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新倉冴

「ヤベえ…」


何がヤバいのかというと、朝っぱらから俺の携帯電話に届いたメールが原因だった。


差出人の欄には〈間 彼方〉と書かれている。


本文には


「ごめんごめんご<( ̄∇ ̄)ゞ

 明日のこども会にくるはずだった講師の人が足骨折してたの言うの忘れてたわー!!!

 (´>ω∂`)てへぺろ☆

 てことで、代理の講師 よ(^o^)ろ(^o^)し(^ ^)くぅ(^-^)ノ゛」


と書かれている。


あんのクソ教師。

前にも言ったが間先生はいつも大事なことを言うのが遅い。遅すぎる。


てか、なんだよこの文。顔文字多すぎるだろ。なんでメールじゃこんなハイテンションなんだ…


市の教育委員会に電話…と思ったが、それよりもこども会の問題をなんとかしないといけない。

とりあえず解決策を考えてみる。


この地域のこども会は規模が小さい。なんせ田舎なモンで参加人数は10人そこらだったと思う。

しかし、さすがに高校生一人で面倒を見れる人数ではない。頼みの綱は本橋だがアイツに包丁を握らせると何が起こるかわからない。ましてや、人に料理を教えることはできないだろう。いや、させてはならない。


やっぱ知り合いに頼むしかねえか…


今じゃクラスメイトが一人しかいない俺だが中学生の時はけっこう友達がいた。こちらが友達だと思ってただけかもしれないが。

まあ友達かどうかはさておき、そのクラスメイトの中にこの高校に進学してるやつがいたはずだ。それに、そいつが中学の調理実習でめちゃくちゃ先生に褒められてた記憶がある。

たしか女子だった気がする。


なんか、さっきから記憶が曖昧な気が…

あれ?俺中学のとき友達いたっけ? と、少し心配になってくる。


なんにせよその元クラスメイトに頼むしか今は方法がない。とりあえずメール送ってみるか。


ふと、中学校の卒業式の日のことを思い出した。

あの日、卒業式が終わった後、クラスメイトのみんなが急に携帯を取り出した時のことは今でも鮮明に覚えている。その日の前日に友達同士で話をつけていたらしい。つまり、俺は友達では無かったようだ。なんだ、答えは2年前にもう出てたわ。

そのため皆の間を赤外線がビュンビュンと飛び交う中、俺は自分のメアド等の連絡先を必死に人数分書いた。最後の5人ぐらいになると「も、もういいよ。今度もらうから…」と言って帰っていくやつらもいた。そいつらとはあの日以来連絡をとっていない。元気にしてるかな、田中。


てことで、その時のクラスメイトの連絡先は一応知っている。

まあ僕もピュアで純粋で24時間365日欲求不満の男の子ですから1年以上会話していない女の子にメールを送るのは多少、少し、ほどほどに、ちょこっと、(わず)かに、そこそこ緊張します。


とりあえず


「こんにちは。突然申し訳ございません。

 新倉 冴(にいくらさえ)さんのアドレスであっているでしょうか。

 私は中学3年の時クラスメイトだった素南風 之と申します。覚えていらっしゃるでしょうか。

 少し相談があって連絡させていただきました。

 お返事お待ちしております。」


と打ち、何かいろいろおかしい気がするが緊張のせいか、いつもより頭が回らず、そのまま送信ボタンをタップ。画面にメッセージが送信されたことを伝えるウィンドウが表示される。


緊張から解放されとりあえず頭整理して、送った文を読み返した。




……………しくじったああああ!!


何度読み返しても、どう考えても昔のクラスメイトに送る文じゃない。だがしかし、後悔先に立たず。もう送られてしまったものは取り消すことができない。


そういって5分ほど頭を抱えていると携帯からピロリロリンというメールの受信音が流れてきた。もう返信がきたらしい。


メールを開いて見ると一行、


「誰ですか?」


と、書かれていた。


どうやら堅苦しい敬語で書かれた文のことより、知らない人(元クラスメイト)からメールがきたことに疑問を抱いたらしい。そろそろハンカチがぐしょぐしょになってきたんで誰か新しいものを持ってきてください。


まずは、俺のことを思い出してもらうことから始めないといけないらしい。


そのための新しいメールの文を考えていると、再びメールの受信音が手元の携帯から鳴った。


「すみません。思い出しました。

 というか卒業アルバムをみたんですけどw

 たしかに素南風くんの名前がありました。


 てかさっきの文、固過ぎじゃないですか?wwwストーカーかと思って通報しかけましたよw

 ほんとに私の元クラスメイトですか?wwwwww


 …ふう

 それで相談って何ですか?」


草が多すぎる気がする。


たしか卒業アルバムには名前といっしょに顔写真もあったはずだが、この様子だとそれを見ても思い出せなかったらしい。


なんとなく「一年生になったら」の余った一人になった気分だった。人間って怖いよな。100人友達つくった挙げ句、101って数字が中途半端だから一人を切り捨てて、富士の山から握り飯を食いながら世界を見渡すって歌を嬉々として子どもに歌わせる。そんな社会で生きて行けるか少し不安だ。


…まあ多分あちらにも悪意はないだろう。


とりあえず、


「そのことなんだけど、メールでは説明しづらいから会えないかな?」


と打ち、送信した。

さっきの教訓を生かし、出来るだけナチュラルに元クラスメイトっぽい文章にした。



その後もメールを送り合い、今日の昼に図書館で待ち合わせ、ということになった。


          ☆        ☆        ☆


散々覚えられてないことに涙したが、俺も新倉のことを詳しく覚えているわけではなかった。

昔の事故の後遺症のせいでもあるが基本的に俺は人の名前と顔を覚えるのが得意ではない。それに最近は覚える機会さえない。


というわけで、図書館で新倉と会った時はお互いの顔が分からず、同じ場所にいるのにメールで「どこ?」「ここ!」と何度も送り合ったあげく、最終的には顔を自撮りして送ってしまった。


そんなこんなで会ったはいいが、新倉の俺に対しての第一声は


「プッ…なんですか、その服。ジャージって…プクッ…引きニート真っ盛りじゃないですか…プププ」


だった。うむ、新倉は思った通りの性格だった。


新倉は淡い水色のワンピースに少し濃い藍のカーディガンを羽織っている。裾からのびる足は程よく白く、その先にブーツを履いている。なんというかちゃっかり、それでいてしっかり女子力高い系女子だ。


一瞬、胸元の凹凸に目を奪われそうになったが慌てて視線をそらす。


「お…おう…てか最初がそれかよ…」


対して俺は基本土日は蟄居(ちっきょ)生活を満喫しているため、外に出るための衣服がなく、まあジャージにパーカーというなんともアレな格好だった。


ゴールデンウィークだというのに図書館は閑散としていてフロアには新倉の笑い声だけが響いている。


そういえばここ図書館だったな。

俺としたことが、新倉の性格と俺の服装選択力および社会適応力を考慮した上で集合場所を決めるべきだった…


新倉は10秒ほどケタケタと笑った後、ようやくお腹から手を離した。


「あー、笑いました笑いました。で、相談って?」


「ああ、そうだった。とりあえずどこかに座らないか?」


手頃なテーブルを見つけ、向かい合うように座る。


「えと、まずは…」


「自己紹介からしてくださいよ。私、あなたのことよく覚えてないんですよね。まだ本当に元クラスメイトだったのか不安なんですが…っぷく」


「はあ…わかったよ。わかったからもう笑わないでくれ…」


女の子にこんなにも泣かされたのはいつ以来だろうか。なんとなくけっこう昔にあった気がしなくもないが、あまり思い出せない。


「えーっと、俺の名前は素南風 之。高2。中学校は紅坂中で、クラスは3-1だった。つってもクラスは一つしかなかったけどな」


「ふむ…やっぱり同じクラスだったんですね。なんで覚えてないのでしょうか。よっぽど存在感が薄かったんですかね」


新倉は相変わらず微笑(嘲笑)しながら、元クラスメイトであったことを確認する。


こいつはなぜこんなに失礼極まりないのだろうか。それに事実しか言ってこないから反論できないではないか。


「高校は紅坂高校だ。たしかお前も同じだったよな」


「はい、よく知ってますね。やっぱりストーカーですか?」


「違えよ。で、そろそろ本題いいですか?」


「遅いですよ」


「お前のせいだよ!」


「覚えられてない方が悪いんですよ」


「ぐっ…」


痛いところをつかれて、言葉に詰まる。


「と、とにかく新倉、お前に相談があるんだ」


そこで一度口を閉じ、息を吸う。新倉は少し前のめりになり、話の先を促した。

そして、できる限りの明瞭な声でこの相談を解決するための絶対条件を聞いた。


「お前、料理できる?」


新倉は一瞬ぽかんとしたが、すぐに言葉を理解し、口を開いた。


「料理?まあ、できなくはないですけど。というより得意な部類に入りますね」


「よし。そこでだ。子ども会に俺の補助として講師をしてくれないか?」


「講師?えと、しら…素南風くん…でしたっけ、は講師をするんですか?」


新倉は少し迷ったものの見事俺の名前を言い当てた。ちょっとホッとしてしまった自分が(うら)めしい。


「ああ。今年は子ども会で料理教室をする予定なんだ。で、俺はその手伝いを頼まれてたんだけどその料理教室の講師の人が骨折したらしくて俺が臨時講師をやることになったんだ」


「へえ、それで人手が足りないから私に手伝ってくれと」


「そういうことだ」


新倉は少し悩むような仕草をしたが、すぐに答えを出した。


「いいですよ。引き受けましょう」


「本当か!ありが…」


「しかし」


お礼を言おうとした俺の言葉を急に新倉が遮った。


「しかし、見返りは必要です」


「見返り?」


「ええ。いわゆる恩返しです。ギブアンドテイクです」


「で、俺はなにをすればいいんだ?」


「私からも相談があります」


「どんな?」


「それはそちらの相談が解決するまで秘密です」


ふむ。この何でもうまくやってそうな女からの相談というのは少し怖いが…やむを得ないか。


「わかった」


「交渉成立ですね。で、メニューは決めてるんですか?」


「ピーマンの肉詰めだ。それと集合場所は紅坂公民館で、時間は8時半な」


「あれ?子ども会っていつですか?」


「もちろん子どもの日、明日だ」


「明日!?えらくギリギリなんですね」


うちのクソ教師に言ってほしい。


「まあ、わかりました。それではまた明日」


そうやって、新倉は席を立った。


「ああ、最後に」


俺にはどうしても確かめておかなければならないことがあった。


「新倉、お前の料理の腕前、信じていいんだな」


「な、なんですか、その人がつくった食べ物に恐怖しているような顔は…」


思わず顔に出てしまっていた。


あの黒い塊をくった時のことは今でも鮮明に覚えている。

軽い健忘症である俺でさえあの味は簡単に忘れられないようだった。



とりあえず助っ人を確保できたことを喜びながら図書館から出て、俺は夕映えする帰路を急いだ。

雪月花と申します。

第三部投稿、遅れてすみません。

ここまで読んで頂き本当にありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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