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無題  作者: 大黒 一城
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二話 『優沙な俺は――』

 昼休み終了を知らせるチャイムが校内に轟き、屋上にいる生徒は憂鬱な表情を見せながらも屋上を後にする。

 残りの授業は二つ。しかも月曜日ということでとても面倒であり、最悪な気分である。


 俺は花の高校一年に成り立てほやほやの鏡谷(きょうたに)優沙(ゆうしゃ)だ。

 東京にある普通の学校に通う普通の学生。

 顔は普通、学力も普通、運動神経も普通というなんともつまらない男になってしまった。

 特に、名前が名前だけにあだ名は勇者。教師に悪戯を仕掛けたり、隣のクラスのヤンキーな山田くんに悪戯を仕掛けたりなど、馬鹿なことをさせられる。

 何が勇者なんだか。


「うふふ。休み時間終わっちゃったね」

「続きは放課後にしようぜ。あはは」


 カップルが俺の横をいちゃいちゃしながら通り過ぎる。

 羨まし......くない!

 何が彼女だ、何が彼氏だ!


 高校生の恋愛とは所詮はお遊びに過ぎず、一時の感情に身を任せ交際を始めるという幼稚な考えに過ぎない。

 公共の施設である学校で一目も気にせずにいちゃいちゃするカップルは、将来公共の場でどのようなことを仕出かすか分かったもんじゃない。

 カップルは危険だ。

 成り立てのカップルは、私たちが世界一のカップルだとか根拠のない偽りの戯言を口々に言う。そんなものは有り得ない。

 これで分かったはずだ。脳が成熟されていな未熟な少年少女は交際を始めることにより、起こり得る全てのことを主観的に捉え、肯定的に捉えるようになる。

 危険だ。

 学生の交際は害だ。

 無くなった方が良いに決まってる。

 言いたいことはこれだけだ。

 リア充破ぜろ。


「鏡谷。そろそろ授業が始まるぞ」


 俺の唯一の友達である古荒(ふるあら)赤斗(あかと)が面倒くさそうに、かったるそうに俺を呼びに来た。

 何故、呼びに来るのが面倒くさいのに呼びに来るのか。

 俺と赤斗は常人には到底理解し難い思考の持ち主。俺と赤斗は友達とは何だ、と質問されたら口を揃えて「一人で充分なもの」と答える。

 要するに、お互い友達がいない。

 ま、まあ。一人居れば充分だけど。


「分かった。今行くよ」

「鏡谷。今日はいつもより一段と死神みたいな顔をしてるな」

「そうか、俺のこの美しいまでに良くできた目の下の隈をそこまで評価してくれるのはお前だけだ」

「はぁ。さっさと行くぞ」


 校内を赤斗と歩くと、学年問わず沢山の女子からのきょうれつな眼差しを受ける。

 高校に入って一ヶ月。毎日のように体験しているが、未だにこの光景には慣れない。


「なあ赤斗。お前さ女の子の友達ならいくらでも作れると思うのは俺だけか?」


 俺の問いに赤斗は鼻で笑い、赤斗に熱い視線を向ける女子に冷めた視線を向ける。


「女とは獣であり、害虫であり、塵だ」


 赤斗の恐ろしいまでに屑な一言に、女子たちは若干顔をしかめる。

 学校一のイケメンから発せられた衝撃的な一言に理解が追い付かないのだろう。


「彼女欲しいとか思わないのか?」

「俺にはお前の思考が理解できない。女と居ると男という生き物は堕落し、最終的には腐り果てる。俺はそんなことは望まない」

「はあ。これが勝ち組の余裕か」


 と、他愛もない会話を続けながら俺たちは教室へと戻ってきた。

 もちろん、教室に入る際は女子の熱い視線と共に男子の嫉妬交じりの痛い視線が全方向から飛んで来る。

 イケメンて恐い。


 午後の授業を終え、気付けば放課後だ。

 俺は部員が三人しかいない廃部寸前の部活である『女心研究部』略してオンケンの部室にいる。

 部員とは、俺と赤斗とクラスの委員長である雪野(ゆきの)零下(れいか)の三人なのだが、部活に顔を出すのは基本的に俺だけだ。

 悲しい。

 放課後までボッチとか泣ける。

 帰ろう。


「ただいま」


 俺は誰もいないアパートに挨拶をし、靴を脱ぎ捨て制服を脱ぎ捨て、ベッドに身を投げる。

 寝たいという欲求に駆られるが、寝たくない。

 眠いけど、寝たくない。


「あの夢は何なんだよ」


 俺は無意識に心の叫びを口に出していた。

 あの夢が、死にたくなるほど辛い悪夢が、毎日のように睡眠を妨げる。

 腕を切り落とされ、目を失い、心臓を剣のようなもので抉られる。それが鮮明な映像となり、毎日のように夢となって現れる。

 経験したことはないのに、見たこともないはずなのに、まるで実際に自分に起こったことのように鮮明に現れる。


「駄目だ。寝たら駄目だ。寝たらまた悪夢を見る羽目になる」


 自分に言い聞かせるが、人は寝なくては死んでしまう生き物。丸二日寝ていない俺の体は、意識して起きていられるような状況ではなかった。


「駄目だ......。寝たら......」

 

 最後に自分に忠告をするが、忠告虚しく俺は深い眠りについてしまった。

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