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未定  作者: マリオネット
1/5

1話〜亡者の驚異

物語の進行によって人物を追加していきます


 西暦2010年 秋。

 東京:新宿六丁目交差点。

 今から3時間ほど前。

 新宿五丁目の辺りから謎の生物23体が出現。その生物は一気に南下し人畜を問わず食い尽くすと言う異常事態が発生した。新宿署から向かった警官も生存者数名となり直ちに本部へ通達。第4方面本部から部隊が編成され2個小隊規模の人員が封鎖に投入された。同時にSATと機動隊が召集されこれらを前面戦力として配置する。だがどちらも多数の死傷者を出して敗走、方面本部は警視庁へ協力を打診。

 それから2時間後、警視庁から下された内容は「第4方面本部にいる残りの警察官で半径500メートル圏内にいる全住民の避難誘導を行え」というものだった。

 だが、事態はこれだけでは収まらず謎の生物は次々と出現。この事態に政府は非常事態宣言を発令すると共に、東部方面隊に害獣駆除名目の災害派遣を命令。既に被害が局所的な物とは言え死傷者が300余名を超えている事態を鑑み内閣は、「特殊自衛隊法生物災害防衛行動における対応策」と言う法案を国民の許可なく新たに立案した。要するにあの生物を掃討するのに必要な重火器の使用を全面的に認めると言う事だ。事実上の防衛出動と同じ扱いになっているので、この立案にあたり与野党で閑々諤々の議論が重ねられるのはもう少し後の話になる。

 しばらくして、発生地点から最も近い駐屯地から命令を受けた戦車大隊が出動し、その不気味な生物に対し大量の砲弾をありったけ叩き込んだらしいが、結果はすでに見えていた。続いて到着した歩兵中隊も戦車大隊と同じ道を辿るだけだった。

 そして1時間後、現在に至る。

 そこに1人の青年が立って首に付けた小型の通信機に声を吹き込みながら、誰かと連絡を取っているようだ。

 身長は180センチ程。全身を青いジャケットを纏っており、両手の袖からは、黒いグローブに覆われた手が突き出ていた。


「こちらコード01、前方にカテゴリーCの亡者の群を発見、数23、現時刻23時38分14秒。これより除霊行動に移行する」


 青年の落ち着いた声が、ひっそりと発せられる。

 その言葉からは、聞いた者を安心させるような響きと、確固たる決意が感じられた。


「はい、こちらコード05。コード01除霊行動に移ってください」

「了解」


 青年は通信を切り、目の前の光景を視認する。

 青年の目線の先には謎の生物、否、それは亡者と呼ばれる悪霊がそこかしこにいた。背中を突き出した白い骨を剥き出しにして、不気味なのっぺりとした顔と同じ漆黒の身体をしている。

 そのどれもが生理的な嫌悪感を芽生えさせ、ある種の禍々しさを感じさせる。

 まるで猿のようにダラリと手を垂らし背中を丸めて徘徊し、手から生えている独特な形状の骨で現場にいた者を虐殺にしたのだろう。

 だが青年は、亡者の群れに悠然と歩を進める。

 その足音に1体の亡者が気付いた。


「アアァ……ギャ……ググゲ……」


 亡者が、歩きながらこの世のものとは思えない呻き声を上げる。まるで、聞いた者全てを呪い殺すような凄味があった。

 その時、亡者に異変が起こる。歩く速度が、徐々に上がっているのである。

 歩く姿勢も、1歩進むごとに、ゆっくりと前傾気味になっていく。2歩、3歩、4歩そうやって速度を上げながら歩いていくごとに、更に体は傾いていく。

 そして遂に、亡者は四つ足の姿勢となり、地面を激しくベチベチと鳴らしながら、凄まじい速度で青年目掛けて突進し始めた。

 青年は、依然としてゆっくりとした歩きを続けながら、


「おいおい、元気だな。何かいい事でもあったか? こっちはお前のせいで最悪だよ……」


 周りに倒れている人間を一度みて、そう嫌みたらしく言い放つ。

 青年が、亡者に歩み寄りながら、軽く肩を回す。亡者は、アスファルトを激しく打ちつけて、その突進の標的を、青年に絞り込む。

 青年と亡者が激突するまで、もう数秒ほどしか時間はない。激突まで、残り5、4、3、2──、1。

 残り1秒となった瞬間、青年が攻撃を仕掛けた。


「はッ!」 短い叫び声とともに、青年の右腕が唸りを上げる。

 そして、大砲のような凄まじい拳が、亡者の額を打ち抜いた。

 亡者の首は、打拳の衝撃に耐えきれず、天を仰ぐように上方へもたげていく。

 そして遂に──。

 ボキッ、という鈍い音を立てながら、真後ろの方向へと折れ曲がった。


「……ッアッァァアァガァァアアアアアアア!!」


 首の骨が折れ、頭部が奇妙な状態でぶら下がったまま、亡者は苦悶の叫びを上げる。

 すると、酷く折れ曲がっていたはずの亡者の首を亡者は力ずくで頭部もとの位置へと戻した。

 通常の人間ならば、死んでしまうであろう程の重傷が、である。

 しかし、亡者は苦痛に喘ぎ、よろめいてはいるものの、事切れる様子は全くなかった。

 亡者は、一瞬ピクリと全身を揺らすと、両腕を青年に向けて掲げる。


「…………」


 それを見た青年は、無言のまま、腰を低く落とし、息を吐きながら両拳を構える。

 次の瞬間、亡者の両腕が、まるで拳銃の弾丸のように発射した。

 そして、飛んだ両腕は風を切りながら凄まじい勢いで、前方の青年へと襲い掛かる。狙いはただ一つ、青年の首元であった。 

 しかし、亡者の両腕は、青年の首を捕えることはなかった。

 首に到達する直前、亡者の両手首は、青年の両腕によって簡単に握られたのである。

 そして次の瞬間。

 青年は掴んでいる両手首を、それぞれの手で粉々に握り潰した。

 そして、今度は青年が亡者の目前まで駆け上がりそのまま亡者の体を引き寄せると、亡者の水月目掛け、重い膝蹴りを繰り出したのである。


「ギャウ゜ア……ア……アアアッ!?」


 手首を握り潰され、渾身の膝蹴りを食らったことで、苦痛に悶える亡者。

 そう言わんばかりに、青年の行動は、更なる攻撃へと移行した。


「しッ!」


 青年は口から呼気を漏らしながら、亡者を目掛けて打拳を放つ。縦拳による鋭い一撃が、先程膝を受けたばかりの亡者の水月に、深々と突き刺さった。


「ギェ……ゲェ……」


 亡者が漏らした呼気は、青年のそれとは全く異なる。

 急所を打ち抜かれた激痛に耐えきれず、肺から大量の空気が絞り出た事を示す呼気であった。

 青年は立て続けに、左右の拳を用いた連打で攻め続ける。

 放った連続技のどれもが、亡者の体の急所を正確に抉り抜いていく。

 堪らず亡者は、後方へと後退った。

 しかし、連撃は終わらない。青年は、後退った亡者に向かって素早く踏み込み、一気に間合いを詰める。


「何、下がろうとしてるんだ?」


 青年の威圧的な笑みと共に、両拳による重い拳の連打が、亡者の水月に再度叩き込まれる。

 青年の放つ連打は素早く、1秒間に5、6発撃ちこんでいる。正しく機関銃の如き猛攻であった。

 50発程打ち込んだ頃であろうか。青年は、先程までの激しい連打をピタリと止め、フラフラとよろめいている亡者の首を、緑色に光る右手で鷲掴んだ。

 そしてそのまま、


「……ふんっ!!」


 地面に向かって、亡者の体を力強く叩き付けた。その無慈悲な一撃が、勝敗を決した。


「……ガァァァアアアッッ!!」


 アスファルトに叩き付けられ、腐ったスイカの如く体がグチャグチャになった亡者は、激しくもがき苦しみながら、断末魔の悲鳴を上げる。

 しかし、徐々に悲鳴は小さくなっていき、体の動きもゆっくりとしたものへと変わる。

 そして、動きが完全に停止した時、亡者の肉体は塵状になって消滅した。


「…………」


 青年は無言で構えたまま、亡者が消滅した場所を見つめる。

 しばらくして、周囲の亡者たちが青年に向かって来ている事を確認すると、大きく息を吐き出しながら、青年は両足に取り付けいるホルスターから小型ライト付きの黒い二挺の拳銃M1911――通称ガバメントを取り出し、亡者に向けて引き金を躊躇うことなく引いた。

 銃弾がそれぞれの銃から放たれていく。青年が最初に放った銃弾は1体の亡者の胸に当たり、糸の切れた操り人形の様に崩れ落ち、破裂する。その様子を視界の隅に捉えながら次々と撃ち続け亡者達を塵に変えていく。

 だが、亡者の数は銃弾数より多いため、カチンという甲高い音がなった。それを合図に、残り9体の亡者が3組に分かれて青年へと駆けてくる。

 その時、青年の後方からカチャ、という拳銃独特の金属音が小さく聞こえた。

 青年はすぐ背後にいる存在を理解し、射線軸に入らないように移動する。同時に後方から3発の弾丸が亡者たちに向かって飛んでいく。

 3発の銃弾が前方の亡者に撃ち抜いた瞬間、上半身が四方八方へと飛散して消え去った。そしてまだ加速している弾丸は奥にいた6体の亡者に命中し、爆散した。

 しばらくして周囲に何の変化もないことを確認すると、青年は亡者の終わりを見届けてから後ろを振り向いた。

 すると暗闇の中からショットガンを持った青年と同じ青いジャケットに黒いグローブを着けた長い髪の女性が現れた。


「……無事だったようね、コード01。いえ、桐島刀夜隊長」

「ったく、コード03。さっきのはちょっと危なかったぞ、……幾島祭隊員」


 本来ならば彼らの仕事は、関係者以外には秘密にするため名前を呼んではいけないのだが、青年と女性は互いに名前を呼び合い確認を取った。

 何せこの者たちの仕事は、国内、特に首都である東京の心霊対策を主任務とする環境省の秘匿部署「異常災害対策室特殊戦術班」に所属している退魔師なのだから。


 そしてこの交差点は今、日常とは不釣り合いな硝煙の匂いで溢れ、さながら戦場と錯覚してしまいそうな光景が広がっていく。


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