第4話 朝起きたら距離が近すぎた
――あたたかい。最初に感じたのはそれだった。やけに柔らかくて、体温のある感触。……なんだこれ。ぼんやりとした意識の中で、ゆっくり目を開ける。
そして――
「……近いな」
目の前に、リナの顔があった。距離、数センチ。呼吸がかかるくらい近い。というか、完全にくっついている。俺の腕に、しがみつくように。
「……」しばらく状況を理解するのに時間がかかった。――ああ、そうだ。昨日、一緒に寝たんだったな。にしても。「……近すぎるだろ」
小さく呟くが、リナは起きる気配がない。すぅすぅと静かな寝息。完全に熟睡している。
「……離れるか」とそっと腕を抜こうとした瞬間、ぎゅっ、と逆に力が強くなった。
「……っ」
「……おい」
反応なし。寝ている。完全に無意識だ。……どうしろと。少し動くと、さらに距離が縮まる。胸元に顔を埋めるような形になってきた。――近い。さすがにこれは近すぎる。
「……起きろ」
軽く声をかける。
「……ん……」
小さく反応するが起きない。むしろ、さらに擦り寄ってきた。……わざとか? いや、寝てるな。完全に。
数秒考えて、諦めた。「……無理だな、これ」変に動く方が危険だ。ただの添い寝だ、と自分に言い聞かせる。……無理があるな。
「……アルト」
不意にリナが呟く。まだ目は閉じたまま。寝言だ。
「……いなく、ならないで……」
その一言で、体の力が少し抜けた。――ああ、そういうことか。昨日の続き。不安がまだ残ってるんだな。
「……いなくならない」
小さく答える。聞こえているかはわからないが、その瞬間、リナの表情が少しだけ緩んだ気がした。
しばらくして。
「……ん……?」
ゆっくりと目が開く。数秒、ぼんやりと俺を見つめて――
「……あ」
固まった。
「……アルト」
「おはよう」
「……えっと」
状況を理解していくにつれて、顔がみるみる赤くなる。
「……ち、近いです」
「お前がな」
「……す、すみません!」
慌てて離れ、ベッドの端まで下がる。
「……寝てるとき、くっついてました?」
「がっつりな」
「……っ」
さらに顔が赤くなる。耳まで真っ赤だ。
「……でも」
少しだけ視線を上げて。
「……あたたかかった、です」
ぽつりと、そう言った。その顔は、さっきまでの恥ずかしさとは違う柔らかい表情だった。
「……そうか」
それだけ返す。なんとなく、それ以上は言わない方がいい気がした。
リナは少し安心したように息をつき、
「……今日、何しますか?」
遠慮がちに聞いてくる。
「そうだな」少し考える。生活の基盤を整えないといけない。食料、金、その他いろいろ。
「まずは、仕事探す」
「……はい」
「お前も、一緒に来るか?」
「……行きたいです」
即答だった。少しだけ嬉しそうに。
「じゃあ決まりだ」
立ち上がる。新しい一日が始まる。昨日とは違う、隣に誰かがいる朝。
「……アルト」
「なんだ」
「……よろしく、お願いします。今日も」
そう言って、リナは小さく笑った。その距離は――昨日より、少しだけ自然になっていた。
――ああ。こういうのも、悪くない




