第1話 追放された俺、居場所を失う
「お前はもういらない」
その一言ですべてが終わった。
俺――アルトは、ついさっきまで所属していた冒険者パーティーから追放された。
場所はギルドの前。人通りの多い時間帯をわざわざ選んだのか、周囲の視線がやけに痛い。
「聞こえなかったのか? お前は役立たずだって言ってんだよ」
リーダーの男がわざとらしく肩をすくめる。
その後ろでは、かつての仲間たちが気まずそうに目を逸らしていた。
――いや、違うな。
誰も俺を庇おうとはしなかった。それが答えだ。
「……理由を聞いてもいいか?」
声は思ったよりも冷静だった、内心は少しだけざわついているけど。
「理由? そんなもん決まってるだろ」
男は鼻で笑う。
「お前、弱いんだよ」
周囲からくすりと笑いが漏れた。
――ああ、やっぱりそういうことか。
「前線に出ても大した成果は出せねぇ、かといって後方支援も中途半端。正直、足手まといなんだよ」
「……そうか」
俺は短く答えた、否定はしない、できないわけじゃない。
ただ――
しなかっただけだ。
「最後に一つだけ言っておく」
リーダーが俺を見下ろす。
「お前みたいなのがいると、俺たちの評価まで下がるんだよ」
その言葉にほんの少しだけ胸の奥が冷えた、けどそれ もすぐにどうでもよくなった。
「わかった。抜けるよ」
俺がそう言うとリーダーは満足そうに笑った。
「最初からそうしてりゃよかったんだよ」
――ああ、そうだな。
最初からこうなるべきだったのかもしれない、俺は何 も言わずその場を後にした、ギルドの喧騒が背中越し に遠ざかっていく。
行き場なんて、特にない。
けど、不思議と焦りはなかった。
むしろ――少しだけ、肩の荷が下りた気さえする。
「……さて、どうするか」
誰に言うでもなく呟く、そのときだった。
「――あの」
か細い声が後ろから聞こえた、振り返るとそこにいたのはボロ布のような服をまとった小柄な少女だった。首元には鉄の首輪、そして怯えたような瞳。
――奴隷、か。
この街じゃ珍しくもない光景、なのになぜか足が止まった。
「……何か用か?」
俺がそう尋ねると少女はびくりと肩を震わせる、それでも必死に言葉を絞り出した。
「……さっきの、見てました」
震える声、今にも消えてしまいそうなほど小さい。
「だから……あの……」
言葉が続かない、けどその目だけはまっすぐに俺を見ていた。
「……助けて、ほしいです」
――その一言で。
俺の足は完全に止まった、助ける義理なんてない、関われば面倒になる。
そんなことわかりきってる。
それでも――
「……いくらだ?」
気づけばそんな言葉が口から出ていた、少女の目が大きく見開かれる。
「え……?」
「その首輪。外すのに必要な金だ」
少女はしばらく呆然としていたが、やがて小さく答えた。
「……銀貨、五枚です」
――安いな。
命の値段にしては、俺は懐から袋を取り出し、中身を確認する、問題ない。
「わかった」
そう言って俺は踵を返した。
「ついてこい」
「……え?」
「買うんだろ。だったら手続きが必要だ」
少女は一瞬だけ戸惑い、それから慌てて俺の後を追ってきた。
――カツ、カツ、と。
小さな足音が後ろからついてくる、その距離が妙に近かった、少し歩いただけで、袖が軽く引かれる。
「……どうした?」
「い、いえ……あの……」
少女は顔を赤くしながら視線を逸らす。
「……離れたら、だめかなって」
――距離、近いな。
思わずそう思う、けど振り払う気にはならなかった。
「……好きにしろ」
そう言うと少女はほんの少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
その表情を見た瞬間――
なぜか胸の奥が少しだけ温かくなる。
さっきまでのことなんてどうでもよくなるくらいに。
――ああ。
もしかしたら、これは、悪くない始まりかもしれない。




