第5話 初めての依頼と、少しだけおかしい結果
ギルドの扉を押し開けると、朝の喧騒が一気に耳に入ってきた。冒険者たちの声、酒の匂い、依頼書をめくる音。昨日とは違うが、見慣れた光景だ。
「……人、多いです」
隣でリナが小さく呟く。きょろきょろと周囲を見回しながら、自然と俺の袖を掴んでいた。
――近いな。まあいい。
「離れるなよ」
「……はい」
素直に頷くが、距離はむしろ少し縮まる。……まあ、迷子になるよりはいいか。
受付の方へ向かう途中、何人かの視線がこっちに向いた。昨日の追放を見ていたやつもいるんだろう。ひそひそとした声が聞こえる。
――気にするほどでもない。
カウンターの前に立つと、受付嬢が顔を上げた。
「いらっしゃいませ。ご用件は?」
「依頼を受けたい」
「はい。では、ランク証を――」
言われて、少しだけ間が空く。
……そういえば。
「持ってないな」
「え?」
受付嬢がきょとんとする。
「昨日、パーティー抜けたんで。個人登録はまだしてない」
「そ、そうでしたか……では、こちらで新規登録を――」
手続きを済ませるのに、少し時間がかかった。名前を書いて、簡単な確認を受けて、ようやく冒険者としての登録が完了する。
「これで大丈夫です。アルトさんは……初回なのでFランクからになりますね」
「問題ない」
どうせ最初はそんなものだ。
「依頼はあちらの掲示板にありますので――」
軽く礼を言って、掲示板の方へ向かう。
リナはぴったりと隣についてくる。というか、腕に触れてる。
……慣れてきたな。
「どれがいいと思う?」
ざっと依頼を眺める。薬草採取、雑用、荷物運び。初心者向けのものばかりだ。
「……これ、とか」
リナが指差したのは、森での薬草採取の依頼だった。
「安全で、簡単って書いてあります」
「じゃあそれでいいか」
紙を剥がして、受付に持っていく。
「こちらの依頼ですね。森での薬草採取……気をつけてくださいね」
「わかってる」
ギルドを出て、森へ向かう。
道中も、リナはずっと隣にいた。
……本当に離れないな。
「……アルト」
「なんだ」
「……がんばります」
小さく拳を握っている。
その様子に、少しだけ口元が緩んだ。
「無理はするな」
「……はい」
森に入ると、空気が一気に変わる。静かで、少しひんやりとしている。
依頼書に書いてあった薬草は、比較的わかりやすい場所に生えているらしい。
――とはいえ。
「……多いな」
視界に入る範囲だけでも、かなりの量がある。
「え……?」
リナが驚いたように目を見開く。
「まだ奥まで行ってないのに……」
「まあ、採るか」
しゃがみこんで、手早く薬草を摘んでいく。
根を傷つけないように、丁寧に。それでも、手は止まらない。
数分後。
袋が、すでに半分以上埋まっていた。
「……え」
後ろから、リナの声。
「もう……こんなに?」
「そんなもんだろ」
「い、いえ……普通は、もっと時間かかるって……」
そうなのか?
あまり気にしたことはないが。
「じゃあ、早く終わるならいいだろ」
「……はい」
納得したような、してないような返事だった。
そのまま、さらに採取を続ける。
結果。
予定時間の半分もかからず、依頼分を大きく超える量が集まった。
「……終わりだな」
「……早すぎます」
リナが呆然と呟く。
「もう少しやるか?」
「い、いえ……十分です……」
というか、これ以上持てないらしい。
袋を軽く担いで、ギルドへ戻る。
受付に提出すると――
「え……?」
受付嬢が固まった。
「こ、これ……本当に、今日採ってきたんですか?」
「そうだけど」
「量が……規定の三倍はありますよ……?」
周囲の視線が集まる。
ざわ、と空気が揺れた。
――なんだ?
「問題あるのか」
「い、いえ! むしろ大歓迎です! ただ……こんなに早く、これだけ集める方は初めてで……」
そう言いながら、報酬を計算し始める。
少しして。
「追加分も含めて……こちらになります」
提示された金額は、思っていたよりも多かった。
「……悪くないな」
「……すごいです、アルト」
隣でリナが、少し誇らしげに笑っていた。
――まあ、これくらいなら。
普通だと思うが。
そのとき。
「……おい」
背後から、声がかかる。
聞き覚えのある声。
ゆっくりと振り返ると――
そこにいたのは。
昨日、俺を追放した男だった。
――ああ。
面倒なのが来たな。




