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第30話 エアメール 黒野目線

     2012年7月


中学生最後の夏の大会が終わった。


僕の背番号は11。チームの中では、2番手のリリーフピッチャーという立ち位置だった。


結果は——4回戦敗退。


そしてその4回戦で、僕が打たれてサヨナラ負けを喫してしまった。


マウンドの上で、悔しさが込み上げてきて、涙が止まらなかった。


でも、野球未経験で中学から始めた僕が、ここまで成長できたことは誇っていいと思う。


これも全部、兄さんと、そして顧問の林田先生のおかげだ。


最初は怒鳴ってばかりで苦手だった林田先生。

だけど、今はわかる。口がめちゃくちゃ悪いだけで、根は優しい。ちゃんと選手一人ひとりを見てくれる人だと、心から思えた。


これからは、いよいよ受験勉強に専念することになる。でも、体がなまってしまわないように、ランニングだけは続けようと思っている。


それに——高校に行っても、きっと野球は続けるつもりだ。身長は180センチを超え、体格も一気に立派になった。球速も上がってきて、まだまだ自分は伸びる。そう思えるようになった。


高校野球は、中学とは比べものにならないほど注目度が高い。もしかしたら、美亜ちゃんに、かっこいいところを見てもらえるんじゃないか——そんな淡い期待もあった。


一方、強豪校に特待生として進学した兄さんは、2年生になった今、伸び悩んでいるらしい。

チーム内の競争は想像以上に厳しくて、ベンチ入りすらできていないという。


だから、僕はもし仮に推薦の話が来ても、多分断ると思う。強豪校でベンチを温めるより、そこそこ強い偏差値60くらいの普通高校で、しっかり試合に出たい。試合に出られなきゃ、野球なんて面白くないからね。



         黒野君へ


こんにちは、美亜です。


こっちはイギリスの夏らしく、涼しくて気持ちの良い日が続いています。おばあちゃんの家はコッツウォルズにあって、朝は鳥の声しか聞こえません。石造りの家々や庭のバラがすごく綺麗で、まるで絵本の世界の様です。


今回はお父さんと2人で来ました。実は、あんなに怖くて乗れなかった飛行機に、再び乗れる様になったんです。


おばあちゃんと同い年の従姉妹のメアリーと、3人でピクニックに行来ました。丘の上で紅茶を飲みながら話していたら、自然と恋バナに。


メアリーには彼氏がいて、普段どんなデートをしてるか教えてくれたました。


それで、私のことを聞かれて、ちょっと照れながら「文通してる人がいるの」とだけ言いました。


「文通?何それ?会わないの?」って聞かれて、「会えない事情があるの」って答えたら、おばあちゃんがすぐ「レイコのせいね」って。


「お母さんにGPSで監視されている…」少しだけ、その話をしたらメアリーもおばあちゃんも口を揃えて、「そんなの異常すぎるわよ!小学生じゃないんだから」って、怒っていました。


私もそう思います。せめて、夏休みの間に1回だけでも、会えませんか?お母さんには絶対にバレないようにします。


写真も同封したから見てね。イギリスの焼き菓子も気に入ってくれるといいな。また返事ください。


         美亜より



——この手紙には、正直戸惑った。


封筒に入っていた写真には、コッツウォルズの美しい風景をバックに立つ美亜ちゃんの姿が写っていた。


石造りの家々、緑の丘、花の咲く小道。


そのどれもが絵葉書のように綺麗で、でも、それ以上に、美亜ちゃんが綺麗すぎた。


スラリとした背の高さに、小学生の頃のあどけなさはもうなかった。まるで雑誌から出てきたモデルのようで、僕には現実感がまるでなかった。


「本当にこの人が、僕とずっと文通してくれていたの?嘘だよな?」


そう思った瞬間、胸が苦しくなった。


そして、不安がこみ上げてきた。


僕はいまだに、女子とまともに喋れない。


それどこか、中二病で悪化しているくらいだ。


クラスの女子と話すのは緊張するし、正直、お母さん以外の女性とは何を話していいのかすらわからない。


担任の安田先生(30歳くらい)でさえ、ぎこちなくなってしまう始末だ。


そんな僕が、今の美亜ちゃんに会ったら——


幻滅されてしまうんじゃないだろうか?


がっかりされて、もう会いたくないって思われるんじゃないか?


それ以前に、僕のどこがどういいのか?


改めて僕を見たら、一気に現実に引き戻されるんじゃないか?


そんな不安が、頭の中に根を張ってしまった。


会いたい。


だけど——怖い。


できれば、もう少しだけ先延ばしにしたい。


このまま理由をつけて、会わない選択をしてしまうかもしれない…。


そのくらい、怖かった。


手紙を胸にしまいながら、そんな自分が、少し情けなく思えた。


けれど、3日間悩みに悩んだ末に、ようやく決断した。


会おう。


等身大の僕を、見てもらおう。


カッコつけたりしない。


背伸びも、しない。


それでダメなら……もう、仕方ない。


そう思えるまでに、少しだけ時間が必要だった。


そして、手紙を書いた。




        美亜ちゃんへ


こんにちは。


イギリスの焼き菓子は、母と紅茶を飲みながらいただきました。母も美亜ちゃんの手紙に興味津々なのですが、詳しい事は言っていません。


日本の焼き菓子と違って甘さは控えめなのに、小麦の香りが高くて、味わい深かったです。


写真はそのままポストカードにしたいくらいでした。


美亜ちゃんがあまりにも綺麗になっていて「なんで僕なんかと会ってくれるのか」と思ってしまって…。


実は、3日も考え込んでしまいました。


だから、ぜひ会いましょう。


お母さんとの兼ね合いもあるでしょうから、待ち合わせ場所や時間は美亜ちゃんにお任せします。僕は夏休み中、部活も終わったので、とりあえずいつでも大丈夫です。よろしくお願いします。


          黒野より



手紙を書いたら、異常なくらいテンションが上がりっぱなしだった。


こんな風になってしまう自分の単純さにおかしくなって1人で笑い、さらにテンションが上がると言うループに入ってしまった。


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