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第22話 合格発表 美亜目線

2010年 1月16日 土曜日


年が明けると本格的に寒くなってきた。窓から見えるプラタナスの並木や森は葉を落とし、枝だけが午後の冷たい風に晒されている。


黒野君の事はどうしても考えてしまう。


今でも大好きだからしょうがない。


私の電話番号やメールはクリスマスカードで教えているので、しょっちゅう携帯電話を確認してしまうのが本当に辛い。


全然かかってこないけど…。


まあ、普通かけないよね?


あんな事があったら…。


「共学じゃなくて女子校でよかった」って言ってくれたので、私たちは両思いなんだと思う。


だから、黒野君も今頃すごく苦しんでいるのかなぁ?


…本当にごめんなさい…。


思わず心の中で謝ってしまった。


でも、私は諦めた訳じゃない。


この世によみがえらせてくれた恩人で、あの時に「他の人のことは絶対に好きにならない」って約束したから。


今は会えないけど、そのうち…。



もう少しで中学受験だ。


第1希望は聖英女学院中学校、私立のミッション系の中高一貫で、この辺では、お嬢様校として知られている。


模擬試験で常にA判定だったので、落ちる気はしないけど、油断は禁物だ。


第2志望は上星館中学校。こちらの方が学力的には上だが上星館もA判定だった。


上星館は理系に強く、共学の私立校で、医師を目指している私としては上星館に行きたかったけど、お母さんが許してくれなかった。


理由はよくわからない。共学だから?


学費が高くてブランド的には聖英女学院の方が上だからかな?


それにしても、なぜ私のこと、なんでも勝手に全部決めるのだろう?


最近の呼び方は「パパ、ママ」ではなく「お父さん、お母さん」に変えた。


中学生になったら、その様に呼ぶように言われていたけど、あの事件の次の日から変えた。


自分の中のささやかな反抗だった。


次の日「お母さん」って呼んでみた。


「何?」とだけ言ってニヤリと笑った。


その時の顔を思い浮かべるだけで、本当にムカついてくる。


お父さんとの会話は基本的に英語なので「お父さん」と直接呼ぶことはないけど、前みたいに甘えるのはもうやめた。


少しうろたえているようだったけど、お母さんの言いなりのお父さんにも嫌気がさしていた。


なぜ、大きい医療機器メーカーの社長なのに、家では専業主婦のお母さんに頭が上がらないのか?本当に意味不明だ。



      2010年2月4日 木曜日 



今日は、ついに聖英女学院の合格発表の日。


結果は学校の掲示板か、インターネットで確認できる。


朝から、ずっと落ち着かない。


受験結果には自信があったけれど、それでも「もしも」という不安が拭えない。


お母さんは朝からそわそわしていて、「絶対に合格よね?」とプレッシャーをかけてくる。


「そろそろ時間ね」


お母さんのその一言で、私はパソコンの前に座った。タエさんも、少し離れたところで静かに見守っている。


受験番号を入力して、ログインする。


画面が切り替わるまでの数秒が、やけに長く感じられた。


そして、そこに表示されたのは———。


「合格」


「やった!」 


私は、息をのんだ。


お母さんが画面を覗き込むと、ようやく満足したように大きく息をついた。


「当然よね、誰のおかげ?」


そう言いながら、お母さんは私の頭を優しく撫でた。


なんなの?


今の言葉…。


そして、なぜ嫌味を言った後に頭を撫でるの?


複雑な感情が溢れ出し、涙が出てきた。


お母さんは満足そうに頷きながら、すぐに携帯を取り出してママ友グループにメッセージを送り始めた。


後ろからそっと覗いてみる。


「美亜、無事合格しました。みなさん、ありがとうございました ^_^ 」


まるで自分の手柄のような報告文。


いちいち私をムカつかせるが得意だなぁ。


なぜ、こんな風にいつも冷たいのだろう?


自分の娘が可愛くないのかな……?


「よかったわね、美亜さん」


タエさんが、そっと微笑んでくれる。


その笑顔が、何よりも優しくて、ほっとして、この前みたいに抱きつきたくなった。


「ありがとうね、タエさん」


「美亜さん、本当に頑張ったものね」


「……うん……」


小さく頷いて、私はパソコンの画面を閉じた。


これで、私は春から聖英女学院中等部の生徒になる。


合格して初めて思った。


私は聖英女学院じゃなくて、上星館に行きたかったんだって事に。


実は3日前に上星館も合格していた。


もしも、そっちに行けていたら全く別の未来があり医学部の受験にも有利だったかも知れない。


ふと、今まで通っていた 紺野インターナショナルスクールのことが頭をよぎる。


幼いころから通い慣れた学校。先生たちはかなり自由な教育をしてくれたし、クラスメイトとは英語で話すのが当たり前だった。


みんなフレンドリーで、細かい規則に縛られることもなくて、居心地がよかった。


それが今度は、ミッション系のお嬢様学校。


制服に、厳格な校則。そして女子校。


「私、大丈夫かな……?」


そんな不安が胸をかすめる。


もう、決まってしまったものはしょうがない。


行けばきっと楽しいよね?


鏡の前で笑ってみた。


「うん!」


私はピアノの前に座った。


フォーレの《シシリアーノ》を弾く。


その後は、セリーヌを自室に連れて行き、黒野君の写真を見る。


不安になった時には、こうすれば元気を取り戻す事ができる。

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