第52話 計画について 美亜目線
2021年10月
高校3年生の夏、お見舞いに行った黒野君の家で私達の事を龍星君に打ち明けた。
自宅まで送ってもらった車中で「頃合いを見計らって、2人の事助けるよ。それが『お詫び』」と龍星君に言われた。
大学生になり、スマホを再び持つ様になってから、龍星君から突然連絡が来た。
彼の“横の繋がり”で私の電話番号を知ったらしい。
お詫び”計画の説明は龍星君の自宅のマンションで龍星君から黒野君と私に対して行われた。
ホテルのブティックで働いているママに龍星君のお父さんが話しかけて、さりげなく、息子の話をする。
ママは当然話にのっかって私の事を持ち出す。
それで4人での会食を持ちかける。
龍星君は私を口説き落とした様に見せかけて、彼のマンション行って、翌日帰る。
その後「壊れた演技」をしつつ、黒野君の写真を眺めたり、ロープを用意して“死”をほのめかす。
あの日に暴行を受けたと思い、さすがのママも自分を責めるだろう。
結城グループはこの地域の大手私鉄「夕霧鉄道」を傘下に持つ巨大グループ企業だ。
怒ったママが警察に打ち明けても、この程度なら簡単に揉み消せるそうだ。
慌てたママは、黒野君に助けを求める。
その様な計画だった。
この計画は龍星君が考案し、黒野君はすでに了承済みだった。
もちろん、こんな騙すようなやり方には、私は強く反対した。それに、龍星君とそのお父さんの手まで汚すことになってしまう…。
その事を伝えると、龍星君に一喝された。
「だからあんたは甘いんだよ!本当に欲しいものがあったら頭使って、力づくで手に入れろよ!一生あの母親に怯えて生きていくのか?」
知らなかった。
龍星君…実はかなり怖い人だったのかも…。
かなり強引だけど義理人情を重んじる。
結城グループが大きくなった理由がよくわかった気がした。
私は完全に目が覚めた。
ウジウジして自分の1番欲しいものを諦めてどうするのだ?
もう子供じゃないんだ。
* * *
龍星君の考えた計画は完璧だった。
“幽霊の様な表情”をずっとしていた私に、ママはひどくうろたえた。
それに私は幽霊だった時期が4年間、しかも、その記憶と経験まで持っている。
幽霊って言うのは、物に触れる事ができないので、毎日が非常に退屈だ。
だから幽霊は日がな1日、何も考えず無表情で、ただ時間だけを経過させる術を身につけている。
余談だけど、偶然見てしまった幽霊に表情がないのはそのためだろう。
その術を身につけていた私にとって、この演技は朝飯前だった。
黒野君も完璧にやったと思う。
計画は大成功。
龍星君に報告したら、「僕たちが友達だって事がバレたら全て台無しになるから、2人とも絶対連絡してこないで。お幸せに!サヨナラ」と告げられた。
いつか必ず、ママからの疑いを解くからね。
おかげさまでママ、すごく変わったよ。
黒野君の事も一生大切にするからね。
「欲しいものは頭を使って力づくでも手に入れる」
肝に命じるよ。
私にはまだ欲しいものがいくつもあるから…。
龍星君、本当にありがとうございました。
* * *
黒野君が家に来ている時にママから話があるって言われた。
なんだろう?
リビングのソファに座るとママはゆっくりと話し出した。
「美亜は少し知ってるかもしれないけど、ジェームズとの馴れ初め、話すわね」
「うん」
「はい」
「私が中学生の頃よ。ジェームズが交換留学生として日本に来たの。……あなたたちみたいに、お互い自然と引かれ合って、気づいたら、恋に落ちていたの」
「高校に上がったら、私もイギリスに留学したいと思っていたんだけど……それは叶わなかった。
でも、アルバイトで少しずつお金を貯めて、1度だけ会いに行ったの。
ジェームズも、マーガレットも、とても温かく迎えてくれて……本当に夢のような時間だったわ」
2人で頷く。
「でもね……うちは本当に貧乏だったから。大学に入ってから生活費を稼ぐために、夜の仕事もしていたの。まあ、平たく言えばホステスね」
「最初は抵抗もあったけど……それまでのアルバイトが馬鹿みたいに思えるほど、簡単に大金が手に入ってしまって…」
「それで贅沢を覚えてしまったのよね。
でも、ジェームズのことはずっと好きだった。彼はイギリスでも日本語を学び続けてね。卒業後、私との為に日本の医療機器メーカーに就職したの」
「私も、どうしても彼のそばにいたくて、同じ会社を受けたら……運よく採用されたの。2人とも必死に頑張って、ジェームズは異例の速さで社長に、私は秘書になったわ。そして結婚して、美亜を産んだの。
その後も、2年間は会社で働いていたのよ」
「だから、あなたたちと少し似ているのよ。私も、ずっとジェームズのことが好きだったから……」
「でも、やっぱり――大学生の頃の夜の仕事、それがいけなかったのかもしれないわね……。
浪費癖も、ブランド志向も、直らないどころか悪化してね…」
「でもね、ジェームズを失って、美亜まで失いそうになって……ようやく目が覚めたの。自分の異常さに。ちゃんと向き合わなきゃて…。何が言いたいのかって言うとね」
「私は、今でもジェームズのことが大好き……。
できれば、もう1度やり直したいと思ってるの」
「えっー⁉︎」
私は思わず声を上げた。
「あなたたち、小学生の頃から愛し合っていたでしょう? 私もそこまで一途じゃなかったけど……。
中学生の頃からずっとジェームズのことを想ってたから。あなた達を見てるとね、思い出すのよ。あの頃の気持ちを…」
「パパは今でも付き合っている人、いないよ。この前、私、聞いたもん」
「……そうなの⁉︎」
ほっとしたのか少し泣いている。
ずっと気になっていたのだろう。
「僕も、応援します」
黒野君が、優しく笑っている。
「私も応援するよ、ママ!」
「ありがとう……本当に、嬉しいわ」
「……それでね、どうしたらいいと思う?
ただ会いに行くだけじゃ、許されない気がして。
何か、私にできることがあるなら、始めてみたいの。でも、私なんかが今さら何をしても、笑われるだけかもしれないし……」
「牧場で働くのはどうですか? ジェームズさんが羊飼いって聞きましたから……牧北市の方まで行けば、牧場もけっこうありますよ。アルバイトでもいいと思います。野球部の後輩で乳業を営んでいる人がいます」
「それ、いいわね……でも、私なんかが受かるかしら……。それにアルバイトだったら大分収入も下がるだろうし…美亜もまだ大学生活があと1年半くらいあるからね……」
「この家、広すぎるんだから、黒野君に住んでもらえば? 家賃を入れてもらえばいいじゃない?」
「ちょっと美亜ちゃん! 」
「いや、1つの案ってことで。ふふっ」
「美亜……いい考えね。黒野君、部屋ならいくらでもあるし、前に強盗が入ったし、女2人じゃ心細いでしょ。セシルは正直、役に立たないし…」
その場にいたセシルが、ふとこちらを見上げる。
セシルは何とも言えない、少し悲しそうな顔をしていた。
「ふふっ、もう~。聞いてたの?セシルは人に寄り添う生き方を選んだんだよね?」
私は笑ってセシルの頭を撫でた。
「……はい……考えておきます……」
優しい黒野君は、たぶん断らないだろう。
そんな気がした。
* * *
マーガレットおばあちゃんはママの事が大嫌いだ。
この事を打破できるのはママだけの力ではまず無理だろう。
「欲しいものは頭を使って力づくでも手に入れろ!」
龍星君に言われた言葉だ。
パパとママが再び結ばれる。
私が次に欲しいものはこれだ!




