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毎日適当に婚約破棄小説を量産していたWeb作家の私、自分の書いた世界に悪役令嬢として転生して1分で婚約破棄されました 〜プロットは全て私の頭の中よ、クソ王太子殿下?〜

掲載日:2026/06/18

はっとして気がつくと、私はまばゆい光の中にいた。

きらびやかなシャンデリア、着飾った貴族たち、優雅な楽団の調べ。どう見ても令和の日本ではない。

(え、何これ? 夢……?)

戸惑いながら自分の体を見下ろすと、私は最高級のシルクで作られた、いかにも「高貴な身分」っぽいドレスを着ていた。

私が混乱していると、一段高くなった壇上にひとりの青年がのぼり、楽団に音楽を止めさせた。そこにいた一同の視線が壇上に集まる。

「ここにいるみんなに聞いてほしい! 俺はウィリアムズ公爵家の長男、ロベルト・ウィリアムズだ。俺は、そこにいるアリス・ディカプリオ伯爵令嬢との婚約を破棄する!」

(え……?)

「私は真実の愛に目覚めたのだ! 俺は、このレベッカ・ホーキング男爵令嬢と結婚する!」

ロベルトと名乗る青年が、金髪縦ロールの令嬢を抱き寄せ、熱い口づけを交わす。

婚約破棄されたアリス令嬢は、その場に膝から崩れ落ちた。

劇的な場面だ。普通なら悲鳴やざわめきが起きるはずである。しかし、周囲のモブ貴族たちは「ああ、またか」という感じでワインを飲み、あくびを噛み殺している。

その光景を見て、私の脳裏に強烈な電撃が走った。

この場面、知っている。というか、私が昨日書いた。

私は令和の日本で働くアラサーOLであり、趣味で「なろう」に小説を投稿しているWeb作家だ。これは、私が昨夜PV(閲覧数)稼ぎのために適当に書き飛ばした、短編小説のプロローグそのものだった。

「嘘……ここ、私が書いた小説の世界なの!?」

愕然として棒立ちになっていると、すぐ隣にいた平凡なドレスの令嬢が話しかけてきた。

「最近多いわよね、婚約破棄。毎日毎日、王都のどこかの夜会でこればっかり。さすがに見慣れてもう何の感慨も起きないわ」

「あ、あの、あなたは……?」

「私? 名前なんてないわよ。だってただのモブキャラですもの」

モブキャラが、自分のメタ的な存在理由を当たり前のように語っている。

そう、私は「婚約破棄モノは読者にウケるから」という理由だけで、舞台裏の整合性も考えず、毎日毎日、手当たり次第に婚約破棄短編を量産していたのだ。ここは、私の安易な執筆活動が生み出した「毎日誰かが婚約破棄される、バグったディトピア世界」だった。

恐怖で震えていると、人混みを割って、一人の超絶イケメンが私に近づいてきた。

金髪に青い目。長身。私の大好きなハリウッド俳優をそのまま二次元に落とし込んだような、私のドストライクの男。

「マリー・ヤマーダ公爵令嬢ですね」

彼は私の手を取り、極上の微笑みを浮かべた。

私の本名は山田真理。どうやらこの世界では、マリー・ヤマーダという公爵令嬢に転生してしまっているらしい。

「僕は王太子のルーク・アインシュタイン。……どうか僕と結婚してほしい」

王子は、その場に跪いて私にプロポーズをした。

推しにそっくりなイケメンからの求婚に、私のアラサー独身女子としての心臓は激しく跳ね上がった。

「はいっ! こんな私でよろしければ!」

私はうっとりと頬を染めて承諾した。王子は満足そうに立ち上がり、「それじゃあ、またあとで」と言って壇上の方へと歩いていく。

私は胸をときめかせ、隣のモブ令嬢に自慢した。

「見て! 私、王太子殿下にプロポーズされちゃった!」

しかし、モブ令嬢は憐れむような目で私を見て、冷たく言い放った。

「あらそう、おめでとう。……まぁ、『そういうプロット』よね」

「え?」

次の瞬間、壇上に上がったルーク王太子が、楽団の演奏を止めさせた。

「みんな、ちょっと聞いてほしい。僕は王太子、ルーク・アインシュタイン。今この場で宣言する! 僕は、そこにいるマリー・ヤマーダ公爵令嬢との婚約を破棄する!」

王子は、鋭い指先を私に突きつけた。

「え……えええええええ!?」

プロポーズされてから、わずか一分。

天国から地獄へ真っ逆さま。私はショックのあまり、その場に膝から崩れ落ちた。

「やっぱりね」とモブ令嬢がため息をつく。

頭が真っ白になりながら、私は思い出した。

そうだ。私が三日前に投稿した短編のタイトルは――『王太子からプロポーズされた公爵令嬢は、すぐに婚約破棄される』。

(夢じゃない……これ、私が書いた「ざまぁ確定の悪役令嬢ルート」の真っ最中なんだわ!)

涙が溢れて止まらない。実際に自分がやられてみて初めてわかった。婚約破棄って、こんなに胸が張り裂けそうに痛くて、惨めなものだったのね。今までPV稼ぎのために、たくさんの女の子たちを理不尽に泣かせてきて本当にごめんなさい……!

心からの懺悔が胸を満たした、その時。

「さあ、国を欺こうとした悪毒なるマリー・ヤマーダよ! お前のような不実な女は、今すぐこの国から国外追放だ! 衛兵、この女を連れていけ!」

ルーク王太子が、勝ち誇った顔で私を指さした。隣には、いつの間にか清楚ぶった男爵令嬢が寄り添っている。

――その独善的な笑顔を見た瞬間、私の涙がピタッと止まった。

悲哀の後に湧き上がってきたのは、猛烈な「怒り」と、原作者としての「プライド」だった。


(ちょっと待ちなさいよ、クソ王子)

私はドレスの涙を乱暴に拭い、すっくと立ち上がった。

確かに、キャラクターたちを理不尽に泣かせたことは反省する。

だけどね、私に無断で、私のドストライクな顔を使って、私をたった一分でフッていい理由にはならないのよ!!

「国外追放? 笑わせないでくださる、ルーク殿下」

凛とした声を響かせると、衛兵たちの足が止まった。ルークが眉をひそめる。

「往生際が悪いぞ、マリー。お前が実家の権力を使い、我が王家の財政を圧迫した罪は明白――」

「財政を圧迫? 冗談はそれくらいにしてください。王宮の隠し金庫から、国家予算の三分の一に当たる大金を私的に引き出し、隣国のカジノで使い果たしたのはどこの誰かしら?」

「なっ……!?」

ルークの顔が、一瞬で青ざめた。

当然だ。それは私がこの小説の後半、ルークを「ざまぁ」するために後付けで適当に設定した、絶対に表に出るはずのない裏設定なのだから。

「なぜ、それを……」

「それだけじゃありませんわ。そちらの、お可愛らしい男爵令嬢さん?」

私は王子の隣で震える金髪の令嬢を睨みつけた。

「あなた、殿下の『真実の愛の相手』のフリをしていますけれど……本当は隣国のスパイで、殿下のベッドの中に盗聴用の魔導具を仕込んでいるわよね? 殿下が寝言で喋った国家機密、もう全部本国に横流し済みでしょう?」

「ひっ……!? な、何でそれを知って……!」

令嬢が悲鳴をあげて後ずさる。

これも私が、物語の展開に行き詰まったときに「あ、こいつ実はスパイだったことにしよう」とノリで書いたプロットの通りだ。

私の頭の中には、この世界のすべての過去、現在、そして未来の裏設定が詰まっている。原作者を敵に回して、勝てると思っているの?

「証拠なら、殿下の寝室のベッドの天蓋の裏と、男爵令嬢のガーターベルトの内側を調べれば、隣国の通信魔導具がすぐに出てきますわ。……さあ衛兵、国家反逆罪で捕縛すべきは、どちらかしら?」

私の堂々たる宣言に、夜会会場のモブたちが一斉にざわつき始めた。

「おい、今日の婚約破棄、なんか展開がリアルだぞ……!」

「いつもと違うわ! 泥沼の暴露合戦よ! 面白くなってきたじゃない!」

モブたちのテンションが最高潮に達する中、完全に形勢逆転されたルーク王太子と男爵令嬢は、ガタガタと震えながらその場にへたり込んだ。すぐに本物の近衛騎士たちが突入し、二人は引きずられるように連行されていった。

あっけないほどの、完璧な「ざまぁ」の完了である。

「ふぅ……。すっきりしたわ」

私が小さくため息をつくと、会場から割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。

「素晴らしいざまぁだ!」「今期の婚約破棄の中で最高傑作だな!」というモブたちの声が聞こえる。どういたしまして。原作者の構成力を舐めないでほしい。


トラブルを解決し、私は会場の隅でようやく一息ついていた。

さて、これからどうしよう。クソ王子は退治したけれど、私は本当にこの世界に転生してしまったみたいだし、OL生活ともおさらばだ。

「……見事な手際だったね、マリー嬢」

背後から、低く、甘く、鼓膜を心地よく震わせる声がした。

振り返った私は、危うく持っていたグラスを落としそうになった。

そこに立っていたのは、夜の闇を溶かしたような漆黒の髪に、妖しくきらめくアメジストの瞳を持つ、恐ろしいほどに美しい青年だった。気品あふれる極上の仕立ての礼服をまとい、その身から漏れ出る覇気は、先ほどのルーク王子など足元にも及ばない。

(嘘……。この人って、まさか……)

私の心臓が、ルークの時とは全く違う意味で激しく高鳴る。

間違いない。彼は、私が一か月前に書いた長編小説の裏ボスであり、隣国の若き皇帝――『エドワード・フォン・アスラニア』だ。

彼は、私が「自分の理想のドストライク(本気版)」として、これ以上ないほどの性癖とスペックを詰め込んで造形した、最強最高のキャラクターだった。ただ、設定が最強すぎて扱いあぐね、物語の終盤まで出番を渋っていた、いわば私の「とっておき」だ。

エドワード皇帝は、私に向かって優雅に歩み寄ると、全貴族が見守る中で、静かに私の前に片膝を突いた。

「婚約破棄の現場は飽きるほど見てきたが……君のように知的で、刺激的で、美しい女性を見たのは初めてだ。ルークのような愚か者に、君はふさわしくない」

彼は私の手を取り、その白い甲に、熱い口づけを落とした。

アメジストの瞳が、情熱的な独占欲をはらんで私をまっすぐに射抜く。

「マリー。僕の国へ来て、僕の妃になってくれないか? 君の望むものなら、この世界のすべてを君の足元に捧げよう」

会場からは、先ほどのざまぁ劇を遥かに凌ぐ、地鳴りのような悲鳴と歓声が上がった。

「隣国の皇帝陛下だ!」「まさかの裏ボスルート突入か!?」とモブたちが大騒ぎしている。

私は、カッと顔が熱くなるのを感じながら、心の中でガッツポーズを突き上げた。

(私が過去に書いた設定……最高すぎるわ!!!)

自分で作った世界だからこそ、どこにどんな極上ルートが転がっているかも全て把握している。

私は、目の前の完璧なスパダリ皇帝の手をきゅっと握り返し、満面の笑みを浮かべた。

「ええ、喜んでお受けいたします、エドワード陛下。……これから始まる私たちの物語のプロットは、私が責任を持って、世界一のハッピーエンドにして差し上げますわ!」


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