第3話 距離が近すぎる夜
「……えっと」
リナが部屋の中をきょろきょろと見回す、小さな家だが、最低限の家具は揃っている、ベッドが一つ、テーブルが一つ、椅子が二脚。
――問題は。
「……ベッド、一つだな」
「……はい」
リナも同じことに気づいたらしい。少しだけ不安そうに俺の方を見る。
「俺は床で寝る」
即答した、これが一番面倒がない。
「だ、だめです!」
予想外に強い声だった、リナが慌てたように一歩近づいてくる。
――いや、近いな。
「なんでだ」
「……アルトが、風邪ひきます」
「別に平気だ」
「だめです」
小さな声なのに妙に意志が強い。じっと見上げてくる。……譲らないつもりか。
「じゃあ、お前が使え」
「……それも、だめです」
「なんでだ」
「……一人は、怖いです」
ぽつりと落ちた言葉、それでだいたい察した。知らない場所、知らない家、今日会ったばかりの人間。
――そりゃ、怖いか。
「……じゃあ、どうする」
そう聞いた瞬間だった。リナが少しだけ躊躇ってからそっと俺の服の裾を掴んだ。
「……一緒に、寝てもいいですか」
――来たな。
予想はしていたが実際に言われると反応に困る。
「……狭いぞ」
「……大丈夫です」
即答だった、しかも少しだけ距離が縮まる。
……もう決定事項らしい。
「……わかった」
ため息を一つついて折れる、どうせ断ってもこうなる気がする、ベッドに腰を下ろすとリナもすぐ隣に座った。
――近い。
普通に肩が触れている。
「……もっと寄ってもいいですか」
「もう寄ってるだろ」
「……まだ、足りないです」
そう言ってさらに距離を詰めてくる、ぴと、と腕に触れる感触、柔らかい、温かい、……落ち着かない。
「……お前な」
「……安心します」
それを言われると何も言えなくなる。結局そのまま、二人で横になることになった。当然だが距離は近いまま。いや、さっきより近い、体が軽く触れ合っている。呼吸すら感じる距離。
「……アルト」
「なんだ」
「……ここ、あたたかいです」
そう言ってリナは少しだけ身を寄せてくる、完全にくっついた。
――近い。
さすがに近すぎる。
「……寝れるのか、それで」
「……はい」
むしろ安心したような声だった、しばらく沈黙が続く、静かな夜。
外からはわずかに虫の声が聞こえる、その中で――
「……アルト」
「まだ起きてる」
「……よかった」
小さな声。
「……いなくならないですか?」
一瞬言葉に詰まる、その問いは思っていたよりも重かった。
「……いなくならない」
短く、答える、嘘じゃない、少なくとも、今は。
「……よかった」
その一言、リナの力が少しだけ抜けた。安心したように呼吸が穏やかになる。
そしてすぐに、小さな寝息が聞こえ始めた。
……早いな。
よほど疲れていたのかもしれない、それでも腕に伝わる温もりはそのままだった、ぎゅっと、軽く掴まれている、離す気はないらしい。
「……まったく」
小さく呟く、けど、不思議と嫌じゃないむしろ少しだけ、安心している自分がいる、目を閉じる、今日一日の出来事を思い返す。追放されて、居場所を失って。
――そして。
この少女と出会った。
「……悪くないか」
誰に言うでもなく呟いた、そのまま意識がゆっくりと沈んでいく、隣には温もり。小さな呼吸、確かな存在。
――ああ。
これは思っていたよりも。ずっと穏やかな夜だ。




