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第62話 近況 黒野目線

    2024年4月


「花ゲリラ」の活動は、今も続けてけいる。


道路脇の、何も植えられていない空き地や隙間に、こっそりと花の苗を植える――もともとは非合法スレスレの行為だった。


問題が起きたらすぐにやめて、責任も取るつもりだった。


だけど、予想もしない展開が起きた。


ある日、この活動が地域の新聞社に取材され、なんと県と市の広報誌にまで紹介されたのだ。


しかも「景観美化への新しい市民の取り組み」として、賞賛を込めて掲載された。


つまりこれは、非合法だった行為が、事実上“合法”と認められたということだ。


行政からのお墨付きを得たようなものなので、僕たちはこれからは大手を振って「花ゲリラ」に行く事ができる。我々は勝手にそう解釈した。


そして、その影響は想像以上だった。


今では、僕たち以外にも同じような活動を始める人たちが大勢現れ、街のあちこちに花で溢れるようになった。


もちろん、国有地や国道沿いの土地など、管理が複雑な場所も多い。


だけど、不思議と問題になることはほとんどなかった。


なぜなら、ただ“花を植えるだけ”だから。


誰かに迷惑をかけるわけでもなく、むしろ、見る人の心を和ませる。


影響はそれだけでは済まなかった。


花が大流行したのだ。


みんな、自分の庭にも気を配る様になり、花が育ったら、株やタネを分けあった。庭を持たない人達はベランダや窓辺に競う様に花を置いた。


桜を愛でてきた日本人には、花に親しむ文化が深く根づいている。


その素養が、今まさに“花開いた”のだろう。


2024年の春。僕たちの住む夕霧市の景色は、これまでにないほど花で色鮮やかだった。


その勢いは隣の市にまで波及していた。こんなに嬉しいことが他にあるだろうか?


それから、もう1つ、僕が始めた活動がある。


月に1度ほど、兄さんが監督をしている少年野球チームのサポートに行っているのだ。龍星君と一緒に。


グラウンド整備を手伝ったり、子どもたちのコーチをしたり、ごく簡単な手伝いだけれど、それでも僕にとっては大切な時間になっている。


ちなみに、1回の参加で5,000円をもらっている。


「社会人が丸一日手伝ってくれるんだ、無償じゃ申し訳ないだろ?」


そう言ってくれたのは兄さんだ。彼なりの気遣いなのだと思う。


チームのコンセプトは「楽しくやること」「野球を通して礼儀を学ぶこと」だ。


兄さんが前任の監督から引き継いだ時、その方針に大きく改革したという。


「自分自身が高校野球で苦しみ、野球を嫌いになりかけたことを、子どもたちには絶対に味わわせたくないんだよ」


そう、兄さんは穏やかに語った。


その言葉には、あの頃の悔しさや、挫折の記憶がにじんでいた。


今、グラウンドに響く子どもたちの笑い声や元気な声援は、兄さんにとっての生きがいでもあるのかもしれない。


僕も、そんな場所にほんの少しでも関われることが、嬉しかった。


美亜ちゃんのピアニストとしての活動も順調だ。YouTube、イベントでの演奏、小さなサロンコンサート。


収益の全ては花ゲリラ活動の費用やユニセフに募金している。


「いいの?」って聞いたら、彼女は「それが私がこの世にもう1度よみがえった理由なんだ」って笑いながら答えた。


ピアノの音色が花と命に溶けていく…。


なんて素敵な循環なのだろう。


・花ゲリラ活動

・少年野球のサポート

・美亜ちゃんのピアニストの活動補助


この3つを休日にやっているから、忙しいけど、すごく充実している。


今年の秋には、夕霧市の丘の上の教会で結婚式を挙げる予定だ。


プロポーズの時に、キリコ先生が歌ったシューベルトのアヴェマリアに感動した美亜ちゃん。式の時に自分でも歌ってみたいそうだ。


キリコ先生の様にマイクに頼らずに歌うベルカント唱法。


もちろん、簡単ではない。だからこそ、今から少しずつキリコ先生のレッスンに通い、地道に積み重ねているのだ。


美亜ちゃんは声楽は未経験なので「そこ違うでしょ!」ってしかられるって笑いながら言ってた。


伴奏はもちろん僕だ。アヴェマリアの伴奏は特に難しいという事はないけど、感情を最大限に込めて演奏するとなると、ペダルや間など、実はかなり深いのだ。今はそこを徹底的に追求して練習している。


そんな細かいところは、参列者の中ではキリコ先生以外は気が付かないと思うけどね…。


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