」

「...三億円だ。」

一稀は三億円という言葉に少し難しい顔をする。

「...だから...俺はこの二年で、絶対にプロ野球選手になり、三億円を手に入れるつもりだ。」

慎也の決意は固い。

まるで三億円なんてすぐ稼げると言わんばかりに。

「...頑張ってください...いや...絶対、三億円稼いでください。先輩。」

「...おう、勿論だ。」

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