ウキウキしすぎただけ!4 ― クルト ー
クルト視点
「とりあえず、クルト、今日は助かった。
礼をしたいのだが、お前にやる気があるのなら、薬関係に強い講師をつけよう」
ようやくエミリーを放した、『ロベルト』と呼ばれた男が俺に話しかける。
仲がよろしいこって。
どうやらエミリーのことを相当好きならしいな。
声を大にして言いたい。
いや、言わないけど。
言いたいけど黙ってる。
......だけど。
なんでこの男女がいいんだろう?
めちゃ疑問。
「あの、俺はそんなためにしたわけじゃ」
普通じゃないお礼に動揺する。
「気にするな、俺の気持ちだ」
「えぇ?!」
気持ちが立派すぎて困る!とエミリーに目を向けるが、キョトンとした顔に返される。
いや、キョトンじゃねぇし。
こういうのはせいぜい茶菓子程度でいいんだよ!
「ではわたしからも礼に何か送ろう。
ふむ、薬草の本なんかどうかな?」
にこっと優雅に微笑むレオン。
男にしておくのが惜しいくらいだ。
だがな、俺はそんな笑顔には騙されん。
本がいくらすると思ってんだ!!
『はい、茶菓子!』程度の言い方で終わらすな!
怖いから言わないけど。
「あぁオレもそれに乗ろう、全巻揃えれば使い勝手もいいだろう?」
レオンの横では、ずいぶんがたいのいい男が笑う。
「ちょ!?」
ちょっと待ってくれ!
再びスケールが違ってきたぞ!?
全巻ってどのくらいあるのか知ってるのか?
ウチはプチ図書館じゃねぇぞ?!
「わぁ、じゃぁ僕からは専門道具贈っちゃおうかな!」
少し小柄な男が手を叩いてまるで「それは面白い!」と言うかのように話に乗る。
「えぇ?ちょっと」
ヤメテ!
俺何か悪いことした?!
この男女助けただけで俺んちが恐ろしいことになっちゃうんだけど?!
鍵もかからないような家が宝の宝庫になるんですけど?
「え!待って待って!
それじゃ、私は薬草の苗木!」
エミリーがハイハイ!と手を挙げるように叫ぶ。
「ちょっと、マジでからかうのやめてください!
その前になんで関係ないあなたたちからまで貰う話になってるんですか!」
手をぶんぶん振りながらついでに頭もブンブン振ってみる。
どれだけお金がかかるか分かる?
知ってる?
安易に『はい、ありがとう』ともらえる額じゃない。
本にしたって1冊買うのに何日分の食事代になるかわからない。
道具だって苗木だってどのくらいするかわからないのだ。
「オレたちは冗談なんかじゃないし、先行投資だと思ってもらっておけ。
お前が国で有名にでもなった頃、しっかり回収する」
「そんな!」
もらったこっちが命懸けじゃねぇか!!
怯えが走り、すがるように周りを見る。
いったいこいつら何者だ?!
「その頃にはオレが少将か中将あたりになってるといいな。
効くようなら薬の口利きをしてやろう」
「え?」
ニッと笑うガタイのいい男を見上げる。
「あ、ジーンは軍事一家なんだよ。
父上は陸軍大将で兄上は海軍大尉なんだよ、すごいよね~~!」
エミリーの言葉に動揺する。
やべぇよ、マジかよ。
普通に生きてたらご対面も叶わねぇ御子息様じゃねぇかよ。
「あ~~、いいね。
軍に納めるようになったら、お前きちんと税金納めろよ?」
「え?」
何言ってんの?と思わずロベルトとやらを見つめる。
「あ、ロベルトここの領主の息子なんだよ、知らなかった?」
エミリーの言葉に凍りつく。
おいおい、知らねぇし聞いてない!
俺関係ない!!
......てか、今更だけど頭下げてたほうがいい?!
あ......心臓イタタ。
「そ、でこの猿が次期領主夫人」
「え~~~!!」
レオンと呼ばれてた人の顔を見て、エミリーの顔を再び見る。
俺敬語使うのやめてたけど、マジかよ~~!
ていうか、この人次期領主夫人を『猿』って言ったよ!
聞き間違いっ?!
「なんだ、その驚きようは。
ならばわたしなぞ、運が悪ければ国王だぞ?」
「はぁぁああ?!」
「ふふん」という雰囲気でいるレオンに 思わず仰け反る。
今『運が悪ければ』って言ったよね?
運が悪いと王様になるわけ?
てか、普通に隣にいるけど気のせい?!
ひざまずくべき?
思わず後ずさる。
「ね、居づらいよね!
ここってさ。
僕なんて普通の商家の息子だから、本当にしんどいんだよね」
この中では小柄な男が、ズイッと近づいて人差し指を立て深刻な顔をする。
あぁ、この人がエミリーの言っていた平民って言った人だ、と思いながらクルトはこくこくと頷く。
こんなメンバーといたら身が持たない。
あんた、可哀想だな。
こんな大層なご身分の中にいるくらいなら、俺は平民の中でいい。
というか、平民の中にいさせてください!
「バード商会のどこが普通だ、バカ!」
ロベルトが呆れたようにつっこむ。
「ババババババードって言ったら国一じゃないですか!
どこが普通ですかぁ!!」
「アッハッハ!クルトの顔面白い!!」と笑うエミリーに若干涙目で睨みつける。
俺の人生そっとしといてよっ!
半強制的にエリート街道に乗っかったクルトは、後に「山の中に人生を変える出会いがあった」とぼやいた。
ジーンもレオンもロベルトやレイモンドも、それだけエミリーを大事にしてるってこってす。
逆もまた然り。




