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第32話 ごめんね 黒野目線

  2012年10月


ふとした瞬間に写真を眺めてしまったり、心に浮かんでは胸が締め付けられる。


特に「他の男性と付きあい出した」と想像した時には頭が変になりそうになってしまう。


あの、夏休み最後の日の出来事を回想する。


前日は胸が高鳴って、楽しみすぎて、ほとんど眠れなかった。


夏休み最後の日って普通は憂鬱なのに、まるで初日…いや、それを遥かに超える気分だった。


しかし、四葉新町駅の南口改札で、美亜ちゃんはいくら待っていても現れなかった。


1時間ほど待っただろうか。完全に嫌な予感がした。


その時、聖英女学院の制服姿の女の子に声をかけられた。


「こんにちは。黒野さんですか?」


「はい…」


「私、美亜の友人の結衣と申します。今日、美亜は来られなくなりました。お母様のご実家のおばあ様が、急に亡くなられたそうで…」


落ち着いた口調。


いかにも、育ちの良さそうな、上品な子だった。


そうか。そういうことだったのか。


真実だと思う。


その子の態度も、決して嘘をついているようには見えなかった。


僕がひとりで待ち続けることのないように、友達に頼み、わざわざ伝えに来てくれた。


その配慮は嬉しかった。


……なのに、なぜだろう?


どうしようもない疲労感が、胸の奥をじんわりと満たしていった。


感情が、まるでジェットコースターのようだった。


このまま、家に帰ってどんな気持ちで過ごせばいいのか?


再び会う約束をして“あのハイテンション”を味わうのだろうか?


そしてまた、いつの日か、地獄の底へ突き落とされるのだろうか?


帽子が飛ばされて、美亜ちゃんから郵送されるまでの数日間は精神が崩壊しかけていた。


部活ではミスばかりで、怒鳴られまくり、勉強も全く身に入らなかった。


また、突然あの様な最悪の精神状態になったら、その時、まともに学生生活を送れるのだろうか?


……正直、全く自信がなかった。


それに、美亜ちゃんに会う事を考えるたびに、

クリスマスパーティーで初めて見た、恐ろしい母親の顔もどうしても脳裏にちらつく。


最近はスマートフォンのGPSで美亜ちゃんの居場所を常に監視しているとも手紙に書いてあったし…。


これからも会うのは無理だろう…。


そもそも美少女のお嬢様が、ウジウジしてなんの取り柄もない、僕なんかを好きな理由が、全くわからなかった。


この不安定で先の見えない恋愛をずっと続けるのはもう無理だ…。このままでは永遠に心の平安は訪れないだろう。


恋愛経験なんてこの1回のみだけど、こんなにも辛いものなのか…。


こんなにも想っているのに。


それなのに…。


もういいや…。


この恋、手放そう…。


そう思ったら、気が変わらないうちに、すぐに手紙を書いていた。


恋愛も大事だけど、今は自分の学校生活の方を優先させなきゃいけないんだ…。


本当にごめんなさい。


美亜ちゃんにも辛い思いをさせてしまったけど、ここで一旦ピリオドを打つ事は間違いではなかったと思う。


美亜ちゃんから、もらった手紙の最後にはこう書いてあった。



そして、いつかまた偶然にでも、どこかで笑顔で会えたらいいな、なんて思っています。


さようならではなく——ありがとう。


心をこめて。


         美亜より



この言葉には本当に救われた。


この恋は終わってしまったけど「思い出として大切に心の中にしまっておいていいんだな」って思えたから…。


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