表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アゼルキナ砦の魔術師  作者: momo
特別任務(?)
46/79

その33




 何の問題もなくクリスレイアを送り届けた後、フィオは不安を抱きながらも危険人物と二人きりで帰路につく。口も態度も呆れるほど軽い男だが、セイは約束通りフィオに妙なちょっかいをしかけて来る事はなく、二人は往路同様のどかな景色に視線をおくりながら無事砦に辿り着いた。


 なんだかんだと言いながらも結構楽しい時間だった…かもしれない。素直に旅の感想を述べればセイが調子に乗るのは目に見えているので絶対に口にはしないが。


 到着するなり騒がしくなった。

 砂埃を撒き上げ全速力で走り寄って来たガレットには思わず引いたが、フィオを心配し何事もなかったかと大きな男が背中を丸めるその様子に、フィオはヴァルに言われた言葉をまたもや思い出してしまう。

 何もされなかったか、いや、出立してから到着するまでを事細かに報告しろと詰め寄るガレットにフィオは苦笑いを浮かべた。


 「ガレット隊長に娘が生まれたら、絶対に嫁にはやらんってタイプの過保護な父親になりそうですね。」

 「むっ、娘っ?! いや、俺達はまだそんなっ!!」


 何を想像しているのかガレットは真っ赤になって大量の汗を溢れさせる。その様子にフィオは首を傾げ客観的にガレットを観察してみた。


 俺達というのはつまり…ガレットと自分なのか、それとも他の誰かを指しての事だろうか。

 馬を下りたセイが今にも吹き出しそうな表情でこちらを伺っており、ここでまともにガレットの相手をしていたらまた面倒臭い事になるなと感じて早々に引き揚げようと決めた。


 とにかく彼は真面目で融通が利かない堅物なのだ。隊長であるガレット自らが何時までたってもしつこくつき纏って来るのには、心配ばかりかける頼りない自分にも責任がある。確かにガレットは頼りになるし、それに甘えていれば楽に過ごせるだろう。しかしそれでは何時までも進歩できないままだ。


 「取り合えず司令官殿へ報告して来ます。」


 ガレットを気にしてばかりいられない。

 さぁ行くわよとセイを急かしたフィオの様子に、これまでと違って二人の距離が近すぎやしないかとガレットは嫌な予感を抱く。勿論その予感はガレットの取り越し苦労で完全に外れているのだが、ガレットは勝手に落ち込んで一人悩みに耽るのだった。


 



 *****


 そんなやり取りが繰り広げられているちょうどその頃、司令官室に篭るカイルは執務机におかれた一枚の封筒を難しい顔でじっと眺めていた。

 

 王都から届いたのに皺一つない真っ白な封筒。カイルの下に届くまで多くの人の手が触れたであろうに汚れ一つ付着していていない奇妙な封筒の差出人は宮廷魔術師団の長からだ。


 彼より最初の手紙がカイルに届いたのは、砦にて一騒動起こしてくれたクインザがそれを持参した時だった。以来魔術師団長からアゼルキナ砦司令官に宛ててきっちり十日に一度、けして遅れる事無く届くようになった手紙。それを見詰めるカイルは「ううむ」と唸りを上げていた。


 相手は格上かつ得体の知れない魔術師団長、未開封でゴミ箱に放り込む訳にはいかない。過去にはそれで大きな荷物を背負う羽目に陥ったので、書類をゴミ箱に放り込むのには慎重にもなる。当然返事も書かなくてはならないのでこの数カ月、カイルは面識のない不気味な相手とどういうわけだか文通する羽目に陥っていた。


 手紙の内容は毎回ほぼ同じで季節の挨拶に始まり、フィオとの思い出話に移る。そして最後にはフィオを気遣う内容と彼女を宜しく頼むとの言葉で締めくくられるのだ。


 いつもだ、何時もそう。季節の挨拶と思い出話には僅かな違いが認められるが、他はまる写しだろうと突っ込む程に一言一句変わらない。十日に一度送り付けられて来るこの封書が面倒くさくて一度無視したら、まるで呪いの様に立て続けに送られて来る嫌がらせにあってしまったので二度と無視するつもりはなかった。


 ならば早々に封を解いて中を確認し返事を書けばよいのだ。季節の挨拶にリシェットは元気でやっていると一筆すれば問題ない。そう、そこは問題ないなく、そもそもの問題は目の前の封筒自体にあった。


 開封した途端、封筒の中から薄っすらとした煙の様な灰色の何かが一瞬だけ溢れだすのだ。最初の頃は見間違いかと思って気にもしていなかったが、封を開けたその日一日なにかしらの不調が体に起きるのに気付いた。耳鳴りや倦怠感、軽い筋肉痛といった生活には特に支障がない様なものだが、原因が封書にあると感じて開封を止めれば、激しい頭痛に襲われそれは封筒を開くまで治まる事がなかった。

 

 だからこそ捨てられない。未開封で燃やしでもしたら己が命の危険さえ伴うだろうと身震いする。いっその事フィオを都に強制送還しようかとも本気で考えたが、彼女の異動だけはカイルの独断で決定できなかった。それなら何かしらの理由をつけフィオを王都へと使いに出せば、その間だけでも呪いの手紙が来なくなるのではないだろうか。

 一度里帰りさせれば魔術師団長の気も済むかもしれない。

 

 これは意外に妙案かもと、カイルは急ぎの書類でもないかと机を漁り、無いと解ると何かしらの理由をと必死で考え出した。もういっそ魔術師団長への返事をフィオに持って行かせてもいいんじゃないかとさえ思ってしまう。椅子に背を預け腕を組んで両足を机に置き必死で考えるカイルのこめかみに、『つきり』とした痛みが走り、カイルは慌てて姿勢を正して皺一つない封筒に視線を落とした。


 「まずはこっちが先だな。」


 さっさと開封し返事を書かねば呪いがカイルを襲って来る。じわじわと来る体の異常はやがて健康な精神も蝕みかねず、得体の知れない強大な相手へ恐怖を抱きながらカイルが手紙を開封しようと手を伸ばしたちょうどその時だ。

 ノックもなしに扉が開かれると同時に「ただいまぁ~」と呑気な声が疼き始めたカイルの耳に届く。その後ろからは「ちょっとノックくらいしなさいよ!」と前を行く男を諌める高い声があがり、黒髪の魔術師が姿を現した。

 来たな騒動の元凶、そして希望の光。


 「失礼致します司令官殿、只今戻りました。」

 「おお待ちわびたぞリシェット。」

 

 文句がでようがどうだっていい。それにリシェットだって長旅となる任務に就けば遠慮も何もなく風呂に入り放題で感謝するだろう。たとえそれが内容のない手紙の配達だとしても受け取った相手にしか解らないのだし、都に戻った先で魔術師団長に回収されそのまま宮廷魔術師に逆戻りとなってもそれはカイルのせいではないのだ。


 もしかしたら厄介事が一つ減るかもしれない。

 カイルはほくそ笑みながら一先ず頭痛を消そうと封に手をかけた。


 「それはもしかしなくても魔術師団長様からですね?!」 


 カイルが手紙を手にした瞬間フィオがぎょっとして声を上げ、カイルはおや? っと器用に片方の眉を上げた。


 「なんでわかんの?」


 不思議に思ったのか勝手に椅子に腰かけているセイが疑問をぶつける。


 「師団長様の魔力を感じます。嫌な予感しかしないのですが、まさか帰還命令じゃないですよね?!」


 溺愛されている実感のあるフィオは冗談じゃないと頭を抱えた。

 確かに帰還命令(願望)ではあるだろう。地味にカイルをつついてきている辺り間違いない。が、そう筆にしたためない辺り魔術師団長がフィオの顔色を伺っている様子が窺い知れた。

 上司が部下の顔色を窺ってどうするんだまったく。帰ってきて欲しければ命令してくれと切に願う。


 カイルはやはりなという思いで手にする封筒を遠ざけた。別にカイルが望んでフィオを引き止めている訳でもないのにこちらへ仕掛けて来るなんて逆恨みもいい所だ。自分ですらこれなのだから、フィオに異動命令を直接下した国王などはいったいどんな報復を受けているのだろうと興味をそそられる。己に降りかかるのはごめんだが他人の不幸は蜜の味だ。


 そこでふと妙案を思い付いたカイルは、手にした封筒を上手い具合にフィオに向かって投げた。慌てたフィオだったが何とか受け止める。


 「読んでみろ、お前を心配して寄こしてきてんだ。」

 

 開封した瞬間あの妙な煙の影響を受けるのだ。卑怯だといわれようがこの際どうでもいい。関係者ともいえるフィオに呪いを分けても罰は当たらないだろうと、カイルは未開封の手紙に躊躇するフィオに向かってさっさと開けるよう督促した。

 

 「本当にわたしが開封してよろしのですね?」


 それでは失礼してと、フィオは司令官宛ての封を迷いながら開封する。細い指が封筒の隙間に挿し込まれ封が解かれる様をカイルには息を飲んでじっと見つめていた。フィオの動作がひどくゆっくりに感じたのはカイルが緊張していたからかもしれない。


 「わっ?!」


 封を開いた途端、フィオが手にしたそれは「ポンっ」と音を立て弾け、桃色の花弁となって辺り一面に舞い広がる。


 空気の抵抗を受けひらひらとゆっくり舞い散る花弁にフィオは「綺麗」と感嘆の声を上げ、セイは「成程ね」と何かを悟ったかににやついてカイルに視線を送る。セイに意味あり気な視線を向けられそれを感じながらも、予想に反した結末にカイルはぽかんと口を開いて唖然と花弁を眺めていた。


 「申し訳ありません司令官殿。受取人以外が封を開いたせいで読了前に手紙が消滅してしまいました。」

 

 魔術師団長様にしては粋な仕掛けだなぁと、フィオは床に落ちた花弁を摘んで微笑む。それに対しカイルは、開封したのがお前だからだよと引き攣った笑みを浮かべた。


 恐らく一番に開封したのがセイやその他の不届き者であったなら、爆発の一つや二つ起きていたに違いない。


 この件を切っ掛けにカイルは、フィオの一時帰宅を一刻も早く御膳立てしようと心に決めたのだった。






 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ