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第20話 クリスマスパーティー③ 美亜目線

  2009年11月28日 


「そろそろ帰ろうか?」


「うん」


私達はアルティスに帰るために歩き出した。


「今年が終わって、あと3か月したら卒業だね、小学校。黒野君はアルティスもやめちゃうんでしょ?」


「うん、勉強や部活も忙しくなるからね」


「部活、何部に入るの?」


「野球部」


「えー!意外過ぎる!なんで、なんで?」


「…そんなに以外?…野球を見るのが好きだからチャレンジしてみたいんだ。あと、僕…あまり元気ないでしょ?」


「うん、全然元気ない!ハハハ」


「このままじゃ駄目だと思っているし、自分を鍛えたい気持ちもあるんだ」


「すごい!試合出られる様になったら応援に行きたい!甲子園目指して頑張ってね!」


「…中学野球に甲子園はないけどね…。でも、高校になったら目指すよ」


「そうなんだ。頑張ってね!」


「美亜ちゃんは中学受験なんだよね?どこを受験するの?」


「聖英女学院。別に行きたい訳じゃないけど…ママが勝手に決めているの…」


「…聖英女学院…よかった…」


「えっ?」


「……いや、なんでもない…」


「よかったって何?」


「……」


言いたい事はわかった…。


多分。


共学だったら私が他の男の子との接点があるのが嫌なんだ。


でも、あえて意地悪して聞いてみる。


「意味不明なんだけど?」


「えっと……美亜ちゃんが共学で他の男の子と話しているのを想像するだけで…なんか…」


もう、その答えだけで十分だった。


「嬉しい!」


思わずまた手を繋いでしまった。


黒野君はすごく照れている。


「でも、受かりそうなの?」


「多分大丈夫!」


「すごいね」


「へへへ」


実際に模擬試験では常にA判定だった。正直落ちる気がしない。


「ねぇ、知ってる?『夢』って、2つのまったく違う意味を持ってるんだよ」


「うん」


「眠っているときに見る不思議な世界と、将来こうなりたいって願う、自分だけの未来。ぜんぜん違うのに、同じ『夢』って言葉で呼ばれてるの不思議だよね?」


「確かに」


「それにさ、日本語で『儚い(はかない)』ってあるでしょ?あれ、「にんべん」に「夢」って書くの。人が見る夢は、すぐに消えてしまう。そんな意味を背負ってるだ」


「にんべんに夢で儚いって読むんだね」


「うん。英語でも「dream」って、眠る時に見る夢も、将来の夢も、どちらも同じ言葉。フランス語もドイツ語も一緒なの。つまり、どんな国でも「夢」は、“今ここにないもの”として語られてるのかもしれないね?」


「…へー」


「だからなのかな。私は、自分の“夢”をあまり人に話したくないの。口にした瞬間、夢じゃなくなってしまいそうで。誰かに知られたとたん、魔法が解けてしまいそうで」


「うん」


「でも、黒野だけには特別に教えてあげる。私の夢は医師、ピアニスト、家庭円満、街を花でいっぱいにする事、最後に…素敵なお嫁さんになる事だよ」


全て幽霊の時に“鏡湖”で語った夢だ。


黒野君が一緒なら全てが叶う気がしたからだ。


だから、普段人に言わない夢の話を全部語った。


「黒野君の夢は?」


「…わからないな…」


…なんか黒野君らしい…。


「いつか見つかるといいね?」


「うん」


「さっき私、携帯番号の書いてあるクリスマスカード渡したらから、黒野君の家電(いえでん)も教えてよ」


「うん0489——」


私は携帯電話を出して、黒野君の家電を登録した。


これで2人はアルティスから離れても繋がる事ができる。


「ありがとう!嬉しい!」


思わず再び手を繋いだ。


アルティスが見えてきた。


プレゼント交換の時間には余裕がある。


その時、私は目を疑った。


「えっ!?」


ママのポルシェ・カイエンがすでに入り口付近に停まっているのだ。


19時って言ったよね?


あまりにも早過ぎる!


しかも……こっちを見ている。


慌てて手を離す。


しかし、遅かった——


車から降りて、鬼の形相でこっちのに向かってくる。


ママは乱暴に私の髪の毛を掴んだ。


そして、車の中に引きずり込もうとする。


「痛い!!やめて!放して!」


抵抗したら、今度は首を絞められた。


「……ママ……苦しいよ……」


「…ちょと…」


黒野君がママの手を振り解こうと応戦する。


「あんたも乗りなさい!!!!」


しかし、一括され2人とも車に乗せられてしまう。


…怖すぎだ…。


「どう言う事か説明しなさい!!!!」


「2人でちょっと出掛けてた…だけよ…」


「手を繋いで!?」


「ちょっと繋いだだけだよ…そんなに怒らないで……」


「携帯出しな!!美亜!!あんた、名前は黒野だよね!?」


呼び捨てだ。


胸が締め付けられる。


…ごめんね…黒野君……。


「そうです」


ママは携帯電話でさっき入力したばかりの黒野君の電話番号を消去した。


「あんたの携帯は?」


「持ってません」


「本当?」


「本当です……」


「……もう2度とうちの子に近づかなで!!!わかった!?」


「……」


黒野君を睨みつける。


すごい迫力だ。


「誓約書……書かせようかしら?」


「もうやめて!!私が誘ったの!!黒野君を責めないで!!……お願い……」


私は号泣しながら叫んだ。


「誘った!?あんた達まだ小学生なのよ!!わかってるの!?」


「はい…すいませんでした」


「あんたと美亜は住んでいる世界が違うの!!!」


「住んでる世界は……同じです」


「……」


黒野君が一言で論破し、ママを睨み返す。


思っていたより気が強い。


ママは何も言えず黙り込んでいる。


しかし、余計に火に油を注いでしまった様だ。


「とにかくうちの子に近づかないで!!早く出てって!!このまま帰るから!!」


「はい…わかりました…美亜ちゃん…今は無理だけど…大人になったら必ず…」


「早く出てって言ってるでしょ!!!」


そう言うと黒野君は車を降りて去っていった。


ママは車を乱暴に走らせ、そのまま家へと向かった。


私は車の中で泣き続けた。


コイツ、本当に大嫌い!!


今日の事がなくても、コイツとはいずれ大きな溝ができた事は間違い無いなかっただろう。


そんな中、プレゼント交換の可愛い猫のクッキー缶はどうなったのだろう?


黒野君はキリコ先生にどう説明したのだろう……。


もしかしたら、問い詰められてひどく怒られてしまったかも知れない。


色々考えると一層泣けてきた。


ママは相変わらず無言で荒っぽい運転を続けている。


私…もう…本当に立ち直れないかも…。


ママは運転しながら、私の頭を撫で続けた。


とても怖い顔で…。


こんな私のことを「可愛い」って言ってくれた人達…ごめんね。


いつも無邪気で天真爛漫な私は今日で卒業だと思う…。

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