見るもんじゃない!2
「申し訳ありません、リズ様。
今日はこちらのエミリー嬢のエスコートさせていただきますので」
私のそばにたどり着いたロベルトは、やんわりと解くようにリズから手を離す。
横ではジーンが「遅れてすまん」と、マリアーナにそっと寄り添う。
「まぁ、ロベルト様...。」
リズ様は驚いた顔をして、チラッと私を見つめてきた。
「そちらのエミリーとやら、わたくしは第9学年リズ・アクロイド。
ロベルト様のエスコートの権利をわたくしに譲りなさい」
「リッリズ?!」
レオンが慌てたように声を上げ、私は心臓がジクリと痛くなった。
「...お初にお目にかかります。
私は第10学年エミリー・シュタインと申します。
喜んで、お譲り致します...。
どうぞ今宵の歓迎会を、ロベルト様とお楽しみくださいませ」
ニッコリと微笑んで、精一杯の淑女の礼をする。
「ほら、彼女もそう言ってる!
それでは参ろう、ロベルト様!」
当然だ。
リズ様のロベルトへの印象が悪くなれば、いずれはリズ様のお気持ちは王妃様の耳にも届き、彼のなりたい未来から大きく遠のく。
逆にうまくいけばその未来は大きくたぐり寄せられる。
ロベルトが現宰相のお父上を誇りに、ずっと目指していることはよく知ってた。
キャッキャッと屈託なく笑うリズ様と「エミリー...」とつぶやき大きなため息を吐いたロベルトが去っていった。
「エミリー、今日はボクだけのエミリーになれそうだね!」
ロベルトと目で追いかけていると、レイモンドが横からそっと手を握ってくれる。
「何言ってんの、レイ。
上級生のお姉さまたちはどうするの?
でもありがとう。
私は今日、花から花に飛び舞うチョウチョになるんだから気にしないでね!」
レイモンドの軽口が今日はとても心に染みた。
私は荒ぶる神だ。
ふっざけんなっつーの!
高爵位からあんな言われて「イヤです」なんて言えるツワモノなぞいるかっ!
バカな私でも周りを困らすような痴れた事はせんわ!!
マリアーナやシルビアは気遣いそばにいてくれた。
けど怒り心頭な私は、新しい食べ物を怒涛のごとく食べ、一息ついたあとは声をかけてくるヤツ全員と踊りに踊ってやったさ。
こっちとら男爵だけど、贅沢しないしレイモンドのとこに投資したり、立派にひと財産築いてるんでぃ!
ロベルトさえいなければこちとら財産目当てだらけに囲まれるんじゃぃ!!
......かなしぃ。
中にはお尻を触る不埒なアホもいたけど、そんな奴はかかと一発!会心の一撃炸裂!!
人目のつかない裏に誘ってくるスケベも、かかとの餌食にしてやった。
でも......
ダンスをしている時も、話している時も、気づけばロベルトを目で追う。
ずっとロベルトのそばにはリズ様がいた。
ロベルト。
ロベルトがリズ様を見ながら微笑む。
ロベルトが遠い。
あんなにそばにいたのに...。
ずっと一緒にいられるって思ってた。
そんなの勘違いって今更気づいたんだ。
マリアーナと化粧室に行って自分を見たとき、パラリと涙がこぼれた。
私はなんてしょぼくれた顔をしてるんだろう。
「エミリー、ロベルト様をお慕いしてるねぇ」
トントンと背中を叩きながらマリアーナが寄り添ってくれる。
「うん...、うん。
そう、そうなの、ずっとロベルトがそばにいるから......、そばにいてくれたから、気づかないでいたの。
......これからも一緒かと思ってたの」
ようやく涙も落ち着いたころには、歓迎会も終わりに近づく時間だった。
まだほんのり赤い鼻を隠しながら、そっと化粧室を出る。
化粧室の前には優しく微笑むレオンがいた。
「やぁ、エミリー。
女性の支度は長いものだね!
君とロベルトはわたしの一番の親友だ。
そんな二人に、今日は私からささやかなプレゼントをするからついてくるんだ、さぁ!」




