(1)
乾いた音を立てて、世界が潤っていく。
見上げた空はどこまでも沈んでいくような灰色。
雨の日は、嫌いだ。
ばっちり決めた髪型も、気合を入れたメイクも台無しになるし、何よりも身体が濡れてしまう。
ただでさえ寒いのがあまり得意ではないのに、雨ともなると二重三重に冷えていく一方だ。心も、身体も。
こうして雨宿りをしている駅の改札前。通り過ぎていく誰もが慌ただしさに覆われていて、その表情には皆一様にうんざりとしたものが浮かんでいる……なんていうのはわたしの心情が見せる幻なのかもしれない。実際には、ほとんどの人が無表情で歩き去っていくのだろう。
ちらりと携帯の画面に目を移せば、待ち合わせを予定していた時間まであと数分もない。
思わずため息をつくと、隣で同じように立ち尽くしていた女の子がびくりと肩を震わせてこちらを見た。なんとなく目を合わせてみれば、露骨に怯えた表情を浮かべてから、そそくさとどこかへ行ってしまった。
どうやら彼女的には、わたしと一緒の空間にいるよりも雨に濡れるほうがましらしい。
いい加減そんな反応にも慣れているので、いまさら傷付いたりむっとしたりはしない。ため息とは違う種類の息を吐き、わたしは自分の格好を見下ろした。
その拍子に流れてきた髪を軽く払う。毛先に行くほど明るくグラデーションされた髪は、雨のせいで少ししっとりしてしまっている。セットにやたら時間がかかるわりに、台無しになるのは一瞬だ。やるせない気分にもなる。
それはともかく、明るい髪色を惜しげもなく巻き、バイカラーの深襟ジャケットに黒地のシャツ、デニムのミニスカートに焦げ茶色のショートブーツを合わせた今のわたしは、一言で言えば遊び慣れているような、あからさまにそういう女だ。
別に、その認識が間違っているわけでもないし、いちいち訂正する気にもならない。どうせ、二度と会うこともない他人なのだから。
ただ、どうしたっていい気分にはならない。せめてものあてつけに、壁に寄りかかったままわざとらしく脚を組み替えてみれば、ちょうど通りがかったスーツ姿の男の視線がそこに吸い寄せられるのがわかった。
馬鹿みたい。
彼に向けて微笑み、内心でそう吐き捨てながら、もう一度携帯で時間を確認する。
待ち合わせの時間はとうに過ぎていた。相手からの連絡もない。
怖気づいたか、面倒になったのか。理由なんて知らないし、興味もない。
ただひとつはっきりしているのは、今日稼げるはずだったお金が、流れ落ちる雨水のように消えていってしまったということだ。
「……はぁ」
このままここにいても仕方がない。
とはいえ、何もせずおとなしく帰るのもそれはそれで癪に思える。
どうしようもない、やり場のない苛立ちを持て余しながら、わたしはぽっかりと空いた時間をどうやって埋めようかと考えつつ、あてもなく歩き出した。
やや強く踏み抜いた地面から、微妙に跳ねた水滴が脚にかかった。
やっぱり、雨の日は嫌いだ。




