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2章♯26 夏の終わり

 2章はこれで終わりです、長かったなぁ……。取り敢えずここまで掲載して、百年クエの章は長いお休みに入ります。間章がまだ全然書けてないんです、筆が進まないったらありゃしない(笑)。

 3章の内容的なモノはほとんど決まってるんですが、文化祭とか体育祭とか、とにかく時間に追われるイベントばかりなので。書くのが大変なうえ、ゲームの進行と絡めるのがすごく大変と言う。

 新キャラも出て来て、何とか目立たせようと画策してるんですが(笑)。


 どうやっても週1での更新は無理なので、ずっと前に書いていた小説を先に掲載する事にします。そちらの方も、どうぞヨロシク!!

 凛君ファンの方は、しばしお待ちを!?

 











 気が付いたら、夏休みは残すところあと3日となっていた。夏は終わろうとしている、全然涼しくはならないけど。いや、夕方日陰にいると、少しだけ過ごしやすいかな?

 そんな季節の移り変わりは、田舎の方が顕著に感じられるのも事実だ。別にそれを知ろうと思って、わざわざ午前から師匠の家に訪れた訳では無いのだけど。

 ちょっと子守りがてら、薫さんにイベントの話など聞きたかったのが事実。


 敷居をまたいで挨拶を交わして、まず思ったのは薫さんが上機嫌だという事。つられて魁南も上機嫌、おんもに出て遊ぼうと、僕に纏わり付いて来るのは良いとして。

 師匠は逆に、何だかやつれている様な……。一週間前のお泊り会では、そんな面影など見当たらなかったのに。奥さんが限定イベントにかまけて、育児放棄してたとか?

 いや、それは多分師匠の愛情の為せる業だろう……と思う。


「いらっしゃい、凜君。今日は向こうの子守りの日だっけ? じゃあ、午前中だけでも魁南を見ててくれるかな?」

「こっちが午後も忙しいなら、魁南を向こうに連れてっても文句は言われないと思いますけど、多分。お泊り会からこっち、園児達みんな協調性が出て来ましたね」

「ああ言うイベントは地域の交流にもなるし、私も大賛成よぉ。仁科さんも、今度はお芋掘りの時期にでもおいでって言ってたよ?」


 それは良いですねと、僕は魁南を抱き上げながら返事を返す。春日野家のお茶の間は、赤ん坊のベットが置かれていて、ちょっと前から間取りが変わっている。

 こんな些細な変化の積み重ねが、家族が増えるって事なんだなぁと、僕はちょっと胸の温まる思い。コレって魁南のお下がりですかと、僕は薫さんに尋ねてみるが。

 それもこれも全部そうよと、何ともエコな返事。


 魁南も昔はここにこうして寝てたんだよと、僕はぐっすり寝ている赤ん坊を見下ろしながら呟いて見せるけど。当の本人は、不思議な顔付きで小さな生命を見守るのみ。

 小さなその姿は、何とも愛らしくて参ってしまう。


 いつの間にか師匠は、ふらふらした足取りで職場の棟へと出掛けてしまっていた。ちょっと心配な僕は、大丈夫なんですかねと一応奥さんに尋ねてみるけど。

 ただの寝不足だから平気でしょと、素っ気ない返事が返ってきたのみ。それより限定イベントどうだったと、麦茶を差し出してくれながら薫さんの悪戯な目付き。

 上位確定の自信の表れかな、良く分からないけど。


「一応は、旗子……フラッグは破壊されずに5日間通しましたよ。でも、正直そんなにたくさん参加してないから、ポイントは微妙かなぁ? 一日平均、4試合くらいかも」

「あら、土日はともかく私達もそれ位よ? まぁ、夜のみのインだったから仕方ないけど。こっちもフラッグは護り通したし、チョー熱かったんだから!」


 母親の盛り上がりに、魁南も楽しそうに追従する。それは良いけど、頼むから僕の膝の上で暴れないで欲しい。フォーメーションはどうしてたのかとの僕の問いに、美井奈ちゃんと半分ずつ護衛してたとの返答。

 弾美さんだけは、常時アタッカーで押し通していたとの返事なのだが。1人でフラッグ護ってて、いきなり3人に襲撃された時の話を、熱く語り出す薫さん。

 我が子の如く護ったよと、物凄い興奮振り。


 ブンブン丸の活動も、これから盛んになって行くみたいねと、楽しそうに話す薫さん。それは良かった、知り合いの活動休止の話は、実はプレーヤーとして一番しんどい話なのだ。

 逆に戻って来たよの報せは、万人の助けを得たような心地良い響きに他ならない。ギルド同士でも交流持てたらいいですねと、僕はさり気無くミリオンをアピール。

 もちろんよと、薫さんの返事も温かい。


 そろそろ魁南が焦れて来て、会話どころの騒ぎではなくなって来た。僕は薫さんに断わって、外で遊ばせて来ますと立ち上がる。それから魁南に向かって、出掛ける用意はと問い質すと。

 パッと頭に手をやって、帽子を取りにと駆け出す幼児。世間ではよく、挨拶やら行儀やらちゃんとしなさいと、怒鳴り散らす保護者を見かけるけれど。

 僕に言わせれば、そんなの自分を叱れって話である。子供は大人を見て育つもの、挨拶やら行儀やらも、慣習に組み込めば自然と勝手に覚えるものだ。

 やんちゃな魁南だって、家に入る時は綺麗に靴を揃えてくれる。


 今も帽子をちゃんと被って、母親に行ってきますと元気に挨拶している。1人で勝手に外に出ない、出る時には家の人に知らせると言う行動も、刷り込みの一つである。

 行ってらっしゃいと母親に言われ、魁南は跳ねるように外に飛び出して行く。こうなってしまったら、僕は家来になるしかない。少なくとも、魁南の中ではそうなのだろう。

 お気に入りのバケツを手に、用水路を覗き込むやんちゃ坊主。


 春先から、この水中探索は魁南のチョーお気に入りらしい。夏になった今は、バケツの底が隠れてしまう程の、オタマジャクシの姿は見えなくなったけど。

 探せば、他の生き物の姿も結構見つかって面白い。僕は持って来たパン屑を、魁南の手に持たせてやる。放り込んでご覧と催促すると、小さな手がポイッとそれを水面に投下。

 しばらくすると、ようやくメダカの群れが喰い付いて来た。


 春にはこれで、オタマジャクシの乱獲を楽しんだ魁南だったけど。さすがにメダカは、素早くて素手では無理っぽい。それでも挑戦する根性は見上げたものだが、多分何も考えていないだけなのだろう。

 僕の渡した小さな網は大活躍、10分後には色んな生き物が赤いバケツの中に入っていた。メダカは数匹だけの捕獲に終わったが、アメンボやゲンゴロウ、大物では亀とか。

 この亀、実は捕まるのは二桁以上に及ぶんだけどね(笑)。


 呑気に与えられたパン屑を食べている亀、僕は勝手にカメ吉と名付けてるけど。亀は助けてあげるとお礼してくれるんだよと、僕は魁南に何度も諭しているお蔭か。

 食事が終わったら、無事にバケツの中身ごと解放された生き物たち。同じ水路に、元気に逃げ延びて行く。捕まえては逃がすサイクルは、一見無駄以外の何者でも無いように思えるけれど。

 子供にとっては、遊びの中から得るものは数限りないのだ。


 そんな風に水際にしゃがみ込んでいた僕らだが、遠くから声を掛けられて顔を上げてみると。ご近所さんが、僕らに向かって手招きしているのを発見。もっとも、田んぼ4枚分も向こう、大声でやっと聞こえると言った程度のご近所さんだけど。

 田舎では、これでも超ご近所の間柄らしい。良く分からないけど、多分そうなのだろう。僕はあんまり話した事無いけど、呼ばれたからには無視は出来ないと判断して。

 僕は魁南を抱え上げて、田んぼのあぜ道を歩き出す。


 抱えられた魁南は、いつもの様にとことん大人しい。高くなった視界から、景色を眺めてご満悦な表情だ。今歩いているあぜ道は、草ぼうぼうでとってもワイルド。

 一応は普通の車も通れるが、土が乾燥している時は砂埃が凄かったりするので。あまり人気のない道である、僕にしたってほとんど使った事など無い訳で。

 取り敢えず辿り着いた、師匠のご近所さんの裏庭。


「お兄ちゃん、この前仁科さん家でお泊り会した人でしょ? 賑やかだったって、近所中で評判だったよぉ? またやりなさいね、今日はこれあげるわ」

「は、はぁ……有り難うございます。わっ、こんなにいいんですか?」


 差し出された大量の荷物は、お菓子とか野菜とか果物のセットらしい。お菓子もスナックとは違う、高級箱入りの奴である。魁南がごそごそと漁り出し、良いんですかと思わず問うてしまうけど。

 息子夫婦の贈り物が、大量に余っているから平気と豪気な返事。


 僕にはいないけど、親戚のおばちゃんみたいだ。地域の活性化とは、つまりは人と人の交流に他ならない。誰だって、寂れていく我が故郷には寂しさを覚えるモノだ。

 その点、こんな辺鄙な土地にいきなり住み着いた師匠は、最初は変わり者扱いされていたようだけど。子供の出産に至って、どうやら垣根は見事に消失したようだ。

 僕もその一員だと、認識されているのは喜ばしい事かも。


 僕らが世間話をしている間、魁南は珍しい物が無いかとあちこち嗅ぎ回っていた様子。細身のネコが、ビックリしたように小さな闖入者を動きを止めて眺めている。

 たまに外で見掛ける子だけど、この家のネコだったのか。鈍い人間になど捕まるもんかと、そいつは素早く脱走を図る。嬉しそうに声を上げて、魁南がそれを追い掛け回す。

 確かに子供のいる風景って、和むなぁと思った瞬間だった。





 オフ会は、むしろ厳かな雰囲気で始まった。今回は珍しく、部外者は混ざっていない。純粋なギルメンだけの集まりだが、だからと言って特別な意味合いなど皆無だったり。

 むしろ、夏休みを名残惜しむ感じで、学生組が声を掛けて立ち上げた会合である。逆に社会人組は、仕事に忙しくて大変だったよと愚痴をこぼす会みたいな側面も。

 とにかくそんな集まりなのに、何故か皆が改まった表情。


 場所が悪かったのかも知れない、いつもの居酒屋の昼コースならもう少し寛げたのに。ちょっと変わった場所を取ろうかと、神田さんがコネを利用してくれて。

 繁華街の中華料理店の、個室を何故か予約出来てしまったみたいで。つまりは今いる場所なのだが、学生組は尻込みする位には食事も部屋も豪華だったりして。

 これでお一人様1500円とは、かなり破格なお値段である。


「美味しそう……料理は、まだまだ出て来るんでしょ?」

「コース頼んだから、最後はデザートで締めの筈です。ほら、このお茶も味は変わってるけど、体には良いらしいですよ、稲沢先生」

「破格ですねぇ、先に料理を楽しんじゃいましょうか? 夏を乗り切ってお疲れ様でしたって事で……沙耶ちゃん、ギルマスって事で音頭取って!」


 僕の振りに、やや放心気味だった沙耶ちゃんに活力が戻って来た。贅沢に並べられたテーブルの大皿から目を離し、短く夏を乗り切ってお疲れさまとのたまう。

 これに呼応したメンバー、元気にお茶で乾杯の合図。


 それからは、ようやく滑らかな口調を取り戻すメンバー達。稲沢先生に、愚痴聞きますよと僕が話を振れば。出て来る出て来る、大変だった夏季講習のあれこれ。

 子供は暇にしちゃ駄目よねと、学生達のパワー恐るべしと気苦労を喋り始める先生だけど。それは僕も同じ意見だ、子守りの度に内心思う事である。

 もっとも僕の受け持つ園児達は、行儀が良くてひたすら助かってるけど。


 夏休みと言う事で、塾でもキャンプに出掛けたりと色々と行事をこなしたそうで。それもとにかく大変だったと、楽しむだけでは終わらないのは指導役の常。

 何かあったらと言う重圧に、とにかく気力を蝕まれたようで。


 めげずに良く頑張ったよねぇと、優実ちゃんはお酌をしながら先生の愚痴に一々頷いてる。実際こんな些細な同情でも、心の負荷は解れて行ってしまう訳だ。

 聞き上手だなと、僕は思わず感心してしまう。もっとも、優実ちゃんがコップに注いでいるのは、ただのお茶だけど。何故か酔っている様な先生の態度は、如何なものか。

 多分、頑張った自分と今の雰囲気に酔っているのかも。


 神田さんも、お盆前後は仕事に追われて大変だったと目を細めて振り返っている様子。花屋さんは、8月と12月は特に忙しくなるらしいのだ。

 それを乗り切った事への達成感と、後はそれでも時間を作って遊んだ海水浴を思い出しているみたい。楽しかった事と、辛かった毎日のバランス、それを報告出来る仲間達。

 幸せですねと、改まって言われても僕はひたすら困るけど。


 その気持ちは良く分かるし、飴の無い鞭ばかりの生活など続く訳がない。幸せだと思えるギルドを構成するのは、何も僕だけの役割では無いのだし。

 ただし、その一員である限り、精一杯の雰囲気作りには貢献したいモノだ。


「それじゃあ、食事の途中だけど……今までの反省とか、これからの目標とか話し合う? 個人での目標でもいいし、私生活でもギルドでの活動目標でもいいけど」

「いいわね、それ……じゃあ私から行こうかなっ? ギルドの一員になって、大きな目標の騎乗スキルを取得出来ましたっ! 次は盾のレアスキルを獲りたいっ、それでギルドに貢献したいですっ!」


 学生みたいなノリでの、稲沢先生の今後の目標の発表。おおっと盛り上がる場から、パチパチと拍手が送られる。それから、プライベートは? と言う優実ちゃんの質問も。

 変顔でそれに応えるバク先生、盾のレアスキルってどんなのと、真面目な質問の沙耶ちゃん。僕も良く知らないが、移動不可になるスタン技とか暫く無敵とか、色々あるらしい。

 確かに盾役の成長は、パーティ戦でも有り難いに違いない。


 次は神田さんが小さく挙手して、領主関連のクエでは本当にご迷惑をお掛けしましたと改まって謝罪して来る。神田さんが悪い訳では無いが、本当に領主関連のクエは難解なモノが多かった。

 そのせいでパーティで死にまくって、その事を謝罪しているのだろうが。恩恵もたくさん貰ったし、何より館を自由に使わせて貰っているのはこちらである。

 僕のその指摘に、残りのメンバーも笑顔で頷く。


「そう言って貰えると、本当に有り難いです。せめて迷宮の秘宝が、1回で取れていれば良かったのにねぇ……もちろん、報酬はみんなで分けて貰って」

「アレは敵が、とにかく強過ぎてたよねぇ? バジリクスにワイバーンに、後はサンドワームだっけ? バジリクス1匹でさえ、私達ようやく勝てたってのに」

「そう言えば、領主の横やりクエって、まだ放置のままでしたっけ? いい加減終わらせないと、また変な事になっちゃいそう……今週末に、知り合いのギルドに声掛けてセッティングしようか?」

「そうだね、大規模戦闘になりそうなんでしょ? 夏の最後を締めくくるくらい、いっぱい人呼んで盛り上げようかっ!」


 それは良いよねと一通り盛り上がる面々、どこそこに渡りをつけようと、仲の良いギルドのピックアップなど。それからちょっと真面目に、財宝守護者の3匹の敵の突破の方法も話し合う。

 作戦参謀の役目は、このギルド内では僕と稲沢先生がメインである。先生はひたすら、自分があの時は不甲斐無かったと、己のみを責めているけれど。

 沙耶ちゃんの言う通り、バジ1匹でも手に余るようなバランスだったのだ。どうして1人だけを責められようか、どちらかと言えば製作サイドの非常識なバランス感覚を責めるべき。

 そんな事を言っても、詮無いだけなので言わないけど。


 僕にも意見を求められ、それではと幾つかの腹案を差し出す事に。あの敵のバランスは、財宝がかなりのお宝の集まりだと言う証拠、なのでコレはどうしようもない。

 つまりはこちらの強化だが、僕が以前に持っていた《封印》のような強力なスキル技があれば、マラソン程度には持ち込めるはず。他にも色々、単純に人数を増やすとか。

 只でさえ、今はフルメンバーから1人欠けたパーティ構成で冒険しているのだ。ただし、カンストキャラだと、補正がどう影響するか分からないので僕的には遠慮したい。

 後は本当に、皆の地道な強化に頼るしか。


「なるほど、人数を増やすって考えなかったなぁ……何でだろ?」

「多分だけど、今のメンバーに満足してるからじゃないかな? 変に人を増やして、今の雰囲気壊したくないって思ってるんだよ、無意識の内に」

「そうかもねぇ、そうだとしたらジレンマだよねぇ? 確かに1人増えただけで、パーティは戦力的に大きく増強されるけど。今の良い雰囲気は、失いたくないよねぇ」


 稲沢先生の言葉に、そうだよねぇと同意の言葉が多数上がって。それでも増えるとしたら、前衛か支援系がバランス良いかなぁと、夢見るように溜息一つ。

 確かに、ウチのパーティのバランスは、前衛のパワーがちょっと弱い。後衛に削りのパワーが傾き過ぎると、タゲが防御の弱い方へと移動してしまう事態に。

 前衛の削り手なら、ある程度のタゲ移動を見越して装備にも気を遣っている。元々サブ盾の役割も視野に入れてるので、少々殴られても平気な仕様なのだ。

 ところが後衛は、得てして装備は紙きれ同然で怖いのだ。


 そこは僕のキャラの弱点でもある、つまりは瞬発力のある削り不足って意味だけど。変幻タイプ全体の弱味でもあるが、ある程度は2つの宝具級の武器によって補われてはいる。

 まだまだスキルでの伸びは見込めるし、レベルが上がれば攻撃力も自然と上昇する筈ではあるが。今の時点では、僕のパーティでの役割はスタン要員に他ならない。

 前衛アタッカーを自負する立場としては、これはいただけない現状だ。


 そもそも、後衛の2人も急激なレベルアップで攻撃力が上昇している訳だ。要はパーティ内のバランスの問題なので、こちらもそれ以上のパワーを得ないと厳しい。

 僕はそれを踏まえて、自分のキャラの成長を皆の前で誓う事にした。スタン要員だけでなく、パーティの安定を供給出来るキャラ作りをこれから目指すと。

 皆が拍手で応えてくれて、照れながらも僕は新たな決意を1つ得る。


 先生を始め皆からは、僕の信頼は高いようなのだけど。堅実なスタン止めとか戦闘の音頭取りとか、咄嗟の危機回避の判断だとか。何よりギルドの支柱役として、さらにはイベント進行役として頑張ってくれているとの言葉を貰って。

 そうだと嬉しいな、他人の評価は自分では良く分からないものだ。


 沙耶ちゃんと優実ちゃんが最後に、約束してたレベル150到達が果たせなくてごめんなさいとの謝罪。途中でどうにも、苦しいハードルだと判明したこの目標だが。

 2人のレベルは、どうにか130に到達した感じで。それでもこの短期間で、20以上のレベルアップは大したモノ。僕もご相伴に与って、152まで上げる事が出来た。

 先生と神田さんは、良く頑張ったと苦労を讃えてくれて。


「それにしても残念だなぁ……もう夏休み終わるから、一気上げは当分無理だよ。環奈にすら追い付けなかった、こっちが優位に立つチャンスだったのにっ」

「それでも大したモノだよ、実際に最近のパーティじゃ、危うく沙耶ちゃんにタゲを持ってかれそうになるもん。武器スキルも急激に上がったんでしょ?」

「元々銃は、両手武器の中でも強力な部類に入るからねぇ。順調に育てれば、こうなるのは自然の流れなのかも。でもせっかくのパワーを発揮出来ないのも、確かに勿体無いよね」


 だからこそ私も、強力なタゲ取り手段を何とか手に入れなくちゃねと稲沢先生。真面目な性格だけに、こう言う所で手抜きは出来ないみたいである。

 それから話は、沙耶ちゃん達への質問に。何か良いスキルか魔法、取れたかとの談話になって。ギルドの方針としても、新生パーティでの100年クエスト再開を打ち出して。

 早速手掛かりの洗い直しと、妖精の里を進める事に話はまとまって行く。


 手掛かりと言えば、キャラバン関連のクエが結構溜まって来ているって事情が。それを進めて行けば、また新たなダンジョンの手掛かりが得られる筈である。

 次の100年ダンジョンも、かなりの難易度で待ち受けているに違いないだろう。もっとも、入るまでも大変なのはこの一連の難解なクエストの特徴ではあるが。

 他にも、ギャンブル場の10年Dで入手した、尽藻エリアの地図付きの変な呼び水も持っていた筈だ。それも恐らく、次の種族クエへのヒントの様な気がする。

 後は……龍人のチケットを失ったのは、かなり痛かったなぁ。


 過ぎてしまった事は仕方ないが、あんなに難易度が高かったとは。中型ドラゴンのオンパレードのお迎えに、嫌な仕掛けの詰まった迷宮。趣味が悪すぎ、本当に洒落にならない。

 それでも多分、アレも表か裏の5種族のどれかのヒントだったのだろう。その内に、何とかもう一度チケットを手に入れないと。こちらも力をつけたのだ、今度は簡単にリタイアなどしない自信はある。

 自信はあるが、確信は無いのが辛い所だ。


 話はそれから、またギルド員で遊びの予定を立てようとか、2学期の学校行事は何があるとか色々。体育祭も文化祭も、僕らの学校は全て2学期に行われる。

 学校が始まれば、そっちの行事関係で忙しくなるが、それは仕方の無い事だろう。食事を進めながら、先生のいいな攻撃が始まるのを受け流しつつ。

 学生だって、そんなに気楽な稼業でも無いのは確かだ。過ぎ去った時間が、想い出を美化させているだけ。稲沢先生にそう返すと、それじゃあ交替してくれと絡まれた。

 そりゃ無理だってばと、沙耶ちゃんの突っ込み。


「先生って、酔ってないのに絡むから性質が悪いよね。そろそろ実生活も充実させればいいのに、そしたら愚痴も少なくなるよ、きっと」

「放っておいてよ、嫌味だね、凜君はっ! 自分だって、昔はウジウジしてた癖にっ!」

「それこそ放って置いて下さいよ、少なくとも今の僕は充実してますよ。そうだ、次のギルドのお願い、稲沢先生の番にして貰えは良いじゃないですか?」

「ああっ、そうだねぇ……神田さんの分は100年クエの終わりで区切りがついた事にして、次はバク先生でいいと思うよ、私も」


 ギルマスの沙耶ちゃんの言葉で、ギルドの持ち回り希望取得は稲沢先生の番に決定。それを特に喜ぶ風でも無く、盾レアスキル以外、何かお願いあったかなぁと顔を顰めるバク先生。

 これはちょっと、重症かも知れないなと僕は心配するのだが。テニス教室や海水浴の時には、かなり楽しんでいた感じだったのに。みんなで遊ぶ時と、仕事が終わって独りになる時間、その落差が精神の安定を蝕んでいるのかも知れない。

 でもそれは、大なり小なり皆が体感する事でもあるし。


 食事会はその後も盛り上がりを見せ、ちゃんとお願いを考えておいてねと、先生の話題はそれで終了。神田さんが海水浴の時の写真を取り出して、今度はそっちに話題は移って行って。

 賑やかさは減じる事無く、話の内容もあっちに飛んだりこっちに踏み込んだり。僕らも少なくなった夏休みの日程を忘れ、今のこの瞬間を思い切り楽しむのみ。

 夏休み最後のオフ会は、こんな感じで過ぎて行った。





 お昼のオフ会で新たに指針を立てた、我ら『ミリオンシーカー』のメンバー達だけど。それを行なった水曜日の夜、つまりは夏休み終了間際の30日の事だけど。

 ついでにオン会も開いちゃおうと、溜まっていたトリガー大放出のお祭り騒ぎを企画して。レベル上げとかお手伝いに、お世話になった人も招こうかとの話になって。

 とにかく賑やかに行くよと、ギルマスの威勢の良い言葉。


『平日だから、お招きに集まったゲストも少ないけど。トリガー放出するので、ドロップの分け前楽しみにしててね。そんな訳で、今夜はメルと薫さんと……恵さんと美井奈さんが来てくれました』

『今夜はよろしくね~、お招きに甘えて来ちゃったけど。えっと……ギルド仲間の美井奈ちゃん、暇そうだったから思わず呼んじゃったw』

『全然オッケーですよ、薫さん。今夜は楽しんで行って下さいね~♪』


 ギルマスの沙耶ちゃんの言葉に、メルと恵さんも無難に挨拶を返してくれたのは良いが。美井奈と紹介されたミイナさんってキャラに、初めて会う人たちは興味津々で。

 それもその筈、とにかく衣装が派手と言うか武器の造形も同じくそうだけど。恵さんが、この2人は限定イベントのブンブン丸チームだよねと質問して来た。

 今や時の人となったこの2人、確かに悪目立ちする存在かも。


『ちょっとリアルで、ブンブン丸の団長さんやギルド員さんと知り合いになってしまいました。薫さんのツテだけど、これからも交流が増えるかもなので。今夜はその取っ掛かりと言う事で』

『う~ん、ライバルを謳ってる私の立場は微妙だな。でも別に誰に怒られる訳でも無いし、まぁいいか。愛理はごちゃごちゃ言うかも知れない。その時は庇ってね、凜之介』


 愛理さんの怒りの対処など、僕がどうこう出来るレベルではない。言いたい事は、まぁ分かるけどね。恵さん的には、ライバルギルドと仲よく遊ぶのは体裁が悪いらしい。

 薫さんの方は、特に何とも思っていないみたいだけど。美井奈さんにしても、優実ちゃんのネコ耳と尻尾に凄い喰い付きを見せている。次いで銃を撃つ時のモーションの話になっていて、ミーハー丸出しな会話が僕にも届いて来ている。

 こんな浮かれた人でも、実は限定イベント負け無しだったらしい。


『えっ、ミイナちゃんって対人戦で1回も死ななかったの? 凄いなぁ……私は結構、何回も倒されちゃったよ? へええっ、後衛なのに何でっ!?』

『ふふふっ、私のキャラは弾美兄ちゃまのプロデュースで、死角のない強力なユニットだったりするんですよっ! その一端を、ちょっとだけお見せしましょう!』

『美井奈ちゃんのペットは、ギルド員の中でもトップを争う頼もしい子だよw 何て名前だっけ、美井奈ちゃん?』


 雷華ちゃんですと、紹介されながらポンと出現した美井奈さんのペットは。何と、僕と同じタイプの、キャラにくっ付いた付属ペットらしい。その形状は可憐と言うか、頭に幾重にも重なった花飾りが乗っかっているような。

 良く見れば宙に浮いているのだが、頭から背中に掛けてガードしている風にも見える。綺麗なヴェールの様な形状だが、その能力は飛び抜けて凶悪だとの事。

 ちょっと気になって来た僕は、動画をもっとチェックしていればと微かな後悔。


 だってそうだろう、キャラにぴったり寄り添うその形状は、僕のホリーナイトと同種を匂わせる。今後の育成方針とか、取得可能なスキル技とか分かったら、どれだけ頼りになるか。

 出来ればその戦闘風景を、直に見てみたいのだけれど。


 女性同士の打ち解け合いは、こちらが驚く程に素早かった。特に優実ちゃんと美井奈さん、変なノリで軽いトークが続いていて。他の面々も薫さんを中心に、限定イベントの成績が良かったら祝勝会開くからねとのコメントを受けて。

 あの普段全く感情を表に出さない恵さんすら、それは是非に伺いたいと申し出ていて。ただ単に、ただ飯を食べる機会に誘惑されただけかも知れないけれど。

 ギスギスするより余程まし、女性陣の舵取りはこのまま薫さんに任せよう。


『それじゃあ、ウチのギルドが企画発案と言う事で、薬品類とか足りないのあれば配りますね。盾役はバク先生で、スタン役は僕がメインかな? 後はヘイトを取らないように、適当に削りをお願いします。後衛が多いので気を付けてね』

『それは了承出来ないかも? ミイナちゃんの弓矢と私達の銃、どっちがダメージ出るか競争する事になってるもんw』

『負けませんよっ、でもパーティに迷惑を掛けたらダメw』


 喧々諤々、どうなる事やらと怖い想像ばかりが脳内に膨らむけど。ボクはどうしよっかと、メルの立ち位置の相談には。スタン役出来るかなと、ちょっと重大な役目を振ってみる事にして。

 メルのキャラ操作の曖昧さに反比例して、キャラ自体は優秀な何でも屋さんに育ちつつあるのが面白い。父親とのNM戦では、回復役しか与えられない少女だが。

 僕らと遊ぶ時は、魔法剣士の操作を練習していたりして。


 それに伴って、魔法剣士に不可欠な強化魔法やダメージカット魔法、細剣のスキル技でも便利なのを取得していたりして。つい最近も《Z斬り》と言う、優秀なスタン技を覚えたばかりらしい。

 実戦で使うのは初だが、この際これも勉強だ。幸い、今夜は僕が補佐に廻れるし、バク先生も強烈なスタン技を持っている。仲間にそれとなく了承を得たが、返って来たのは温かい応援の言葉ばかりで。

 それを聞いて、頑張るぞと意気込む少女。


 最初は軽いのから行こうかと、メルの練習も兼ねて初期エリアのトリガー使用を決定する。皆で移動しつつ、和気藹々な会話がそこかしこで飛び交っていて。

 僕らのギルドの持っているトリガーは、大半は冒険と賭けの報酬で得たものだけど。夏の納涼イベントの、景品交換で得たものなんかも混じっている。100年クエスト関連で得たのもあるし、ちょっと手強いNMも混じっているかも知れない。

 そこはまぁ、対面してのお楽しみ的な。


『それじゃあ行くよー……あっ、沙耶ちゃん。一応オン会の開会の挨拶を』

『始めま~す、死んじゃダメよ、メル!』

『死なないよっ、ちゃんと魔法も掛けてるもんっ!』


 その魔法の効果時間を気に掛けず、いつの間にか死んでいるのがメルの毎度のパターンなのだが。水種族の後衛仕様なので、体力も自慢にならない程に低いし。

 私も復活魔法持ってるから平気と、万能振りをアピールする美井奈さん。沙耶ちゃん達と後衛に陣取って、闘いが始まるのを今や遅しと待ち構えている。

 薫さんと恵さんも、バク先生の隣で準備万端な様子。


 先生のトリガー投入から、闘いの火蓋は切って落とされた。出現したのは巨大な体躯の人型のゴーレム。堅そうな鎧を着込んでいて、手には巨大なハンマー装備。

 それが先生の盾に、ゴツンとぶち当たる。


 こちらの反撃は、それ以上に熾烈だった。バク先生のタゲ取りスキル技を確認して、前衛と後衛からの一斉放火。巨体が揺れて、大きな唸り声を発するゴーレム。

 ちょっと気の毒になって来た、これは5分も掛からないかも。僕の懸念はズバリ正解で、HP半減からのハイパー化の来る事態の早い事。止めるべきスキル技を分担する暇もありゃしない、これじゃあメルの練習にもなりません!

 そんな僕の苦慮と共に、最初のNMは没。


 ドロップは敵の弱さに比例して、当たりは金のメダルと光の術書くらいのものだった。後で一斉に分けようかとの話し合いで、次の出現ポイントに向かう僕ら。

 メルは自分のスタンが効いていたのか、全く分かっていなかった様子で。リンリンのが効いてたのは見て分かったけどと、スタン役の重要性は理解している模様。

 その通り、特殊技を止め損なってパーティ全滅だってあり得るんだぞ。


『えっ、そんな重要な役割なの、スタン役って? し、知らなかった……!』

『NMの特殊技は、凶悪なのが多いからね……範囲ダメージ程度ならともかく、呼び寄せとか範囲石化とか、一瞬で状況が悪化するパターンは多い』


 恵さんの説明に、やや青褪めた感じを受けるメルだったけど。練習しないと上手くはならないと、続けて容認の言葉を貰ってからは。頑張ってみると、根性のあるところを見せて来る。

 実際、メルは我が儘全開に見えるけど、実はなかなかの努力屋さんだ。キーボードの鍵盤タッチも、僕に言われるまでも無く、毎日の課題にしているみたいで。

 上達の楽しさはとにかく、上手く弾けないもどかしさを乗り越える気力を持っているのは確か。僕がそう言うと、今度ウチのピアノ弾いてみてよと沙耶ちゃんの言葉。

 少女はニヒヒと笑って、また妹と遊びに行くねと口にした。


 とにかく次は、新エリアのトリガーである。敵も強くなる筈だが、その程度具合までは判断が付かない。だって『ビックリ箱の呼び鈴』との名前からは、強さは想像しにくいでしょ?

 これは納涼イベントの、確か景品から得た奴かも。僕の曖昧な入手方法に、お化けが出て来るよと脅かすような薫さんの発言。ウチの盾役、そういうの苦手ですと僕の注釈に。

 猛烈な反論、そんなの得意な女性などいないってば!


『その勢いで、盾役お願いしますねバク先生。それじゃあ、みなさん戦闘準備オッケー?』

『オッケー、それって私が景品交換した奴かな。何か面白いアイテム落とさないかなぁ?』


 見た事のない敵が出たら、その可能性あるかもねと薫さんの返事だが。そんな敵に対すると、どの技をスタンで止めるか戸惑うのが、地味に恐いし痛かったりする。

 その懸念は本当になり、僕らが対面したのは訳の分からない形状のNM。


 そいつの見た目は、ビックリ箱と言うだけあって箱状だった。真っ赤なリボンで綺麗に結ばれているが、箱自体はやたらとデカい。そして目立った行動は一切ナシと言う。

 バク先生が、戸惑いつつも挑発スキルを撃ち込んでみる。そしたらようやく、そいつはアクションを見せた。箱の上部がバカッと開いて、3本首のヒドラが出現したのだ。

 大慌てで、加勢に入る残りの面々。


 強敵かと思いきや、そいつは弱かった。さっきの初期エリアのゴーレムよりも弱かった。当然、時間も2分と掛からず終いとなって。訝しむ面々に、倒されてドロンと煙を吐くビックリ箱。

 後に出て来たのは、さっきより一回り小さいかなと言う感じの、今度はピンク色のリボン付きの箱箱だった。開けてみてよと、緊張感のない優実ちゃんの言葉に。

 何故か素直に従ってしまう、正直者のメルだったり。


 今度箱から飛び出して来たのは、巨大な首長竜だった。不意を突かれたメルは、軽くふた撫でであっさり昇天。中から報酬が出て来ると思ってたメルは、批難轟々。

 それは優実ちゃんも同じで、慌ててメルに復活呪文を唱えつつ。プレゼントはどこに行ったのと、訳の分からない言葉を発していたり。タゲを取り戻した先生が、ビックリ箱だからねぇと悟った物言い。

 そんなの狡いと、メルと優実ちゃんの引っ掛かりコンビの批難だが。


 油断し過ぎだよと、僕はお灸を据えるのを忘れない。これも年長者の役割と、進歩の見られないメルの前衛振りを批評する。まぁ、こんな仕掛けは、誰かが引っ掛かった方が楽しいのだけど。

 お姉さん連中が、しきりに少女を庇うのも計算済み。飴と鞭と言うか、叱りっ放しでは後味が悪いのも確か。復活したメルに、衰弱終わるまで下がっててと言い終わる前に。

 いきなり箱の全面が開いて、今度は立派な角を持つ恐竜のチャージ技が炸裂。


 喰らってしまったのは、衰弱状態で弱り切っていたメルその人。耐えられる訳も無く、あっさり本日2度目の昇天に。唖然とした雰囲気の後、それは無いでしょうと完全にプッツン状態の前衛陣の怒りの咆哮。

 哀れな脅かし役の恐竜は、何と30秒も持たずに昇天の憂き目に。後衛から2度目の復活呪文を貰う少女は、誰に怒って良いのか分からない脳天スパーク状態。

 モニター前で、暴れていなければ良いんだけど。


 結果として、箱から首上だけ出現していた首長竜は、まあまあの強さだった。サプライズを含めて、こんなモノかなと言う程度。そして倒されると同時に、再度出現の四角い箱。

 今度は少し小さいサイズで、リボンは青色に変わっている。何とか復活を果たしたメルは、それを見て思いっ切り後衛陣の居座る場所まで下がってしまった。

 メル開けないのと、沙耶ちゃんのからかいの文句にも。


 今度は別の人が開けてと、おカンムリな物言いを返すのみ。ちょっと笑える風景だが、少女の気持ちを察してか、からかう人はそれ以上現れない。

 僕もここは沈黙がベストかなと、開ける役目を担おうと前に出たが。恵さんが今度は自分ねと、良く分からない理屈で割り込んで来て。バカッと開いた箱、そして案の定の戦闘の始まり。

 まだまだプレゼントは貰えない様子、女性陣からブーイングが響き渡る。次に出て来たのは、死霊の塊みたいな変なモンスター。不定形で、箱の上部からにゅるんと飛び出している。

 呪いに気を付けてと、バク先生が注意を飛ばしつつ、タゲを取っての戦闘開始。今度の敵は、出現した中で一番強かった。呪いの散布もそうだが、特殊技も凶悪なのが多い。

 それを潰しながら、メルにスタン役の勇士を見せつけてやると。今度はその技、ボクが担当するねと、元気に前衛に飛び込んで来た。実は拗ねて、さっきまで後衛に佇んでいた少女。

 機嫌が直った様子を見て、明らかにメンバーに安堵感が漂う。


 まぁそれも、ハイパー化が来るまでの話だったけど。一応警戒はしてたけど、つまりはビックリ箱の仕掛けについてだが。今度開いたのは、しかし前面ではなく横の2面だったり。

 変な振り付けと共に躍り出たマミーは、やはり前回の恐竜より遥かに強かった。


『わっ、今度は2匹出て来たよっ! リンリン、どうしよう!?』

『メルはさっきの技のスタン潰しを、引き続き頑張って! 薫さんと恵さん、マミー1匹ずつ引き受けて貰えますか?』


 了解したと、軽快に箱を廻り込んで来た恵さん。僕に絡んでいたマミーを、あっという間に掻っ攫って行く。この辺の臨機応変さはさすがである。反対側のマミーも、薫さんが軽くあしらっているみたいで安心していたら。

 どっちが早く倒すか競争だと、何故か張り切り始める恵さん。よっし引き受けたと、それに男前なコメントを返す薫さん。こんな場所で、ギルド対決などしないで欲しい。

 後衛は呑気に、声援など送ってるけど。


 まぁ、色んな楽しみがあっていいかと、僕は早くも達観した思い。今はメルの指南がメインだ、つまりは今夜の僕の役割だけど。技が来るよと、僕は少女のタイミング取りの手助けをサポート。

 幸い、メルのリズム感は素晴らしく、さすが音楽を習っているだけある。


 音楽を教えているのも僕なんだけどね。そうこうしている内に、メインの死霊とマミーのペアは倒されて行った。マミー退治の勝者は薫さんで、ギルド対決のリベンジは果たせなかった恵さん。

 腐っているかと思ったら、自分なりに手応えは感じていたみたいで。10秒差なら上出来と、何やら納得してはいる様子だ。薫さんはと言えば、ライバル相手にスキル技の繋ぎについて熱く伝授しているっぽい。

 多段スキルでSPを稼いで、どうのこうのと。


 もっとも、薫さんの武器は両手槍なので、両手鎌を扱う恵さんには参考にし辛い面もあるかも。それでも、SP量を計算しながら敵を削ると言う概念は、削り役キャラにはとっても参考になる。

 それこそ、同じ攻撃力だとしても、倒すのに10秒単位で差が出る程には。


『なるほど、スキル技は削るだけじゃなくて、SP補充も考えながら使わないと駄目なんだ。凄い柔軟な考え方だね、さすが古参プレーヤーは違う』

『両手槍は多段スキルが多いから、自然とね。でも本当に、大技1発で終わるより、同じSP量で中技>多段スキル>小技のコンボの方が、ダメージ多い筈だよ?』


 なるほどそうなのかと、後衛陣からも納得したコメントが漏れる。同じSPを使っても、戦果に違いがあるとの考えは、目からウロコが落ちる思いだったろう。

 それはそうと、薫先生による特別講義の最中にも、無視出来ない四角い箱の存在。まだしつこく居座り続けていて、今度の箱のリボンの色は若草色である。

 薫先生、このビックリ箱はいつ終わりますかとの、僕の茶化した問い掛けには。それは私にも分からないw と、お手上げのエモーション付きの返答をくれて。

 飽きて来たから次で終わらせようと、意気込む沙耶ちゃんの言葉。


 本当に、次で終わればいいんだけど。今度はバク先生が箱を開けての、期待混じりの戦闘の開始に。次に召喚が来たら、また2人でよろしくとの掛け声も忘れずに。

 今度箱の上部から出て来たのは、蔦植物モンスターらしい。コイツは多部位持ちで、少々厄介かも。それでもアタッカーの多い編成に、順調に敵の体力は減って行く。

 そしてやって来る、予期していた側面オープン召喚攻撃。


 ところが今度のビックリ箱の仕掛け、何と4面同時オープンと言う奔放振り。ちょっと待てw と、慌てる前衛陣。ホスタさんは痛恨の電話離席中で、メルを除いてこちらの前衛は3人しかいない。

 出て来た敵は、ヤシの実を被ったヤドカリ型謎生物。大きな鋏を2つも所持は、強そうだし防御も堅そうではある。薫さんの叫びは、美井奈ちゃんお願いとの指示で。

 了解と軽快な返事で、余った敵に矢弾攻撃を浴びせ掛ける雷キャラ。


 思わず僕は、ヤドカリ生物を相手取りながらもそちらに目をやってしまった。主人の叫びに、過剰反応しているかのような、頭上ペットの雷華ちゃん。そして披露したのは《フェザーシュート》と言う名前の多段攻撃技だった。

 合計連続で8回の投擲技は、相手の堅さなどモノともせず。


 そこからは、完全に一方的な攻撃となってしまい。それも当然、敵は吹き飛ばし技で近付けもしないのだから。挙句の果てに《極・影縫い》と言う足止め技で、移動すら封じられ。

 一方的な殺戮は、何と僕が同じ仕様の敵を倒す前にケリが付いたっぽい。って言うか、薫さんが倒すのとほぼ同時である、恵さんよりも早い始末振りと来た。

 ペットの《能力吸引》と言うスキル技も、かなり気になってしまったけど。


 この剛腕振りなら、前衛を相手にして無敗も頷ける。弓矢系のスキル技も、かなり強力なのを揃えていたし。両手武器に共通する回転の遅さも、実は全く気にならないレベルで。

 恐ろしいキャラである、恐らく相手に接近を許しても、切り抜ける奥の手を有しているのだろう。そんな集中力の散漫さを突かれ、僕のキャラがピンチに陥ってしまい。

 何してるのと沙耶ちゃんに救われるリン、慌てて気合いを入れ直す僕。


 そんな顛末の末、ようやく倒した4度目のビックリ箱。さすがに皆の意見を総合すると、これ以上のお替わりはやってはいけないレベルとの事。僕も同意見、これ以上はくど過ぎる。

 目の前にある黒いリボンの箱に、しかし近寄る人影は無し。黒って不吉だよねと、自分だって闇キャラの癖にバク先生の言葉。復帰した神田さんが、諦めて箱に歩み寄って行く。

 実はさっきまで、所要で離席していて存在感が全く無かったのだ。


 開けた箱からは例の飛び出す丸い顔、つまりはビックリ箱の仕掛けである。人を馬鹿にしたように、ベロを出して小憎らしい顔付き。ただし今度は、驚かすだけで攻撃はして来ない。

 もう一度神田さんが殴ると、それは宝箱に変身した。


 おおっと、どよめきに湧くパーティメンバー達。中からは、当たりの素材や消耗品などが、結構な数飛び出して来た。報われたねぇと、嬉しそうな優実ちゃんの言葉。

 全くだよとのメルの相槌に、何故か笑ってしまう一同。


『何で笑うのさ、みんなっ? 何がそんなに面白いのっ?』

『何でだろうね、メル。僕には全然分からないやw』


 後で覚えていなさいよと、不吉なメルの口調はともかくとして。こんな感じで順調に、トリガーを立て続けに消費して行く。新エリアを中心に、お気楽パーティは飛び回って。

 それに連れドロップ品はどんどん増えて、これは分配が楽しみかも。夜も段々と更けて行き、そろそろ子供のメルの落ちる時間を考慮しないといけない頃に。

 辿り着いたのは、とある山中にある庵の様なトレードポイント。


 ベテラン陣からは、あれっ、ここはひょっとしてとの期待の声が多数上がる。何がどうなのと、メルや優実ちゃんは皆のテンションの高さの理由が分からない。

 これが最後のトリガーですと、僕の勿体付けた言葉と共に。バク先生が、最後に奇跡のドロップを呼び込もうと、高々と宣言してのトレードを敢行する。

 そして呼び出された敵影に、歓喜の声が重なって響く。


『『『『へそくりニャンコだ~~~っ!!!』』』』


 ――先生の言う奇跡のドロップに、パーティが湧くのはそれから暫く経ってからだった。





 夏休みイベント第二弾、対人戦の仕様を組み入れた『フラッグファイト』は、取り敢えずは無事な終焉を迎えた。メンテが入って開始時期を延長したりのトラブルがあったにしては、まぁ無難に。

 それはプレーヤー達に、様々な影響を与えたし、そうでも無かったかも知れないけれど。参加チームの総合計データによれば、全体の4割ちょっとの参加人数に終わったみたいだ。

 それを成功と呼ぶかは、まぁ微妙な所ではある。


 とにかくファンスカ初の対人チーム戦は終わって、それに伴って月末の31日には総合結果がゲームの掲示板に張り出された訳だ。僕的にはどうでも良い報告、ランクインしていたとしても、多分下の方だろうし。

 それでも取り敢えずチェックしたのは、メールでおめでとうとか今度は負けないとかの言葉を受け取っていたから。椎名先輩や柴崎君や、歩美ちゃんや幹生から届いたメールだ。

 イベントで対戦した相手達は、早々と結果を見ていたらしい。


 我がチームの成績は、何と43位だった。思わぬ善戦かも、フラッグを1度も壊されなかったのが好成績に繋がったのかも知れない。上位者とも闘ったし、個人戦より良い結果には驚いた。

 平均エリア参加率は、そんなに高くなかったのにランクイン出来たのは上出来だ。データによると、100レベル以上の参加チーム数は984チームに上ったらしい。

 その内の何割かは、老舗ギルドが占めていたとしたら僕らの成績は文句無しだ。


 さて、肝心の1位を含めて上位の成績はどうだったかと言うと。前評判通りの結果と言うか、それ以上の波乱が巻き起こったと言うか。簡潔に言えば、どうやら3つ巴の闘いだったらしい。

 その1つは前評判の本命にも上がっていた、ハズミン率いる『蒼空ブンブン丸』の選抜チーム。その対抗に上がっていたチームは、もちろん『アミーゴ☆ゴブリンズ』のハヤトさん達だ。

 その強大な2チームに絡んで来たのが、大穴ギルドの『珈琲無礼区』だった。いや、大穴と言っては失礼か、何しろ前回の臨時対人戦で1位と5位の2名が組んでいたチームなのだから。

 “閻魔”のクルスと“不沈艦”シャンで結成された、特別チームである。


 夏休みの個人戦では、上位陣同士の対決はほとんど無かったのだけど。今回のチーム戦では、何とこの3チームの直接対決が実現した様子である。

 そんな動画が多数アップされていて、これは本当に宝の山である。多分、気にならないプレーヤーはいないだろう。僕も我を忘れて、何度も再生して観てしまった。

 その実況を……いや、今日は順位の発表だけに留めておこうか。


 栄光の1位は、誰もが認める英雄の“黒龍王”ハズミン率いる『ブンブン丸』のAチーム。すぐさま僕は、薫さんにおめでとうのメールを送らせて貰ったけれど。

 やっぱりすぐに返信が来て、祝勝会には呼ぶからね☆との内容に。僕みたいな部外者が、参加しても良いのかなとの複雑な胸中。それでも弾美さんにはまた会いたいし、話も聞いてみたい。

 対人戦にしてもこのチーム、負け無しで終わったみたいだ。


 2位チームの主力“白銀の皇帝”ハヤトや、3位に終わった“閻魔”のクルスでさえ負けは付いていると言うのに。もっとも、その2人を倒したのは弾美さんその人だけど。

 その戦いの動画は、引っ切り無しに誰かがアクセスしているせいか、すこぶる再生が遅い有り様。プレーヤー達に『白と黒の闘い』と名付けられた、壮絶な闘いだ。

 その映像の中継を……いや、それはまた機会があった時にでも。


 そもそも僕の予想では、弾美さんチームも隼人さんチームも入賞圏外なのではと思っていたのだ。だって夏休みの限定イベント、時間を持て余している学生組が圧倒的に有利じゃないか。

 逆に社会人は、3人が揃ってイン出来る時間が極端に限られて来る筈。事実、10位までの入賞チームの7割が、大学生での構成チームだとの噂である。

 月極め課金制のネットゲームの場合、イベント順位で差をつけようと思ったら、やはりイン時間の差が有利に運ぶのは明らかだ。その分ポイントも貯まるし、エリア経験での戦術の幅も増えやすいし。

 アイテム課金制の場合、幾らリアルに注ぎ込んだかで決まる事も多いだろう。それでないと課金の意味が無いし、ある意味分かり易いのも事実である。

 だから僕も、社会人の多い有名ギルドは不利と読んでいたのだ。


 ところが蓋を開けてみてビックリ、そのハンデを撥ね返す高得点を、有名ギルドの選抜チームは上げていたらしい。執拗にマークされても大活躍する、スポーツ界のビックプレーヤーの如く。

 この現象はどんな作用が絡むのか、僕は発表画面を睨みながら推理してみる事に。入賞上位チームは、もちろん負けの数が極端に少ない。優勝したブンブン丸チームなど、キャラ全員が無敗で限定イベントを終えている。これがまず一点。

 それからイン率の割には得点が物凄く高い、これが二点目。


 なるほど、この限定イベントはチームが負けた時のペナルティが、かなりキツイ仕様になっていたっけ。最初は資格はく奪とキツ過ぎて、主催側は恐らくかなりの数のクレームを貰ったのだろう。

 慌ててフラッグ破損のペナルティが、3時間のエリア進出禁止へと変更されたけど。ポイントも減らされていたらしいし、考えてみればかなり厳しい罰則には違いない。

 どうしてもその後は、かなり慎重な立ち回りにならざるを得ないだろう。


 つまりは、勝者と敗者の得点バランスが大きく開く傾向になるのだ。勝者が10P獲得したとすれば、敗者は0(ゼロ)でなく-10Pと言う具合に。

 エントリーしての稼働時間が多ければ良いと言う、簡単な図式のイベントでは無かったのは確かだ。その点では、良く出来たバランスとルールだったかなとも思う次第。

 僕らの好成績も、旗子さんを破損しての減点が無かったのが幸いしたのだろう。


 もう一つ、僕も実際にイベント参加中に思ったのだが、強者人気の高さが半端では無かった事。イベントの成績より、自分のキャラの現時点での実力を知りたがる参加者が異様に多かった気がする。

 そのせいで有名な二つ名持ちのキャラ達は、毎回濃い試合を多くこなしたと言う事実を僕は知っている。僕がはじき出した統計では、普通にエリアインしても偶然に遭遇するのはせいぜい2チームがやっと。

 ところが有名チームは、必然で多数の敵とまみえていたのだ。


 それをズルいと考えるか、無鉄砲と罵るかはこの際置いておくとして。実際彼らはその強さを誇示した訳で、それが限定イベントの上位入賞に結びついたのだろう。

 強さを持たない者には決して真似の出来ない戦術、考えれば立派かも。


 とにかく参加者は、伝説級のキャラに喜んで張り手を貰っちゃうみたいな気持ちで、対戦に赴いていた訳だ。有名チームはその分、エリア内での遭遇率が高くなる。

 そんな変なイベント感覚が、老舗ギルドを始めとして無かったかと言えば嘘になる筈だ。まぁ出てしまった結果に、皆がほぼ納得しているみたいだし。

 ――これで良かったかなと、皆が楽しめて思えたなら何よりだ。





 夏休み最後の夜、僕はリビングで父さんと寛ぎながら、課題の提出とその内容説明に追われていた。つまりは夏休み当初に渡された、課題のチェックを受けていた訳で。

 チェックと言っても、そのパターンは多彩である。父さんがわざわざ、テスト用紙を作って来る事もあるし、ただ単に口頭の試験や内容説明の場合もあるし。

 美術系の課題本だと、感想文の提出になったりするので、本当に様々である。今回は数冊まとめて貰った課題だが、その割にはチェックはあっさりしたものだった。

 つまりは、僕が課題本の内容説明を行ってお終いと言う。


 これも父さんの心遣いなのかも、夏休みは全く家族で出掛けると言う行事も無かったし。こちらの疲れも気遣って、簡単な手法で終わらせてくれたのかも知れない。

 今夜の夕食も、そういった点では何かしらの意図が見え隠れしていた。他の家庭だったら、誰かの誕生日会なのかと思うほど、たくさんの料理がテーブルに並べられたのだ。

 もっとも、男所帯の悲しさで、その全部がお店のテイクアウトだったけど。早々に話のテーマは課題本から離れて、僕の夏休みの活動振りに移行していて。

 順序立てて話をしつつ、僕は遊びやバイトであった事柄を報告する。


 夏休みの出来事を口にしながら、アレッと思った事が幾つか。遊ぶ面子が物凄く固定化しているって言うのは、僕の交友範囲の少なさからして当然なんだけど。

 それでも一緒に遊んでくれた沙耶ちゃん達には、自然と感謝の念が湧き起こって来る。それは稲沢先生や神田さん、それに師匠やミスケさん達大人連中にしても同じ事。

 お世話をしていた筈の、メル姉妹や園児達にも時間の共有に優しい念が湧き起こって。


 つまり僕は、皆のお陰で充実した夏休みを送る事が出来たと言う訳だ。こうやって口にしてみて、初めて気付いたってのも変な話だけど。何も言わずに耳を傾ける父さんには、その事が分かっていた節があって。

 敵わないなぁと、心の中で舌を巻いてみたり。


「う~ん、家族での行事が全く無かったのは、本当に済まなかったね。夏休みと言うのは、実は暇になった若い連中がネット内でも破目を外す時期なんだよ。土日関係なく忙しくて、部署を任される身としてはまとまった計画が立てられなくてね」

「別に構わないよ、師匠の所とかハンスさんの所とか……色々と、家族の真似事みたいな体験は出来たから。特にメルやサミィや魁南なんて、本当に兄弟みたいな付き合いだよ」


 真似事と言う単語に眉をひそめた父さんだが、深い意味は無いと思ったのだろう。特に追及も無く、今度師匠の家に赤ん坊を一緒に見に行こうかと述べるに留まって。

 確かに僕も、深い意味も無く口にした言葉だが。何となく気になってしまった、あれからの父さんと愛理さんとのお付き合いの進行度。本当の家族が増えるのなら、僕も前もって知っておきたいじゃないか。

 ところがその話は、父さんにとっては青天の霹靂だった様子で。飲んでいたお茶を吹き出しそうになって、彼女との仲はそう言うのじゃないよと慌てて訂正してるけど。

 僕は再婚には反対してないよと、立場的な中立を宣言してみたり。


 なおも慌てる父さんを見ているのは面白かったけど、僕の携帯に、突然着信が飛び込んで来て。今夜はインを見合わせると、ギルド連中にはあらかじめ通達してあったので。

 ゲームへのインの催促ではない筈。誰だろうかと慌てて呼び出しに応じてみたら、何と幹生からの誘いだった。双子と花火してるから、今から出て来いよとの強引な用件。リアルで、夏を惜しむイベントを緊急企画したらしい。

 取り繕った様子の父さんが、折角だから行っておいでと後押ししてくれて。途中で差し入れでも買って行くといいと、お小遣いまで持たされてしまった。

 体の良い話題の中断にも思えて、思わず苦笑いする僕。


 場所を尋ねてから、すぐ行くねと返事を携帯で伝え終えて。ちょっと行って来るねと、簡単に出掛ける準備を終え。僕はすっかり日の暮れた、夜の街へと飛び出して行く。

 駐車場から自転車を取り出して、少し漕いでやると途端に田舎の街並みが見えて来る。僕が向かっているのは、街外れの河川敷の野球グランドである。

 子供の頃に、夢中で白球を追い駆けた想い出の場所だ。


 小さな街なので、どこに向かうにも自転車なら10分も掛からない。浮かれていた僕は、一直線にその場に向かいそうになって、慌てて途中のコンビニで急停車する。

 そうそう、手ぶらで行ったら誘ってくれた幹生に申し訳ない。せめて飲み物か、花火の追加セットか何かを買って行ってやらないと。自転車を降りて、僕は幹生にリダイヤル。

 何を買って来て欲しいか、弾んだ声での遣り取り。途中から双子も混ざって来て、正反対の指示が僕を思いっ切り混乱させる。いいから早くおいでよとの声は、多分歩美ちゃんだろう。

 それに対して、あるだけ花火買い占めておいでとの豪気な女性の声が。


 幹生は適当でいいから早く来いと、さっさと始めたい雰囲気がアリアリである。ってか、もう既に始まっているらしい。火花の飛び散る音が、僕の耳にも響いて来て。

 一瞬、幻の様に火薬の匂いが鼻を突いて来た。


 それから5分後、僕らは暗闇の中で再会を果たした。懐かしい壊れかけのバックネット、ベンチも相当痛んでいる筈だ。夏草の匂いと、微かな川のせせらぎが耳に届いて来る。

 それから、若い男女の騒がしい遣り取りの声。花火の弾ける音と、目印代わりの懐中電灯とロウソクの灯。僕の挨拶に、早く来いとの威勢の良い怒鳴り声が重なる。

 何買って来たのと、せっかちに僕の荷物を取り上げる日に焼けた腕も。


「花火と飲み物を買って来た、お菓子もちょっと入ってるよ。久し振りだな、このグランド……懐かしいや。暑い中を、一生懸命に野球の練習したよね」

「凜君が、一番練習熱心じゃ無かったよね、見えない所でサボってさ。幹生がいつも、監督に見付からないようにって冷や冷やしてたよね」

「凜は昔から、頭でっかちのインテリだったからなぁ。根性論の監督とは、絶対に馬が合わないって思ってたよ。間に立つ俺が、一番割りを喰ってたよな!」


 そう言って咎められる目付きで幹生に睨まれるのは、本意ではないけれど。確かにそんな事があったのは、歩美ちゃんの言う通りで。一番練習に身を入れていたのが、女の子である双子だったのがアレだけど。

 ずっと気が咎めていたと言うか、今でも頭が上がらないと言うか。それでもその苦労は報われて、全国大会でも上位の成績を収める事が出来た訳だ。

 感慨に耽っている僕の手の中に、いつの間にか花火がねじ込まれていて。


 次いで、せっかちに火を付けて来る京香ちゃん。真っ直ぐ飛んだオレンジ色の火花は、僕の目の前の幹生に危うく直撃しそうになって。何すんのさと、上がる批難と笑い声。

 シリアスな思い出話は台無し、さすが京香ちゃんだ。


 それでも小学校時代の昔話をネタにしながら、僕らは夏の名残を楽しんだ。闇の中に一瞬だけ咲く火花、想い出の欠片の様に儚い存在を愛でながら。

 レフトを守っていたアイツは、今はあそこの高校にいるとか。投手やってた奴は、いつも試合の後半にパカスカ打たれてたとか。あの試合は凄かったとか、また何かしたいねとか。

 尽きる事のない僕らの会話に、花火の華の数はとうとう追い付けず終い。いつの間にか綺麗に無くなっていて、蚊取り線香の明かりだけになってしまっていた。

 それでも僕らは、夏の名残を惜しむように話を止めなかった。





 その日は午後から、珍しくぽっかりと時間に空きが出来てしまって。いつものように合成装置を弄っていて、やはりいつものように煮詰まって。気分転換にと、ソロで狩り場に飛び出すのもいつもの事。

 目的は、確かにほぼ気分転換ではあるのだが。ペット達のレベル上げの面も、最近は出て来ていたりして。Sブリンカーばかりでなく、ホリーナイトも段々と頼もしくなって来ているし。

 この子達の更なる成長も、楽しみの一つとなっている。


 そんな訳で、僕は毎度のネコ獣人の砦から、フィールドに移動して気侭なソロを楽しんでいた。誰にも気兼ねする事も無く、ただ目に付く敵をひたすら狩って行く。

 何しろここは、他のプレーヤーの姿など一切見た事のない貸し切りエリアだ。今日も敵のポップ時間など気にせずに、適当に進行先の敵を倒しながらの狩りを楽しむ。

 そろそろNMの出現ポイントに向かおうかなと、小休憩を挟んで。


 このエリアのNM事情は、僕の見付けた限りでは今の所3つである。マップ中央の広場の古戦場跡地の、夜のみ出現する死霊型NMがまずは1つ。

 残りの2つは割とありふれた獣型のNMで、こちらはそんなに強くない。猪の獣人の将軍クラスと言った風体と、完全な野良獣NMが1対。獣人の方は、部下が数対付いているのが少々厄介な程度である。

 ドロップもだから、そんなに美味しくはない。


 他にも探せば、もう1~2匹はいるかも知れないけど。NMはそもそも、出現方式が個々によって曖昧である。湧くまで頑張ろうと思ったら、それなりに根気が必要になって来る。

 一番単純なのは、数時間とか数日が経過したら、必ず出現するタイプ。死霊型みたいに夜だけの時間出現とか、砂嵐と共に出現する奴とか、規則性のあるタイプもいる。

 他にも雑魚を一定数狩らないと出現しない奴とか、湧かせるのに手順が必要なタイプも存在する。簡単なのは、トリガーNMみたいに呼び水があればオッケーって奴かな。

 つまりは、うろつき回れば必ず出会えるとも限らない訳で。


 だからNMの出現情報は、知ってたら金策になる場合も。複雑な程に他人には知られ難くなるから、独り占めしたくもなる。何しろ大抵のNMは、ドロップも良いからね。

 そんな理由から老舗のハンターギルドと新規冒険者の、軋轢も生じたりしてる訳だ。僕だってこのエリアの独り占め状態を、手放したくない思いは少なくとも存在する。

 だから必死で前を走り去る所属不明冒険者を見て、少なからず落胆してしまった。


 そいつはパッと見、♀の闇属性キャラのようだった。大剣を穿いているので、少なくとも前衛には違いないだろう。走っていたのは、どうやら何かから逃げているらしい。

 それが判明したのは、次いで見知らぬNMモンスターが、猛烈な勢いで僕の前を走って行ったから。初めて見るタイプで、派手な色の外殻を持つ昆虫タイプのNMらしい。

 ちょっと不気味で強そうだ、僕には関係ないけど。


 まぁ、絡まれてすぐの逃亡らしいので、僕が釣ろうと思えば横取りは出来るんだけど。ひょっとしたら仲間が待ってて、安全な場所に釣っての殲滅作戦中なのかも知れないし。

 そんな場面で横取りしたら、散々に罵声を浴びたりとトラブルの元になってしまう。その一方で、ただ単に今のキャラが絡まれて、本当に必死で逃げているだけかも知れない。

 さてどっちだろう、助けるべきか無視するべきか?


 優占していたエリアを、取られてしまって面白くないと言う思いも僕にはある。無視しようとの意見に傾きかけていた僕の前を、再度必死に走り抜ける♀闇キャラ。

 今度は良く見ていたが、この娘キャラはネコ耳を生やしていたみたい。優実ちゃんと同じでクエ獲得かな、あっちは白猫だけど。黒猫娘が可哀想になって、僕は通信を入れる事に。


『あの、ひょっとして逃亡中ですか? 追い掛けているNM、僕が釣ってもいいですか?』

『…………っ!』


 どうやら、通信も不可能なくらいに切羽詰まっているみたいだ。逃げるのに精一杯で、返信が来ない。僕は再度、助けが欲しいならもう一度僕の前を通ってねと通信を入れる。

 後はもう知るもんか、来なければ今日は終わりにしよう。


 取り敢えず強化を掛けて、向こうの出方を待ち構えていたら。今度は殴られながら、ヘロヘロの黒猫がこっちに戻って来るのが見えた。接近を許したのか、方向転換を慌てて行ったせいかも。

 僕はNMに《闇喰い》を放って、気を惹いてやる事に。さらに《砕牙》の撃ち込みで、相手は完全に頭に来た様子。硬質な手応え、防御はかなり硬いみたいだ。

 とにかくタゲは取れた、さてと殲滅に移行しようか。


 前もって掛けてあった《ビースト☆ステップ》で、リンの防御は順調である。それを利用して、僕はパーティ勧誘の意思を♀の黒猫キャラに伝える。あの娘が見つけたのだ、やっつける権利も向こうにあるだろうに。

 ところがその闇属性の剣士は、呆けたままパーティ勧誘も何もして来ない。う~ん、ゲーム慣れしてない子供なのかなぁ。装備はそこそこ良いモノに見えるけど。

 仕方なく、僕の方から勧誘してあげると。


 今度はちゃんと、パーティ結成には応えてくれた相手キャラ。♀キャラだけど、リアルはどうだか分からないのがネットゲームのミソ。レベルは75か、まだ新人さんだな。

 挨拶を交わしながら、一緒に殴りましょうと優しい口調で話を持ち掛ける。そちらが見つけたのだから、ドロップの優先権ありますよと理を諭してみる僕だけど。

 本当に良く分かっていないみたいな返事、やはりバリバリの初心者さんか。まぁ、ここら辺はゲーム内独特の道徳と言うか、いつの間にか出来た暗黙の了解みたいなモノで。

 初心者なら、知らなくても当然かも知れない。


 とにかく一緒に殴りながら、敵の殲滅を図る僕だけど。芋虫と甲虫と蠍を掛け合わせたような敵は、攻撃も防御力もなかなかのモノ。特殊技も色々あって、結構強い感じ。

 それでもリンのステップ防御を、打ち破るほどの威力も無い様子。順調に削りつつ、止めるべき特殊技を見極めて行って。ハイパー化も凌ぎ切ると、後はこちらのペース。

 不意のペアにも関わらず、危なげなく勝利を収めてしまった。


『割と余裕でしたね、ドロップは……指南書と甲虫の髄液と、後は力の果実が当たりかな? 2つ選んで貰って、残ったのを僕が貰うので良いですか?』

『いえ、私は全然活躍してないし、助けて貰っただけですし……全部貰ってください』


 彼女の言う事はもっともだが、そういう訳にもいかない。奥ゆかしいと言うか、ゲーム慣れしていないと言うか……うわっ、もう権利を全部パスしちゃってるよ。

 そんな訳で、全部こちらに流れて来たドロップ品。少し後ろめたく感じつつ、コレどこで発見したのかと尋ねてみると。何故か殴れる木があったので、殴ってたら落っこちて来たとの返事。

 なるほど、そんな出現方法だったのか。案内しますと、物凄く気さくな黒猫さん。普通は隠すべき情報だし、こっちも何となく流れで訊いてみただけなのにな。

 場所はマップの南西の、ちょっと目立つ樹木の内の1本のようだった。今は殴れるポイントが消失していて、彼女はしきりに不思議そうに首を傾げているけど。

 時間が経ったらまた出現するのかなと、僕は推理を口にする。


『ああっ、そうなんですね! 私ゲーム始めてねまだ日が浅いもので……』

『NMは、このエリアにもまだいますよ。時間あるなら、もう1か所行ってみますか?』


 向こうが教えてくれたのなら、こっちも隠す気はない。って言うか彼女はソロっぽいので、撃破して行くのはまず無理だろう。始めて何日との問いには、ビックリする答えが。

 何と、たった1か月らしい。まだ学生さんみたいで、この夏休みに始めたとの事だ。その割には装備はこなれているし、この場所にいるって事は、闇市に出入りして金のメダルを10枚所有していた事になる。

 そこら辺の事情を訊いてみたら、もっと意外な答えが返って来た。


『親戚のお兄さんが、実はこのゲームを長い事やってるんです。それで……あの、これってルール違反なんですかね? お兄さんのサブキャラ、途中まで育ってたの貰っちゃって……』


 なるほど、それで装備がやたらと良品揃いだったのか。他人に育てて貰ったキャラを使うのは、確かに微妙な所ではある。マナー違反だと言う人もいるかもだし、愛着が湧かないだろうと揶揄する輩も出て来るかもだし。

 僕的には、それで新しいゲーム仲間が増えるのなら良いじゃないかと思う次第。堅苦しい事は言いっこ無し、本人も始めてみて楽しいと思ったら万々歳だ。

 そう口にすると、その黒猫娘はいかにもホッとした様子。


『良かった……夏休みの間に試してみて、面白かったから続けてみようって決めてたんです! あの、リン先輩……もっと色々、ゲームの事教えて下さいっ!』

『ええと……そりゃあ別に構わないけど』


 いきなり先輩と呼ばれ、僕はかなり戸惑ってしまった。まぁ、僕のキャラ名は確かにリンだけど。ひょっとして知り合いかなぁと思いつつ、しかしリアルの事をズバッと訊く度胸も無く。

 次のポイントに移動しつつ、こう言うNM狩りは金策にいいんだよと説明する。狩ってドロップ品を競売に出せば、お金が懐に入って来る。ゲーム内も、お金が無いと何をするにも不便である。

 だから初心者は、レベル上げと同時に金策も頑張らないといけないのだ。


 これも表示されない暗黙のルールの一つ、ルールと言うよりはマナーだろうか。つまりは野良のレベル上げパーティ参加やNM狩りイベントなどに、手抜き装備で来られたらどう思う?

 知り合い同士なら、別段うるさくは言われないだろうけど。それでもしょぼい武器しか携帯していなければ、敵を倒すのが遅れて迷惑を掛けるのには違いない。

 気合い装備は自分の為ならず、周囲で遊ぶプレーヤの為でもあるのだ。


 他にも戦闘時の判断やら、獲得スキルポイントの振り込みやら覚えるべき操作の数々はもちろん存在する。それを丁寧に教えてくれるのは、普通は所属ギルドの役割である。

 実際、そう言う初心者歓迎ギルドも割とたくさん存在していて。初期エリアを中心に、結構活発に活動していたりする。僕は所属しなかったけど、正直いいなと思う時期はあった。

 その頃は和気藹々とした雰囲気より、真っ向からの信頼出来る付き合いが欲しかったのだ。


 真面目に取り組むつもりなら、そう言うギルドにお世話になる方が良いのは確かだ。束縛を嫌う人もいるけど、そもそもネットゲームは個人の力だけでは世界が拡がらない。

 それはとても勿体の無い事だと、僕は思ってしまうのだ。手伝いの力があれば、ソロでは決して見れない情景に出会う事が可能である。むしろ、ゲーム内でそんな仲間を見つける事が、目的の一つと言っても良い気がする。

 僕も長い事、そんな仲間を求めていたから言える結論だけどね。


 そんな思いから、僕は何気なくギルド所属の有無を尋ねてみたのだが。ヨツバと言う名の黒猫さんは、色々と迷った末にまだ決め兼ねているとの返事で。

 親戚のお兄さんのギルドは、年齢層も敷居も高くてお勧め出来ないと言われてしまったらしく。初期エリアでのレベル上げ中にも、確かに何度か誘われたりはしたそうなのだが。

 何がよくて、どんな基準で入るギルドを決めて良いのか分からないと本人の談。迷う気持ちも確かに分かる、一旦入ってしまうとそこから抜けるのも大変だし。

 この街ならではの、リアルな知り合いを頼るって手もあるけど。


 いつしか黒猫娘の相談を受けながら、僕らは新たなNMポイントに到達。猪の獣人NMは、定時通りに湧いていた様子。部下を従え、周囲をうろつき回っている。

 部下から倒すねと、僕は簡単な打ち合わせを彼女とこなす。普段は1人でコイツらを相手取っていて、足止め魔法やら防御魔法で割と忙しいのだけれど。

 今回は、殲滅の手助けがいてくれて楽が出来そう。


 部下は全部で3体ほどいて、部下の強さは普通の敵に毛の生えた程度である。将軍NMがチャージ技を持っている位で、後は取り立てて気に掛ける特殊技も無し。

 ヨツバさんは、それでも緊張しているみたいだった。上手く立ち回る自信が無いと口にしていて、ちょっと神経質な性格なのかも。落ち着いて、僕の殴る敵を一緒に殴ってねと再度の台詞に。

 頑張ってみますと、一応の返事は返って来る。


 戦闘は、僕の《闇喰い》の詠唱から始まった。1匹だけ離れていた敵を上手に釣って、ひたすら2人でボコって倒す。ヨツバさんの大剣の威力はなかなかのモノ、お兄さんの愛情かも。

 リンクしない距離と言うのも、実は曖昧で。2匹目の敵の釣りは失敗、残り全部が反応して押し寄せしまって。仕方なく僕は《アースウォール》でブロック、さらに雑魚の1匹を《ダークローズ》で足止めに掛かる。

 さて、賑やかになって来た。必死に目の前の壁を壊す獣人たち、それを見ながら魔法でちょっかいを掛ける僕。黒猫娘も、僕を真似して《ヘビーフラッシュ》など唱えている。

 これは光属性のフラッシュの上位魔法で、目潰しと同時にSPやステータスの減退を引き起こす弱体魔法だった気が。なかなか良い魔法を持ってるねと、僕は気楽に彼女を褒める。

 褒められて嬉しそうな彼女だが、壁の壊れる音には驚いた表情。


 猪将軍の猪突チャージは、何度も相手をした僕の読みに入っていた技。カウンターでダメージを倍返しして、すかさず幻影技を掛けて雑魚の処理に掛かる。

 無視された将軍は、怒りのあまり蹈鞴を踏むが。僕の《ソニックウォール》を受けて、その足の踏み場はてんでバラバラに。今の内に、2人で雑魚を退治に掛かる。

 そこからは、かなり順調で作戦通りの殲滅戦に。猪獣人NMも、抵抗の甲斐なくお陀仏と成り果てて。今度のドロップはちゃんと等分しましょうとの、僕の説得の方が骨が折れる破目となり。

 ついでにさっきの甲虫NMの分け前も、強引に彼女に渡してしまった。


『何だか済みません、全然働いてないのに報酬貰っちゃって……そう言うのって、本当は良くないんですよね?』

『それは君の考え過ぎ、潔癖症過ぎるのも良くないよ? これは所詮ゲームなんだ、一緒に遊んだ時間が楽しければ、それは既に1つの報酬。それからゲームで楽しいのは、やっぱりドロップ品の分別だと思うし。分け前無しって、寂し過ぎるでしょ?』


 僕の説明に、ちょっと考え込んでいた黒猫娘。それからようやく、それじゃあ遠慮なく頂きますと言ってくれた。僕はホッと胸を撫で下ろし、今時珍しい娘だなと改めて思ってしまうけど。

 次に交わされた言葉には、僕も完全に混乱状態に。


 このエリアの探索も、もう終わろうかと2人で結論を出して。ネコ獣人の砦にと安全に移動し終えた間際の出来事。彼女は何だか思い詰めていて、そしてリアルの僕を知っている様な口振り。

 ってか、本当にリアルで知り合いなのかも。


『あの……あの最後の試合の結果も、先輩はそう思ってくれてますか? 私の力不足で、リン先輩の足を引っ張っちゃったって、ずっと後悔してたんですけど』

『えっと……何の話をしているのか、全く見えないんだけど。ひょっとして、リアルで知り合いだったりしたっけ?』

『あっ、ゴメンなさい……ゲームでお互いの素性を話すのは、あんまり良くないって従弟に言われてて。でも、元々知り合いなら問題無いですよね……その、杉下伊織(すぎしたいおり)です。お久し振りです、リン先輩』


 ああっ、本当に久し振りだ。彼女は数少ない中学生時代の知り合いで、端的に説明すればテニス部の後輩である。僕の大会成績が良かったので、稲沢先生が混合ダブルスの出場も薦めてくれたりして。

 それで3年生の春と夏の、2度の大会にエントリーしてみたのだけれど。シングルス程の結果は残せず終いで、何とも残念な結果に終わってしまって。

 その時に組んでいた娘が、この杉下さんだったのだ。


 彼女と組んだのも、散々の紆余曲折があったのだけど。まぁ、一番の理由は僕とのペアを断らなかったと言うのが大きい。それから、ある程度の実力があったのも確かで。

 春の大会は地区大会の準優勝、夏は県大会まで進めたが、やっぱり準優勝に終わってしまった。僕としては良く頑張ったと思っていたのだが、彼女はそうでは無かったみたい。

 ずっと後悔してたって、即席ペアにしては上出来だったろうに。


 まぁ、僕はシングルスでは全国大会に勝ち進んだ訳だから、傍目に見たら県大会での敗退は物足りない結果だと思われたのかも。しかし、ペアと言うのは即席で挑んで勝ち残れるほど、甘くは無いとも思っていたし。

 言葉が足りなかったかな、試合の終わった後に感謝の言葉は散々述べたと思ったけど。それとも杉下さんが、余程の律儀な性格だったのかも知れない。

 僕は必死に、あれは僕も力不足だったと訴えを口にする。


『でも私……中学最後の大会で、地区大会にすら進めなかったんです。リン先輩の足も自分が引っ張ってたって、今更ながら悔しくなっちゃって……しかも先輩、高校ではテニス辞めちゃったって噂に聞いて』

『バイトが忙しかったからね、別に杉下さんのせいじゃないよ、全然。それに、このゲームでギルド活動始めて、それも併せて忙しかったし』


 必死で口にする良い訳じみた言葉は、果たして杉下さんを納得させる事が出来たのか。それより何より、僕は逃げずにペアを組んでくれた彼女に救われた気がしていたのだ。

 そんな事は気恥ずかしくて、決して誰にも言った事は無いけれど。既に出てしまっている結果より、僕は今に充実を感じてるよと、事実の説明に忙しい。

 夏休みも思い切り楽しんだし、中学時代よりは遥かに交友も増えているし。


 それを何故だか、羨ましそうに聞いている杉下さん。中学3年生の今、夏前に部活は引退となってしまっており、かと言って打ち込むべき事柄も見つからず。

 小中高の一貫学校だと、3年生だからと言って特別に受験勉強をする必要は無い。彼女の学校の成績は、以前に聞いた時点でもかなりの上位だった筈である。

 普通に学園生活を過ごしていれば、進学には間違いはない。


 そんな宙ぶらりんな生活に退屈を感じて、どうやら慣れないネットゲームに手を出してしまったらしい彼女。平凡で窮屈な生活から、一時的にでも脱却出来るツールに。

 ちょっと嵌まってしまいそうになった時に、中学の先輩だった僕に出会ったと言う訳らしく。運命的なナニかを感じているらしいが、僕はそれは誤解だと思う。

 ゲームをやっていると、本当に良くある事だ。HP1桁で生き残ったり、確率を無視してドロップを引き当てたり。だからそんなに、英雄視しないで欲しいんですけど。

 夢見る少女には、しかし僕の説得はまるで通じず。


『お願いします、私を先輩のギルドに入れてください!』





――思い込みって怖いなと、つくづく思った瞬間だった。


















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