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第49話 空き巣 美亜目線

2015年8月


星降る夜を楽しく過ごし、自宅に帰ると家がめちゃくちゃに空き巣に荒らされていた。


お母さんに連絡したら、すぐにハワイから帰国した。


盗まれたのは高価な貴金属やブランド品、美術品など。被害は大きく、火災保険の家財補償を受けるために、警察の捜査は本格的に行われた。


要は“私が自作自演ではないか?”と言う疑いの目が向けられたと言う事だ。


空き巣の入った時間に「なぜ家を空けていたのか」という点は厳しく追及され、私は警察から繰り返し事情を聞かれた。


「誰と、どこに行っていたのか」


「外泊の許可はあったのか」


——そんなことまで、犯罪者の様にしつこく聞かれた。


黒野君の事もあるので、1人で山に行った事にした。


しかし、駅の防犯カメラに黒野君と一緒にいる姿が映っていたことで全が明るみになってしまった。


しかも、行き先はキャンプ場でも宿泊施設でもない、山の中での野営。


警察もお母さんも、当然のように驚き、激怒した。


その後、黒野君の両親も学校も交えて話し合いが行われ、「弁護士の下、今後は2度と会わない」という誓約書を書くことになった。



          誓約書



私、黒野元一およびスミス美亜は、今後一切、互いに個人的な連絡および接触を行わないことを、ここに誓約いたします。

本誓約は、保護者および担当弁護士の立会いのもと確認され、有効に発効するものとします。

なお、これに違反した場合は、相応の措置を講じることに同意するものとします。


2016年8月21日


署名:黒野元   印

   スミス美亜 印




相応の措置とは要はかなりの金額の罰金の事らしい。


「お互いに会ったら、誰が誰に払うのですか?」

と聞いたら「男側が全額払うに決まっているだろ?」

と警察に言われた。全く意味不明だと思う。


高校生の私達にとってこの誓約書はあまりにも重かった。


まるで、重大な犯罪でも犯した気分だ。


もう隠れてコソコソと会ったり連絡をしたりする事は不可能だろう。


私は、その場でずっと泣いていた。



         * * *



アルティス宛に1通だけ手紙が来た。



         美亜ちゃんへ


こんにちは。誓約書の内容を考えると、さすがに会うことは無理だと思います。


でも、僕は誓約書には時効があると勝手に考えています。


だから、その時が来たら必ず迎えに行きます。


受験勉強頑張ってください。


これ以上のやり取りは危険な為、とりあえず手紙はこれで最後になりますので返信は不要です。


それではまた…。


          黒野より





         2016年3月



夕霧大学医学部には合格した。


けれど、喜びはなかった。


あれだけ勉強したんだから、「当然」だとしか思えなかった。


聖英女学院の卒業式では、「合格した者」「不合格の者」で空気が分かれ、悲喜こもごもだったけれど、私は終始、何も感じなかった。


どうやら私は、感情を忘れた人間になってしまったらしい。


もちろん、あの日の出来事が原因だ。


そして、頭にくる相手は、言うまでもなく——お母さん、そして警察だ。


高校生で無断外泊(しかも野営)した私が悪いのは、もちろんわかっている。


でも、お母さんは「お金がない」と言いながら、私には我慢と苦労を押しつけ、自分はハワイでバカンス。


おそらく、そんな余裕はなかったはず。


……どこかの男に出してもらったに決まっている。



本当に頭に来たので問い詰めたが、お母さんは何も言わなかった。


どこで、誰と、何をしていたのか——まるで秘密のベールに包んだまま。


なのに、帰国したその日から、怒られたのは私だけ。


警察にまで事情を聞かれ、家ではさらに監視が厳しくなり、まるで「全部、勝手に出かけた私が悪い」と決めつけるように。


警察にも納得いかなかった。


お母さんのパスポートの出入国の記録を調べただけで、取り調べを受けたのは私だけだった。


……ずるい。


大人なんて、ほんとうにずるい。


でも私も、もう18歳。


少しずつ、この世界の仕組みが見えてきた。


理不尽だらけの現実にいちいち反応していたら心がもたない。


それだけははっきりしていた。


そんな中、今は黒野君の最後の手紙だけが唯一の心の支えだった。


絶対に迎えに来てね。


ずっと待っているから…。

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