第5話 作戦会議 黒野目線
2023年10月8日
昔は、花なんてどうでもよかったけど、最近は植物全般に興味が湧き始めて、スーパーや花屋で季節の花を買って、花瓶に飾ることもある。
今日も、どこかで花を買って帰ろう。その際、美亜ちゃんに選んでもらったら、きっと喜ぶだろう。
花壇には、日々草、ジニア、ペンタス、マリーゴールド、サルビアなどが規則正しく並び、色とりどりの花々が咲いている。隣には大きなコスモス畑が広がり、満開の花が秋の風に揺れていた。
「すごい!綺麗!最高!」
「花、好きなんだね?」
「花、大大大好き!!」
美亜ちゃんは嬉しそうにジャンプしながら喜んだ。
その無邪気な姿を見て、僕も自然と笑顔になる。
「そこに立ってみて」
美亜ちゃんをコスモス畑の前に立たせて、スマホのカメラで写真を撮ってみた。
もちろん、彼女の姿は写っていなかった。
もし写っていたら、それはまさに心霊写真だ。
それでも、カメラに美亜ちゃんの姿を収めたいという気持ちが強かった。
彼女もスマホを覗き込み、残念そうにうつむいた。
横を見ると、カフェがあり、ちょうど2人がけのテラス席が空いていた。花を眺めながらお茶が飲める特等席だ。
素早くリュックを置いて席をキープし、カウンターで飲み物を注文した。
「ちょっと見張っていて」
一応、美亜ちゃんに見張っていてもらう。
……意味ないだろうけど……。
先程、缶コーヒーのブラックを飲んだばかりなので、今度はアールグレイのミルクティーを、2人分頼んだ。
もちろん美亜ちゃんは飲むことはできないけれど、それでも2人分。
ミルクティーができて、席に運ぶ。
すると、美亜ちゃんは飛び上がって喜んだ。
「気持ちが嬉しいよ!」
ああ、よかった。
もし嫌味を言われたらどうしようかと内心ビクビクしていたけれど、そんな心配は杞憂だった。
「グッジョブ!」と自分に言ってみた。
席に座り、少し熱そうなミルクティーが冷めるまで待つことにした。
その間、美亜ちゃんは飲む真似をして、にこりと微笑んだ。
彼女の笑顔を見て、僕も自然と微笑み返した。
「ところで、鍵のことで聞きたいんだけど」
僕はスマホを耳に当てながら話し始めた。
こうすれば周囲の人に怪しまれることはないだろう。ただ、カフェで電話している人に見えるだけだ。
もっとも最近では、ワイヤレスイヤホンで電話している人も多く、独り言を言っているようにしか見えないこともある。
けど、街の風景としてはすっかり定着している。何なら声をあげて笑っている人だっている。
そう考えると、僕が美亜ちゃんと話していることも、そこまで怪しまれることはないのかもしれない。
「うんうん、あの鍵ね」
「すごい年代物だよね?」
僕はそう言いながら、鍵をテーブルに出してみせた。
細かい装飾が施されたその鍵は、いつ見てもカッコいいと思う。
「その鍵はね、パパの実家が改装される時に、ドアと門をイギリスから持ってきて、あの家に加工してつけたの」
「へ〜」
「この鍵はその元鍵よ。普段使っている鍵はコピーの方」
お金持ちのやることはやっぱり凄い、と僕は思った。
「それでね、さっき言った、アフリカ旅行に行く前にね、ママが古いジュエリーやコインをまとめてアンティークショップに下取りに出したの」
「なるほど」
「その時、家政婦のタエさんに頼んだんだけど、その鍵も一緒に紛れ込んでいて売っちゃったんだ」
「へ〜」
「それがわかったのは、私たちがアフリカに着いてから。パパは怒ってたわ。『あれは先祖から受け継いだ大切な鍵なんだ』って」
「それで、その鍵がアンティークショップに渡り、14年後に僕が買ったと言う訳か…」
「そう。私は祈ったわ。誰かが鍵を買って、鍵を開けて私の部屋に来てくれることを。そしたら、黒野君が鍵を開けて入って来てくれたのよ」
「なるほど…そういう経緯があったんだね」
「そう、しかも10年後から来たとか、私の声も姿も見えるなんて凄いよね!だから私、嬉しくて黒野君に取り憑いちゃったの」
「なるほどね」
「ふふっ、すごくない?この話!やっぱり、この鍵は魔法の鍵なんだよ。あとね、この鍵、流石に歯の部分は現代の仕様に変えてあるけど、元々はお城の鍵だったんだって」
「それはすごい!…と言う事は美亜ちゃんは王家の末裔なんだね。多分、その王家は魔法が使えて、その血を受け継いでいるんだよ」
「まあ…黒野君ってすごいロマンチスト♡」
「だよね?ハハハ」
「こうして幽霊になっても普通に会話できたり、祈りが通じて来てくれたり、不思議な事が起きているのは、魔法と言えるかもね」
「そうだよ、だって、夢の中で洋館が出てきて、その鍵を使って扉を開けたんだよ。起きたら、導かれる様に車を走らせて、洋館に向かったんだから」
「そう考えると本当に魔法みたいね」
「この鍵にまだ魔法が残っているとしたら……また過去に戻れるかな?」
僕は鍵を見つめながら言った。
「過去?……何で?」
「もし、家族みんなが生きている過去に戻れれば、セリーヌも、美亜ちゃん一家も全員救えるかもしれない!」
「どういうこと?」
「セリーヌの肝臓のことが、もう少し早くわかれば、病院に連れて行ければ治療して助かったかもしれないでしょ?肝臓は『沈黙の臓器』って言われていて、病状が身体には現れにくいんだ」
「もしセリーヌが生きていたら、パパが野生の動物を見にアフリカ旅行を計画しなかったっていう事ね。なるほど!」
美亜ちゃんは目を輝かせ、嬉しそうにそう言った。
「家族が生きている時代の過去に戻り、手紙をポストに入れるんだよ。セリーヌの肝臓の事を手紙に書いてさ。代筆するから」
「上手く行くかな?」
「美亜ちゃんしか知り得ない情報を盛り込めば、信じるしかないだろ?」
「うん、うん、確かに」
「でも、また過去に戻れるかだよね。あの時は、ものすごい深い霧が出ていて、なんかとても不思議な雰囲気だったんだよ。美亜ちゃんも『霧が晴れたら現代に帰れなくなるかも』って言ってたでしょ」
「うん。言ったね…」
「とりあえず家に帰ったら手紙を書こうよ」
「うん!」




